或るスライムの独白 第2話

「……他にも石鹸などを包装していた臭いの付いた紙や地図等に代表される合成紙ストーンペーパーなどもリサイクル可能で、古紙リサイクル業界としても今以上のエコスライム活用を期待しているぅぅぅぅあぁぁぁぁ!!!」


 我は高貴なるショゴススライム。名はまだ無い。わけあって駄犬の小屋に住んでおる。

 また駄犬が何やら騒いでおる。ふんっ、我を下等種族のレッドスライムなどと同等に扱おうなどと考えておるに違いない。我ほどの高貴なるものをあのようなモノと一緒にするなどと本来であれば不敬でしかない。

 だが我はまだ生まれたばかり。口惜しいが今はまだそれほどの力は無い。ゆえにこうして英気を養っておるのだ。口惜しいがな。

 ム、駄犬が何やら我をじっと見ておる。我の高貴ぶりにひれ伏すがよい。

 フハハハハハ!!

 おっと、笑おうとして身体を揺らしてしもうたわ。まだ制御が上手く出来んな。やはり今しばらくは駄犬に世話をさせるとしよう。


「…お前はどうしたい?探索者協会に通報して保護してもらうか…?」

「もしくは然るべき行政機関に…どこが然るべきなのかはまだ分からないけど、お前がそれを望むんなら俺もきちんと調べる。」

 ンン?駄犬は一体何を言っているのだ?

 そんなもの、お前が我を世話するに決まっておるだろうが。今更何を言っておるというのだ。まさか…我の高貴さにあてられて恐れ多い、と……?

 よく分からんが、駄犬はハァァ…と大きくため息を吐いたかと思うとっ、んんっ♡ そっ♡ それはダメじゃと言うておるだろうがっ♡♡


 はぁっ…はぁっ……。こやつ、またも我を撫でよった。いきなりやめろと言うておるじゃろうが!びっくりするじゃろ!!我にも準備ってものがあるんじゃから急はやめぃ!


 肩で息をしながらも駄犬を強く睨む。我ほどの高貴なるものの視線に駄犬はすくみ上っているようだ。


「もういっその事、このままうちに住まわせてしまおうか?」


 なっ!?こ、こやつ……。まさか我を追い出そうと画策しておったのか!?

 駄犬……貴様、鬼か!?生まれたての高貴なる我を捨てようとしているのか!?

 あまりの衝撃と怒りに、たまらず我を忘れて怒り狂ってしまった。

 我が暴れまわるその様を駄犬が目を見開いて見ておる。…どうじゃ、恐いか?


「えっ!?お前俺の話してる内容がわかんの!?」


 えっ!?わかってなかったのか!?

 我をどこまで愚弄すればこの駄犬は済むのじゃ……。

 怒りでワナワナと身体が震えるのを抑えられない。

 世が世なら貴様打ち首じゃぞ!!


 我が大人の対応で怒りを暫しおさめた後も、駄犬は我に色々と話し掛けてきた。非常に癪な話だが我が言葉を理解していないと思っていたようで、言語コミュニケーションが取れる事に大層喜んでおった。ついでに撫で繰り回されてまた怒り狂ったがの。



「マジでわかってるみたいだな。すげぇじゃん」

 フンッ、当たり前じゃ。その辺の下等種族と一緒にするでない。


「探索者協会に通報する」

 バカバカしい。

「然るべき行政機関に保護してもらう」

 我の世話は貴様の役目じゃろうが。

「この家でこっそり俺と住む」

 一緒に住むのではなく、世話をさせてやるのだーー!!!

 はっ!またも怒りで暴れまわってしまったぞ。我、反省。


「…すげええぇぇぇぇぇ!!!」

 なぜか駄犬は急に立ち上がり、我を両手で持つと踊り始めよった。

 やっ、やめろっ!そんなに我の身体を揺らすな!あっ♡ だめぢゃとっ♡ なでるなっ♡ ……んんんぁぁあああぁぁ♡♡♡!!!



◆◇◆◇


「よーしよしよし、よーしよしよし」

 アッ♡……アヒッ♡……そこ気持ちいいぃぃ♡♡ もっとぉ……♡


 ……んはっ!!……いま我、変なこと言った?

 い、いや気のせいじゃと思おう。我の精神衛生の為にも。そうせねば恥辱のあまり自死してしまいかねん何かを言ったような気がする。うむ、やはりこのまま忘れよう。



「よし、それじゃぁ正式に同居人となったところで、お前に名前を授けよう。ペットであり同居人であるお前にいつまでも黒スライムと呼ぶのも、な」


 高貴なるショゴススライムである我を愛玩動物扱いじゃと?

 あーーキレそ。我キレそうじゃわ流石にコレは。具体的には駄犬が土下寝しても許せないくらいにキレるわ。

 見よこの身体を。あまりの怒りに打ち震えとるじゃろ?なぜか分かるか?貴様が我を怒らせたからこうなっとるんじゃぞ?その辺り分かっておるのか?

 そもそもが、だ。黒スライムとはなんじゃ。我は高貴なるショゴススライムだぞ。駄犬やレッドスライムのような下等種族ではなく、高貴なるショゴススライムだぞ。


 とはいえ、名が無いのは色々と困る。駄犬に命名されるのは甚だ不愉快だが、名によって力を得るのも事実。いずれは名を破棄するにしても、今の我にはその力は無い。悔しいが暫し伏龍となるしかあるまい。

駄犬は我の打ち震える怒りに恐れを抱いたのか何やら箱を見ながら探し始めたようだ。時折アホウ面を浮かべながらうんうんと唸っている。そうじゃ、我ほどの高貴なる者に命名するのだから、貴様の足りない脳で十分に考えるがよい。駄犬の生涯で最も栄誉ある事なのじゃから、じっくりしっかり感がるがよいぞ。

カッコイイ名前にするのじゃぞ!具体的にはブリュンヒルデとかそんな感じが我は好きじゃ!



「だめだ、名前が全然思いつかん。もう名前クロでいい?」

 ………は?一瞬意味が分からんかったぞ。急に言い出したから何かと思ったが、もしかして我の名の事を言ったりしたか?

黒色だからクロ?舐めとるのかこの駄犬は?貴様はニワトリ並みの脳すら無かったのか?高貴なるショゴススライムたる我を、黒色だからクロ?完全に舐め腐っとるじゃろ?だいたい、我は黒は黒でもただの黒ではない!混じりっけなしの漆黒じゃ!そんじょそこらの黒とは違うとわかっとるのか貴様はぁ!!



「よし!それでは只今をもってお前の名をクロと命名する!」

 駄犬が立ち上がり、そう言った瞬間、我と駄犬の間にビビッ!と衝撃が走った。

 あ……これはオワタじゃ……。


「これは早くも家族の絆が生まれたのか!?」

 違うわぁぁぁぁ!!貴様が我に対して命名宣言をしてリンクされてしまったんじゃああああ!!!

 ……こんの大馬鹿モンがあああぁぁぁぁぁ!!!!!

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