VI

あの日から父は変わってしまった。今にして思うと、父はあの頃、鬱状態だったと思う。

今でも苛烈なものの言い方をする母だけど、あの頃父に対し発する鋭い言葉が、父の心をどんどん抉り取ってズタズタにしていったのだと思う。そして、誰にも相談できず、毎日罵られ、切迫感と焦燥感で精神の平衡も保てなかっただろうことは今になってわかる。


懲役は免れたものの殺人未遂で逮捕されることに僕がしてしまった父には、母との離婚以来会わず終いだった。教えてもらった連絡先の住所に独りで暮らしていたけど、間もなくしてひっそりと朽ちるように死んでいったと聞いた。


父と話したのは、警察から釈放され、家から出ていくために自分の荷物をまとめに帰宅した時が最後だ。

「許してほしい。レイジ。パパは、すっかりおかしくなっていたとはいえ、最愛の人を手にかけようとした。

極限状態にあっても、いかに誇り高い行動ができるかどうかが人間性だと思ってきた。どんなに追い詰められても恥じるようなことはしないつもりだと。

でも、パパは狂気の中で最も卑しいことをしてしまった。このことを一生後悔しながら生きる。パパはもうお前の人生から姿を消すけど、絶対に幸せになってほしい。そして、

ママを支えてあげて。今でもパパはママのこと大好きだから。もう合わせる顔ないんだけど・・・」


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