II

パパはすっかり変わった。この災厄が深刻になり始めた頃、パパの会社は、ネットワーク越しに仕事ができるようにして、家にいながらにして出勤したのと同じように仕事をするようになった。パパに自分の部屋はないから、ウォークイン・クローゼットや空いてる時の僕の部屋を転々としながら、ネット会議に参加する空間を確保したりして、窮屈な思いもしながら仕事をしていたんだと思う。

ママも毎日一緒に家にいるようになった。会社の営業で国内外を問わずいろんなところを飛び回っていたママにとって、自宅、そしてその周辺のごく狭い範囲に留め置かれることは相当なストレスだったと思う。そのイライラをパパにぶつけているのが僕の勉強部屋にまでよく聞こえた。


色々な会社も変わったんだと聞いた。これまで家電を作っていた会社が医療用マスクを主製品にするようになったり、自動車部品を作る会社から医療機器を作る会社になったところもある。お酒を造っていたところも今は製薬会社の傘下に入ってすっかり医療用品の会社になったところも。

パパに言わせると、「医療の体制を維持することも国防の一つだから、今回みたいな危機の時に弱点がわかって反省したりするのは必ずしも悪いことではない」のだそうだけど。業界再編という言葉もその時言ってたっけ。


変わったのは学校も同じだ。ネットを使ったオンライン授業への挑戦が、この災厄をきっかけに(うまくいかないところも反省点もたくさんあったそううだけど)定着し、生徒がみんなキャンパスに集まって授業を受けるというスタイルもだいぶ少なくなった。もちろん、入学式だとか、みんなで一斉に集まる行事は復活したし、大講堂で受ける講義もいくつか元に戻ったし、そもそも理科の実験だとかPEの授業は一堂に会さないと無理があると思う。


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