第4話

 孝太郎は大きな魔剣を背負って歩いていた。

 その足取りには疲労があからさまな疲労が見えた。


 今は緑の燐光は現れていない。

 それもそのはずである魔剣には弱点があるのだ。

 それは魔力の限界。刻まれた魔法は壊れるまで使える。

 だが、内包する魔力は使うたびに消費されるのだ。


 それを回復するにはその魔剣特有の方法を行わなければいけない。

 例えば、世間的に聖剣とみなされる”エクスカリバー”という剣は鞘に収めることによって徐々に回復する。

 ”ディアブルソード”も例外ではなく先の戦いで魔力を消費しているのだ。

 魔剣によっては二度と魔力が回復しないものもあるが”ディアブルソード”は回復できる。


 それも比較的簡単な方法だ。

 時間経過。魔力を使わない時間が経てば経つほど魔力が回復する。

 孝太郎が”ディアブルソード”を使う理由も大半はそこにある。

 時間経過のみで回復するのはそれほどまでに楽なのだ。

 ちなみに残りの理由としては使える魔法が気に入ったからとたまたま手に入ったからだ。

 ふと、幸太郎は足を止めた。


「はぁ、もう来たのか」


 と大剣を構える。薄暗い道の先からゆっくりと人型のシルエットが近づいてくるのがわかる。

 それはズシンっズシンっと大なを音を立てて歩いていた。

 それが少し近づいてそれが人型のシルエットをしているが普通の大きさではないと気づいた。


「ゴーレムか?」


 それは莉央が使うようなゴーレムと酷似していた。

 だがしかし、莉央の使っているゴーレムとは決定的な違いがそれにあった。


 右腕を覆うような大きな鉄の塊。

 機械的で破壊的な要素とは裏腹に美しくデザインされた彫刻美。

 全てが金属ででいているわけではなくところどころに木が使われていた。

 その木もまた破壊的という要素を徹底的に排除しようとしたのだろうかロココ調のデザインがされていた。


「へっ……面白いもん持ってるな」


 孝太郎が喜ぶ。何故なら、幸太郎は魔剣使いだからだ。

 魔剣使いというのは一種のコレクターでもある様々な魔剣と呼ばれる魔法的な武器を集めてお気にいりだけを使用する。


 一般的にそういう人物が多いのだ。

 そして、ゴーレムのようなものが持っているものも魔法が込められた魔剣の一種である。

 ただの魔剣ではない。誰の目から見ても芸術的だと言えるような美しい魔剣だ。


 磨き上げられた砲身にロココ調の持ち手。その鉄の塊はライフルと呼ばれるものだった。

 単発のボルトアクション。鉄の部分は多いがよくよく見ればそこにもロココ調の彫刻が。

 そして、なんといってもこの銃の魅力はその大きさであろう。


 ライフル調の銃なのに銃身が人間の腕よりも大きい。

 これではライフルというより大砲と言った方が正しいだろう人間から見れば。


 孝太郎を発見したらしいゴーレムはライフルを軽く構えると発射した。

 ドゴンッと鈍い火薬音と着弾音がほぼ同一に聞こえる。


 どうやら威力は高いが命中率は悪いらしい。

 幸太郎は構えを外さずに魔法を開放する。


『闇より出でし、闇より深き者よ、我に従い、永久の盟約を』


 この魔剣を発動する際に必要な常套句。これがなければ発動しないものだ。

 緑色の発光が幸太郎の周りを周り始める。

 これが魔力。幸太郎の魔剣の1つめ目の魔法は自分の魔力を具現化、可視化する。


『闇より出でし、闇より深き者よ、二ツ目の楔を解き放て』


 さらに詠唱。魔剣の能力は一回の詠唱で一つしか開放できない。

 緑色が幸太郎の周りだけ活性化する。


「疾っ!」


 肉体強化。それが幸太郎の魔剣の2つ目の魔法。

 ゴーレムとの距離を少し詰める。

 ドゴンッドゴンッ自動充填できるのか移動中にも何発か飛んできた。

 ゴーレムまであと10mといったところで剣を振るう。


「ふんっ!」


 あまりカッコよくない掛け声だが大剣を振るっているには頑張ってる方だろう。

 剣から鋭利な緑色が生まれゴーレムに向かって飛び出した。

 魔力を飛ばしたのだ。これが幸太郎の標準的な戦い方。


 ドゴンッ。緑の剣が向かっているのにもかかわらずゴーレムはライフルを発砲した。

 孝太郎の足元に大きな弾痕が入った。

 それと同時に緑の剣がゴーレムの懐に入りスパッとあっけなく切れた。


「はぁ?」


 胴体を真っ二つにされゴーレムは魔法が溶けたのかただの土くれに戻ったライフルとともに。


「あれ、あれ、あれれ?」


 あまりの事態に幸太郎は動揺する。素晴らしいと思っていた魔剣のライフル。

 それはただの土くれだった。「ちぃ、偽物かよ」と悪態をつき楽な姿勢になる。


 ズシンっ。

 嫌な音がした。

 何か大きな人型が向こう側から近づいてくる音。


「おいおい……やめてくれよ」


 ズシンっ、ズシンっ、ズシンっ。

 蠢く黒い大きな影、ゴーレム。それは一つではなかった。

 1体2体3体………とにかくたくさん歩いていた。

 緑色に煌めきながら大剣を再び構える。


「疾っ!」


 たくさんの軍団にも恐ることもなく魔法を使う。

 肉体強化で強靭になった肉体を駆使し距離があったゴーレム軍団に近づいた。

 走っている途中、気がついた。先ほどの魔剣のライフルが土くれになったことに。


「まじか……」


 ゴーレム軍団の標準装備は例外なくあの偽魔剣のライフルだったのだ。


 ドゴドゴドゴドゴンっ!

 決して太鼓を叩いている音ではない、無数の発砲音と着弾音が一斉に鳴ったのだ。

 ヤバイと感じていた幸太郎は奇跡的に回避運動することができた。

 刹那前まで孝太郎がいた場所が無残にも抉れる。


 ドゴドゴドゴドゴンっ!

 間髪もなくただただ人の腕ほどもある大きな弾丸が容赦なく辺り一帯を破壊する。


「はぁあああっ!」


 孝太郎は雨のように飛び交う銃弾をいとも簡単に抜けると剣から無数の緑の刃を発射した。

 足が鈍く密集したゴーレムにとってそれは避けられるものではなかった。


 シューティングゲームのボーナスステージのように多くのゴーレムが緑の刃によって切断された。

 しかし、魔剣にも魔力の限界がある。十数体ほどを切断したがその分魔力を消費してしまう。

 さきほどの戦いで多めに使ってしまったのが仇になったのだ。


「はぁ、魔力切れが近い。使うしかないか……」


 銃弾の雨は止んで、今ではドゴドゴとたまに地面がえぐれるくらいだ。

 そもそも命中率が低いため孝太郎に当たるような弾は皆無だった。


「紀ノ国流剣術壱之太刀”烈風”っ」


 緑色の光を靡かせるほど速く孝太郎は魔剣を振るった。

 紀ノ国流剣術……それは魔法と組み合わせて使うことを前提とした剣術で。


 その極意は剣を振るうことにある。


 剣を振ると同時に魔法を繰り出し様々な技を扱う。

 その紀ノ国流剣術の中でも特に修練を積んだ者に与えられる七太刀と呼ばれる7つの技がある。

 孝太郎が用いたのはその七太刀のうちの一つ。

 剣を高速に振るうと同時に強化系の風属性魔法を使い衝撃波を作るものである。


 キュィィィイイイン。

 孝太郎の剣から非常に高い音が鳴り遠くにいたゴーレムたちが一撃で粉々に破壊された。


「全部、倒したか……痛っ!!」


 紀ノ国流剣術には副作用がある。瞬間的に体に負荷をかけるため一度使うだけで次の日筋肉痛になる。

 一日に何度も使えば体が壊れる。

 孝太郎にとってこの剣術はあまり使いたくないものなのだ。

 よろよろと剣で体を支える。ついでに魔法も停止させておく。

 あたり一面にはかつてゴーレムだった土くれだけ。


 「ふぅ」と安堵の息を吐き少し休む。

 正直、これ以上の戦闘を行うには準備が足りない。

 そうやって少し休みを入れているとふと、嫌な音に気づいた。

 ズシンっ。複数ではなく単機だ。1体だけなら今でも十分に戦える。

 重い剣を持ち上げ魔法を開放する。今回は肉体強化のみ。


『闇より出でし、闇より深き者よ、二ツ目の楔を解き放て』


 必要最低限の魔力で倒す。それを目標に敵に向かった。

 ゴーレム特有の鈍い足音に大きな人型。

 孝太郎はそれに向かって大剣を振るった。


 強化された肉体で振るう力強い一撃。

 その一撃はブゥンっと激しい音を立てて外れた…いや、意図的に外したのだ。

 剣を下ろし魔法を停止させる。


「なんだ、お前かよ」

「……」


 そう言って孝太郎はゴーレムの影に隠れていた人物に話しかけた。

 ゴーレムの影には無表情の少年、莉央がいた。


「まぁ、ちょうどいいな。魔力使いすぎたところだ」

「……そうか」


 莉央は無口だ。必要な時だけ必要なことを話す。

 相槌を適当に打つことも莉央にとっては必要なコミュニケーションだ。

 莉央のゴーレムも莉央に似たのか普通のゴーレムよりものっぺりと無口な感じがする。


「ってことはお前んところとつながってたのか……」


 孝太郎はよっこいせっとその場に腰を下ろした。


「……魔法使いは鬼灯か悠介だね」


 莉央はそう呟くとひらひらとする何かを取り出して地面に落とした。


 多分、悠介が魔法使いに当たるだろう


 莉央はそう思っていた。

 だから、莉央は薄暗い空を仰ぎ見た。

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