第1話

 世界は魔法によって支配されていた。

 我々が住む日本も例外ではない。5人の魔法使いが支配し、気まぐれに国を壊した。

 悠介、鬼灯、孝太郎、莉央の4人はそうした魔法使いによってたくさんの物を失った。


 家族や友人はもちろんのこと、街、国、未来。すべてを絶望に染められてしまった。

 彼らは出身地、目的は違うなれど志は同じだった。そのために自分を鍛え上げ復讐を遂げようと集まった。

 今、ここに彼ら4人の最初の復讐劇が始まる。




 大きなロウソクは延々と燃え続け暗い視界を灯していた。

 彼らは歩いていた。一人は剣を持ち一人は前を向き、一人は下を向き一人はそんな3人を見守った。


「あいつの住処はどこだろうか?」


 ふと、彼らの内の一人、鬼灯が言葉を漏らした。

 鬼灯は名前からの印象とは異なりあまり強くない心を持っていた。

 彼らの中で最も弱虫なのである。


「さぁな。試す……とか言ってたから。案外近くにいるかもな」


 悠介はそう答えると鬼灯の前をずんずん進んでいく。


「しかし、近くには何も感じないぞ。とりあえずは大丈夫だろう」


 大きな剣を肩に担ぎながら孝太郎が言った。幸太郎は鬼灯の後で並んで歩いている彼らの3番目に位置する。

 その大きな剣はさらに後ろにいた莉央に当たりそうだったが莉央は気にしていないようだ。


 莉央は彼らの中で最も背が低く最も無言で協調性のないやつである。

 いつも、後ろから3人を観測している。


 そんな彼らの前に異変が現れた。


『グルルルル……』


 狼だ。灰色の毛並みに犬よりも一回り大きな体躯。


「なるほど、これが試すって奴ね」


 悠介はコートの中から拳銃を取り出す。

 この拳銃はこの世界の住人なら最も目にする拳銃だ。

 元はイタリアの銃器メーカーが開発した自動拳銃。


 今ではライセンス生産などさせ世界で最も知名度が高い銃となっている。

 名称はベレッタM92FS。黒くて精錬された形状は持ちやすく扱いやすい。

 悠介は銃を抜き様、狼を撃つ。


『ギャンッ!!』


 断末魔を上げて狼が吹き飛ばされた。

 しかし、悠介は続けて引き金を引いた。

 ダンッダンッという銃声が3回ほど響いてようやく収まった。


「ちぃ、魔法障壁か……」


 まだ切れていないはずのマガジンを入れ替えながら悠介は呟いた。


『グルルルルル……』


 撃たれた狼は立ち上がってきた。


「弾の無駄遣いだ。どいてろ、俺がやる」


 大きな剣を持った孝太郎が前に立つ悠介より前に飛び出す。


『闇より出でし、闇より深き者よ、我に従い、永久の盟約を』


 大きな剣が緑色の光を放つ。陣を描き魔力を帯びる。

 孝太郎が持つ剣は西洋剣……一般的にブロードソードと呼ばれる幅広の剣。

 この剣は魔剣。魔力を帯び破壊と終焉をもたらすこの世にあってはならない物。


『醒めよっ! ディアブルクっ!!』


 孝太郎の言葉に反応するかの如く緑色の光が一気に解放された。

 炎の揺らめくような明るさだった世界に緑色が輝いた。

 幸太郎はその場から動くこともなく剣を一閃した。

 緑色の光は刃と化し狼を真っ二つに切り裂いた。


【ふむ……フェンリル程度、一撃で屠ってもらわなければな】


 突然に響く魔法使いの声。その声に反応したのは悠介だった。


「フェンリル……あれが?」


 悠介の頭の中では北欧神話に出てくる魔狼が頭に浮かんでいた。

 もしも、今の狼がフェンリルだったら悠介たちは生きていなかっただろう。

 フェンリルとは魔法使いにとっては神に等し

 くその力は絶対的なのだ。


【ただの名前だ、しかしこれで終わったと思うな】


「なるほど、モチーフか。ただの狼にしては魔法障壁が強すぎる」


 そこまで悠介は言うと魔法使いの言葉の意味を知った。


『グルルルルル……』


 狼の声。それも無数。おそらく一体だけではないのだろう。


「おい、孝太郎。弾の無駄遣いって言ってる暇はないぜ」


 引き金を引き銃弾が飛び出た。


『ギャンッ』


 フェンリルは一番初めに撃った時とは違う反応がした。

 先程はただ単に吹き飛ばされただけだったが今回は頭のみ吹き飛んだ。


【ほぅ……】


 関心したような声がどこからか聞こえた。

 悠介は次々と拳銃の引き金を引いた。その度に頭やら体やらを吹き飛ばされるフェンリル。


「初めに使ったのはただの対魔弾だったが今回のは特別製。魔法使い…お前を殺すための銃弾だ。魔狼モドキくらい一撃だ」


 しかし、悠介の拳銃にはリロードという銃の特性的欠点があった。

 無数の魔狼たちは銃弾が止むと同時に悠介たちに襲いかかった。

 初めに動いたのは鬼灯だった。ポシェットからフラスコを取り出して投げた。


『は、爆ぜろっ!』


 鬼灯の言葉と共にフラスコが爆発した。これは言霊や呪文で発動する魔法。

 フラスコに詰めた魔力を持った特殊な液体に術者の言葉を掛けることにより様々なことができる魔法。


「俺たちを舐めてもらっては困るよ」


 次に動いたのが孝太郎。相変わらず緑色に光る剣を構えて振るう。

 剣の先より緑色の刃が飛び出しフェンリルを一刀両断にする。


「他愛ない……悠介っ! あまり撃つなよ」

「わかってる。莉央。お前も戦えよっ」


 悠介の言葉を聞いてようやく莉央が動き始めた。

 コートの中に手を伸ばし紙切れを取り出す。

 いや、紙切れではないそれは呪符だ。炭で描かれた呪文字を力に変える魔法。


「塵は塵に灰は灰に土は土に……」


 莉央が呟いた。呪符を使った魔法に置いて呪文の意味はほとんどない。

 おそらく莉央自身が鼓舞のために呟いたのだろう。

 呪符が黒く染まり灰塵と帰した。すると、莉央の目の前の土がもりもりと盛り上がった。

 土から何かが這い出るように土は莉央と同じくらいの高さになると盛り上がりをやめた。


『向かへ……古の道へ』


 それは黒い土の塊。腕があり、足があり頭がある。

 まるでゴーレムのようなそいつは莉央の言葉に呼応するかのごとく雄叫びを上げた。

 そして、鋭い牙を持った魔狼へ一直線に向かうと力任せに殴りつけた。


『グルルル……ギャウンッ!!』


 ゴーレムは一撃で魔狼を吹き飛ばす。あまりにも強い一撃のようだ。

 その後も各自、魔狼を倒していくがあまり意味がないようだ。

 魔狼は次から次にどこからともなく現れるのだ。


「ちぃ……このままじゃ埒があかねぇ。悠介っ!俺たちが足止めする。お前はこいつらの発生点を破壊しろ!」

「ああ、わかった。ありったけの銃弾をぶちこんでやるぜ」

「行くぞっ!……『闇より出でし……」


 大きな剣で魔狼を切り飛ばしながら孝太郎は詠唱に入る。

 幸太郎の持つ大きな剣は一般的に魔剣と呼ばれるものである。

 膨大な魔力を封じた剣を人間が詠唱することにより開放することにより剣に刻まれた魔法が再生される。

 つまり、人間が魔力を用意せずとも魔剣一つで魔法が扱えるのだ。


 幸太郎の魔剣”ディアブルソード”には3つの魔法が刻まれている。

 1つめは魔力の物質化と可視化。現在、発動させているのがこれであり緑色の発光体は魔力である。

 しかし、この魔法は剣に封じられた魔力しか反映されない。


 2つめが肉体強化である。この魔法を使うことにより術者の肉体の限界点が上昇する。

 今、彼が起動しようとしているのはどちらでもない3つめだ。


 3つめの魔法は”魔断”と呼ばれる魔力を持った生物に対して絶大な効果を得る剣自体の強化魔法である。

 これを使うことにより現在戦っている魔狼を楽に倒すことができるのだ。


 孝太郎の魔剣の魔法が作動し剣が緑色の燐光に包まれた。

 これは魔力の物理化と可視化の魔法が継続されて使われているためだ。

 孝太郎は大きく溜を作って一気に魔狼をなぎ倒す。

 いっぺんに10以上の魔狼が息絶える。


「よしっ!」


 悠介は軽く礼をすると一気に跳躍した。その勢いは人間のそれをゆうに超えていた。

 5mほど先に着地し魔狼たちがポップするらしい場所へ向かった。

 それを援護するのが莉央のゴーレムと鬼灯だった。


 ゴーレム悠介に向かおうとする魔狼を吹き飛ばしは防ぎを繰り返す。

 鬼灯は大量のフラスコを投げ込み氷の魔法を使った。

 人ほどの高さの氷が魔狼たちの行く手を限定し悠介へ向かわせないようにする。


「見つけた」


 皆の協力により魔狼が無限に現れる仕組みを発見した。

 それは紐状の物体であった。紐状の物体が空間を切り裂きそこから魔狼が出現していたのだ。


「グレプニールを模した召喚魔法ってところか……なるほどね」


 悠介はバンッと対魔弾を撃ち込んだ。紐状の物体は一瞬でバラバラに砕け散ると欠片さえも残らなかった。


「破壊した」


 無数に発生するというメリットを失った魔狼は徐々にその数を減らしていった。

 そして、数十秒後には立ち向かってくる魔狼はいなくなった。


【ふふふ……久々の上客だな】


 再び無感情の声が辺り響いた。


「赤の魔法使い……待ってろっ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る