【短編】夜、漣の声

「ねぇ、これからどうしよっか?」


朧月に寄るさざ波の音。

足元の砂はとても頼りなく、僕は崩れてしまいそうになる。


君とは離れていないはずなのに、君の顔がわからない。

手を伸ばせば届くはずの距離。

なのに、手を伸ばすことも出来ず君の声を聴く。


その澄んだ声は僕の心に冷たく刺さる。


「あぁ、、うん。えっと、とりあえず、、ここは冷えるからさ。どこか温まる場所を探そうよ」


そんなどうでもいい、上辺の言葉。

言うべき言葉は違うのにわかっているのに、

間違いだとわかっていても、それしか言えない自分が憎い。


「そうねぇ、そうだよねぇ。。。。かえろっか」


そんな言葉を言わせてしまう。

少し震えた君の声。

あぁ、、あぁ、、、雲間が切れた。


月光に照る君の顔。

頬に一筋流れる水の粒。

手を伸ばせば届く距離。

僕は呆けて君を見る。


「さぁ帰ろ?」


手を伸ばす君。

僕が伸ばせなかった手を容易に伸ばすその君に、

僕は何が出来るだろうか。


「かえ、、、、らなくても、、、温まる場所はきっと他にもあるんじゃないかな」


「あるかな?そんなとこ」


「あるよ、、、例えば、、、」


「例えば?」


「えっと、、、ほら・・・」


「うん」


「ネットカフェとか!」


・・・


広がる静寂、さざ波の音も聞こえないほどに。


「ぷっ!」


その音が合図かのように響く君の笑い声


「うん、うん。いいね、行こう!ネットカフェ」


手を伸ばす君、手をつなぐ僕。

頼りない砂を確かに踏んで、僕らは歩き出す。



もー、変なこと言うから泣いちゃったじゃん

そんな声が聞こえた気がしたけど、寄るさざ波の音に消されたことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る