賽が振られたのならば/出来うることは/なきにしもあらず


 俺の「思考」は……「意思」は示した。


「……」


 それにどう乗っかって来るかは相手チギラクサ次第ではあるものの。


 こいつが運営の息がかかった者じゃあないっていう確信は、無い。だがその辺りはもう信じることにした。主催者ヤロウの偏執に、俺は賭ける。果たして。


「……」


 幸薄女はこれといった感情を見せないまま、それでも多分に俺の「投擲フォーム」と似た感じで、自分の賽をすす、と管に滑り入れていった。


 出た目の数は、最大の【7】。


 俺の出した【2】と、転がり落ちたボウル内の座標さえ対称的なその賽を……その出目を、確認して少し目線を上げると、同じようにこちらを見据えてきていた不景気なそれと図らずも合ってしまうが。


「……」


 読めねえ。無表情無感情にも程があるが、彼女の方の「意思」は返されたような気がした。俺が何故「自分から負けようとしているか」、そこまで伝達させる必要はねえ。そもそも「大金を掴んで勝負から降りる」っつーのは、いかにもであり得ることだろ? 


 そう思ってくれたんなら良し、さらに俺の意思を汲んで「自分は勝つ」と明示してくれたことも有難え。俺はここでどうしても、


 ……「負けなければならねえ」からよぉ。


 ここで勝っちまうと、残るのは3名。「決勝戦」がどんな形式かは分からねえが、総当たりにしろ、勝ち抜きにしろ、もうこの場を抜けることは出来ないと踏んだ。まあこの場で負け抜けて何が出来るかは正直まだ俺にもさっぱりだが、何かを仕掛けるとしたらこのタイミングしかねえってことは薄々はっきりしている。


 あとの懸念は……


 賽が手元に帰ってくるまでの間、さりげなく右手指を揃えて、首元を拭う素振りをしてみる。指先に当たるのは例の「立方体」。こいつの正体が何であるか、結局は掴めなかった。運営側が一度、どうこうしたらこちらの「意識を奪う」みてえなことをのたまっていたのは記憶しているが、それが少年らの「昏倒」の原因だったのか、それは分からねえ。


 負けた奴が全員「昏倒」していたわけじゃあねえし、というか見てた感じ、少年とあのレノマン氏くらいなもんだったよな? 少年も途中までは、昏倒→復帰→勝利という謎の方程式をなぞっていた。何か……運営思惑とは別の何かの、それこそ「意思」みてえなのが介入しているような気がしてならねえ。もっとも憶測も憶測で、実際のところは何も分かっちゃいねえが。


 それも込みの、賭けということになるな……


 だだっ広いホールにはもう対局者たる俺ら6名と、その倍はいると見受けられる黒服らがぽつりぽつりと居るばかりで、まあ粛々感は大したもんだが、俺らの「対局」、その「イカサマ感」みてえなのには何も注意とかお咎めやら、もっと言うと着目すらされてはいないようだった。


 摘まみ上げた自分の賽を、いま一度、【5】の目を相手に掲げ見せ、それからその面を下にしてまたも静かに管へと滑り入れていく。目が合った一瞬、わずかに頷かれたような気がしたが、気のせいだったかもしれねえ。とにかく、


 やってやるしかねえ。


 予定調和に、【2】を上向けて示した俺の赤い賽の隣に、幸薄女の放った青い【7】の目が並ぶ。


 これで決着。何とも呆気ないが。


 次の瞬間、視界にせり上がるようにして黒い「膜」のようなものが覆ってくる。なんだこれ。


 いや、これか。これこそが、こんとう……


 ん木星よぉぉぉん……ん気を付けるのよぉぉぉん……


 え、なんだよほんとうにこれ。げんちょうにしても、うすきみわるすぎだろ。


 気を付けるっていうか、意識を合わせるのよぉぉぉん……


 いやいやいやいや、わけがわからなさすぎなんだが。


 しかしてそんなおれのしゅんじゅんをおきざりに、しゅっとすられたまっちのひのように、


 いしきは、いしきを、いしきに


 ……


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