Dice-24:現世は/あるがままに
第三局、終局。
「……」
またしても勝ちを……逆転勝利を収めた、いや収めてしまった? 僕はただ、自分の身体周囲にまとわりつくように展開する透明な湯葉のような(例えは大概だが)、何とも言えないぼんやりとしたものに包まれているような心地であるが。
自失状態で受け取った札束の、今度はだいぶ持ち重りのする「塊」状の感触を右手の掌で触感しながら、例の定位置、ホール後ろのひとり掛けソファ向けて、意識しないと、右、右、みたいに足の踏み出しもままならない状態になったひどいメンタルにて何とか歩を進めていく。
勝ったは、勝った。しかしてこの胸の奥にわだかまる粘着性のあるゲル状みたいな物体は何だ?
そして再三の「昏倒」……これが外部から強制的に起こらされているものでなければ一体? 喉元に貼り付けられた立方体の「極小装置」が最も怪しいと感じていたが、何らかがそこから僕の喉仏脇の皮膚向けて射出されたとかいう感覚は無かった。いや分からない、無痛の針だってこの世には存在するのだから。いや、
「この世」。何気なく思ったその単語にちらと意識を向けられてしまう。同時に得体の知れない苛立ちをも。と、
「おういえ~、流石は相棒。尻上がりに調子を伸ばしてくるたぁ、まあ流石流石」
多分に芝居がかった揉み手気味の拍手と共に、例の如くソファの肘掛にその骨ばった尻を預けているアオナギにそう迎えられたのだが。とは言え僕はもうその御仁の「結果」も知り得ているわけで。
勝利。「8」を残しての。
僕に向かって「尻上がり」言ってるが、自分は初戦から「8」「8」「8」と高水準で多寡を残して勝ち続けているじゃあないか……計2400万円。こじゃれた店舗が始められそうな額だ。
「もう……ちょっと何か分かんなくて……」
言葉ももはや滅裂な僕は、またも札束を放り出すと、ひざまずいてソファの座面に顔面から突っ伏してしまうのだが。
<あ、さて!! 次なる『第四局』は今度は30分後に始めますからねえ~そしてッ!! ここまで勝ち上がりし『22名』の勇者たちのッ!! お名前を開示すると共に次戦の組み合わせを発表させていただきますね~はいッ!!>
こちらを斟酌することは全く無さそうな運営主催者の、能天気な声がもうお約束のように響いてくる。が、
……「お名前」?
<クジャクハラ:058:872211:900万
V S
フタバ:133:665310:1500万>
前方のスクリーンを見やると、そんな感じで今までと違う感じで表示が為されたわけだが。何でここに来ての名前(苗字だけか)の御開帳を?
<せっかくですから、対局相手にもですね、『意識』を向けていただけたらというね、思惑だったりするわけでね!!>
いや
<ハッタ:120:753321:1200万
V S
アオナギ:169:544422:2400万>
三段目に、かの御大の名前と、
<レノマン:042:933321:2500万
V S
ザイツ:068:855300:1100万>
六段目に、僕の名前。ぶつからずに済んだ。良し悪しは分からないが、ともかくの連帯意識は希薄ながらあるので、まあ良しとした。それより相手「レノマン」氏……外国の方だろうか。今まであまり周囲をつぶさには見ていなかったので、そして主催者はじめ日本語で進行が為されていたので、少し意外な気もしたが。
そこはまた、気にするところでも無く、気にしてもしょうがないところなのだろう。知らんけど。
僕は一度腹の下辺りまで吸気を落とし込むようにして、気持ち、あるいは「意識」をクリアにしてみる。よーし、大丈夫だ。大丈夫(多分)。
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