Dice-21:必勝法は/空論に


 相手にとって不足なし、なんてことはまったく無く、出来得ることなら避けたい強敵と思われる相手ではあったが、そうも言ってられない。が、この今、設けられた「休憩」時間においても、僕とアオナギはまったくの無策でぼんやりとソファ周りで飲みつけない赤ワインなんかを舐めていたりしたわけで、つまり、公然と認められていると見受けられる「交渉」に動くということは無かった。


 どう動いていいか、動くべきかというのがそもそも杳と不明であったし、それが必勝に繋がるとはどうしても思えなかったという点で二人の意見は一致したわけでもあり。そしてこういう時に二人でいるということは便利だ。何とは無しにグラス片手でぼつぼつどうともない呟きを交わしているだけでも、「交渉」を求めている輩たちからは話しかけられるという事が無かったから。既に交渉済とでも思われたのだろう。それはそれでいいのだが。


 限定的な出目の強さ、っていうのは現実的にありえそう、ってことは正誤不明だが何となくそう思えてきている。いや「相性」と言い換えた方がいいか。


 相性……例えば【444333】という、【9】とか【8】とかの突出した目を持たない賽に対して、【993000】という最も尖った賽がぶつかった場合……


 後者目線で極端に考えると、【9】を2回出せた場合、相手が何を出していようと問答無用でそこで対局終了となる。初っ端から連続で出せたら封殺。そしてその確率は9分の1。これは強力なアドバンテージじゃあないだろうか。勝利した場合には1000万。11%強の確率で1000万。何だそれ。


 【9】がうまく出せなかったとしても、仮に相手に最強の【4】を連打されたとして、【0】を2回まで出してしまっても耐えきれる。相手が【3】だけなら3回まで受けられる。


 そしてこちらが【3】が出せればダメージは0か1。その場合ほぼ受けきった進塁打と考えられそうだ。


 その間に【9】を2つ揃えれば勝ち。


 突き詰めると【9】を最小4回の投擲のうち、2回出せれば勝ちってことだ。【9】が出る確率は3分の1だから、じゃんけんで考えた場合、2回先勝すれば勝ち。相手は3回以上必要。


 はっきり、「相性」はある。


 が、が、だ。


 【993000】も最強では無い。【5】以上の目を持つ相手には逆に【5】以上を2回出されて自分が【0】連打ならあっさり負ける。現に先ほどの第二局の相手と出目結果は、


【167:544440:4-5-4-0-4】(5)

【001:993000:0-3-9-0-0】(x)


 【3】を【5】でかっちり突かれたってとこもあるが、ぴったり屠られた形だ。


 それに相手を選べるわけでは無いから、まあ作戦的なものは机上で終わることがほとんどだろう。


 何より出目を操作できるわけでも無い。突き詰めていくと「運」、そうとしか思えない。


 ということは全ては確率、と割り切りたいところだが、割り切れないのが人間という奴でもあって。「ツキ」とか「流れ」とか。確率のゆらぎをそう表現しているに過ぎないにも関わらず、誰でも少なからずそういったことを感じたことはあるはずだ。


 ゆえに連続完封であるところの次局相手は間違いなく「波」に乗っていそう……何とか、その出鼻を挫いたりすることは出来ないものかと、せめて相手の面くらいは拝んで何らかのイメージを高めよう、のような極めて不明瞭な考えでその該当する御仁のナンバーを探りに席を立つ。意味があるかは分からないが。


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