Dice-20:意図は/五里霧中に


<さあさあ、盛り上がって参りましたね? いよいよ『第三局』と相成りますっ!!>


 実況主催者の丸眼鏡の男の独りよがりな盛り上がり方にも、何と言うか慣れて来た感はある。場慣れ感……それはそれで良いのか悪いのか分からない兆候なれども。何にせよ平常心を保つというのはあらゆる時と場合において重要と僕は考えているわけで、


 とは言え。


 「唐突昏倒」を一度ならず二度までカマしている人間ののたまうことでは無いか……得体の知れなさを、無理やりに「平常」と名のつくものに押し込めようとしているだけなのかも知れない。ただ、この茶番なのか何なのかの出来事を、非常に凪いだ気持ちで行く末を見据えてやろうという、それこそ得体の知れない衝動が腹の底の底で沸いたことも事実だ。


 踊らされている……その自覚は充分あるものの、その先にもうひとつあるような、「踊らされている者に踊らされている」感もある……いや、意味が分からないかもだが。


 とにもかくにも、僕らの逡巡とかを嘲笑うかのように、いやそれ以前に意に介していないかのように、「進行」という名の厳然とした流れは粛々と続けられていく。


<勝ち残りなされました精鋭『44名』っ!! いやあもうどきどきし始めて参りましたな!! ここまで自らの才気で突き進まれてきました皆々様方には、そもそもの小細工などは不要かとは思われますが!! ひとつ休憩やら準備設営も兼ねまして『20分』ほど入れさせていただきます!! お飲み物は御随意に>


 有無を言わさぬ方針は健在なようで、ふつ、と、その丸顔丸眼鏡のビジョンがブラックアウトしたかと思うや、次なる対局の組み合わせがあっさり発表されたようである。


 場は控えめながらもざわつきを取り戻していっている。またも「交渉」めいたことに動き出す輩もいるようだ。しかし、対局を経るごとに「参加者」は半々になっていっているわけで、当初の賑わい(というのもおかしいが)からはだいぶ閑散としてきてはいる。そんな中、


「まぁだもやもや考えてんのかい、相棒よぅ」


 高価たかそうな細いカクテルグラスを摘まみながら、相変わらず力の抜けきった姿勢でこちらに向けてのたりのたり歩んで来たアオナギが、これまた習い性になっているかのような、僕を気づかうような揶揄するかのような言葉をしゃがれ気味にぽんと放ってくるのだが。


「いや、考えるってところまで行けていないような……」


 僕も僕で、そんな毒にも薬にもならなそうな陳腐な台詞まがいの言葉を吐き出すくらいだ。


「ま、ま、次も運よくっちゃあ運よく、俺らの『直対』は免れたみてえだぜ。しっかしまあ、どうなんのかねえ、こいつぁまた」


 グラスを煽ってから、その背後をやけにひょろ長い親指で示すアオナギ。前方の画面スクリーンに映し出されていた次の「組み合わせ」に、僕は目を凝らしてみる。


【068:855300】(4)

【154:644322】(20)


【169:544422】(16)

【163:554421】(5)


 僕(068)の相手は何と表現したらいいか、「バランスタイプ」と称したらいいだろうか。通常のサイコロ【654321】から、【1】という弱点を補強したようなタイプ。うんまあそんな主観的な推察はどうでもいい。


 出目のあとに記されたカッコ書きの数字は何だろうと思ったが、これは前二局で得た「賞金」の多寡だとすぐに思い至った。至ったは至ったが、「20」……が意味するのは、「第一局二局」共に完璧パーフェクトな勝利を収めている強者だってことになる。


……いやな予感は僕の胸の内でじわじわとそこかしこで発生しつつ、それらが徐々に渦巻き始めているわけで。


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