Dice-18:逆転は/蓋然に
「があっ!!」
と、またしても覚醒と共にそんな普段は出さない声が、喉奥に詰まったかのような空気の塊と一緒に吐き出されたような。
「……なあそれ、何かの儀式か狼煙か? 窮地から逆転への……?」
流石のアオナギのしゃがれ声も、少し呆れたかのようなニュアンスを孕んでいるかのように聴こえる。が、聴こえるということと、またもぐいと左腕の関節辺りを掴まれて立たせられた感触に、「意識」がまだここにあるということを悟る。それはまあ有難いといやあ有難いことなのだが。
儀式なのか何なのか、この「昏倒」は何なのかは僕にも把握できていないわけで。怪しいと踏んでいるのは、この喉元に貼り付いている得体の知れない小さな「立方体」であるわけなんだが……チクリとした痛みとかもっとヤバい激痛も何も、昏倒前には感じなかった。と思う。
視界が狭まった、のは感知出来たが、なぜそれがそのタイミングで起こるのかは皆目。
いや、もう色々と考えている場合でも無い。床のカーペットに左頬を付けて倒れていたせいか、ちょっとした痒みを覚えて触ってみたら、でこぼこになっていた。だが周りの状況とかはぶっ倒れる前とそれほど変わっていなかったから、そうしていたのはせいぜいまた五分くらいのものなのだろう。
僕は相手の男子高校生くん(推定)にひとこと詫びを入れると、ボウルへと足元がふらつかないように、しかしてまったく余裕ですよみたいな足取りで辿り着くと、戻ってきていた赤い「
【068:855300:5-5-0-】(3)
【134:665220:0-6-6-】(5)
状況は僕がやや押し込まれ気味。でももう気負わずに賽をただ投げ入れていく。トコ、みたいな地味な音を立てて、ボウルの内部で上を向いたのは嗚呼、【0】だった。
「……」
しかしそれよりコンマ2秒くらい遅れで投げ込まれて来た青い賽の目も【0】。「分け」。あぶないあぶない。
とか思いつつも、何故か僕の心はひどく凪いでいたわけで。排出されてきた赤賽をまた掴んで、大した予備動作もなく、「筒」に放り込んでいく。
「……!!」
出目は【5】、そして相手は【2】。再度逆転と……相成ったわけだが。
引き続き凪いだまま、放り入れていく作業を淡々と続けていく。結局、
【8】対【0】。オーバーキルにも程がある決まり手(?)にて、対局は終局したわけで。
【068:855300:5-5-0-0-5-8】(3)
【134:665220:0-6-6-0-2-0】(x)
うん……何となくこの結果は読めていたというか……何でだろうか? ただの思い過ごしかも知れないが。
偶然……全ては偶然なのだろうか。そのような想いに、何故か今は大脳以下、僕の全ての感覚器官が囚われているかのようであり。
黒服のひとりに手渡された札束三つと、たぶんこれに入れろということなのだろう、蛍光グリーンのちゃちなエコバッグ的な物を両手にそれぞれぶら下げながら、左頬を爪で割と強くひっかきつつ、僕は定位置である最初のソファにぼつぼつと戻っていくのだが。感覚は……ちゃんとしているように、自分ではそう思える。痛覚も視覚も聴覚もそれ以外も。
きわめて正常、であるものの、何か拭えない何かが皮膚の一枚下辺りで全身を包み込んでいるかのようで。
逆に意識があやふやになってくるかのような、足元不安定のような感覚に支配されていくかのような。何だ? これは本当に、いったい。
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