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 「第二局」。その前に「交渉」云々の余地はあっただろうが、結局僕とアオナギは何することもないまま出来ないまま、次戦を迎えたわけで。いやな予感、それを僕は引きずったままだ。


「ま、先が分からねぇ、であればもう空手カラてで行くしかないんじゃあねえか? 運営側の何ていうか判別不能の『揺さぶり』みてえなものも、結果がどうなるかを見越してとは到底思えないしな。冒頭にのたまってた『実験』、そんな感じの『試行感』、みてえな空気が漂ってるように思えるぜ、俺にはよ」


 テカる長髪の隙間からひしゃげた笑みを覗かせながら、こちらも底の見えない御仁がそんなよく掴めないことをのたまってくるが。そのブレなさには少し僕も意味不明ながら落ち着かされるところはある。


 今更だが、「第一局」の敗者たちが退場したこのホールは、随分と広く感じた。だだっ広さが逆に不安を煽るかのように。勝ちも負けも、現実感の無いままに、局面らしきものは進んでいく。


 ほんとに何かしら動かなくてよかったんだろうか……「運」が大半を統べるだろうことは重々承知しているつもりだ。だが本当に、本当にそれ以外は無いと、言い切ってしまっていいのだろうか……そして「意識」。その言葉が、先ほどからいやに頭の中に居座っている。


 ……先ほど原因不明の昏倒をしてから。……「意識」を、一瞬失ってから。


 「意識」というものに意識が向くという瞬間が、多くなっている気がする。奇妙な話だが。


 そんな中、残る「87名」のうち、シードひとりを除いた対局……「43局」は、今度は二回に分けて行われるとの説明があり、前半22局のうちのひとつにアオナギ、後半21局のひとつに僕は配されていたのだが。


 まあ行ってくらあな骨は拾ってくれ、とあまり力の入ってなさそうな感じで言い置かれたものの。


「……」


 あっさりと。本当にそういうほかは無いほどにあっさりと、まあサイコロをただ振り合うというだけだからそうではあろうが……ほうぼうで地味この上ない絵面のもと、第一局とまったく同じような光景が展開し。


【169:544422:5-4-2-4-4-5】(8)

【136:664410:0-6-0-4-4-1】(x)


 あっさりとまたアオナギは勝ちを納めてきたわけで。


 出目的にはまあ確率に則ってる。初っ端【5】が相手の【0】に刺さったのと相手の高い目を【4】でほぼ防いでいるのが勝因……と言えるか? そしてとどめの【5】がまたも相手の薄い【1】を貫いたと。


「……言っておくが、今回も前も、俺は何も考えちゃあいなかったぜ? 相棒、お前さんも無心で行っていいと……思うが。ま良く分からん」


 またも得た札束の塊を、無造作にこちらに掲げ見せながらアオナギは僕のところに戻ってくるが。これで合計「1600万円」。結構尋常じゃない額になってきてるな。


 もう色々考えるのは詮無いのかも知れない。あくまで淡々と進むこの諸々のことに、僕ももうスタンスを決めて臨もうとしている。


「……」


 第二局後半。僕の番号が示された「ボウル」の前には、高校生くらいの若さの、黒髪の実直そうな青年が思いつめたような表情で立っているが。もういろいろ考えるのはやめだ。考えても無駄だろうから。


 僕はサイコロを握り、凪いだ気持ちで「対局」に臨む。


【068:855300:5-】(10)

【134:665220:0-】(5)


 気負わなさが幸いしたか? いい滑り出しだ。第二投も【5】対【6】と、上回られたとは言え、相手最強の出目をうまくいなした感じ……よしよしこれあっさり行けるんじゃ、とか雑念がつい入ってしまった。それがいけなかったのか、


【068:855300:5-5-0-】(3)

【134:665220:0-6-6-】(5)


 無防備なところにもう一発が……!! 連発があるとは……いやまあ出目的には無くはないのだが、一気に逆転……そして次で決着がついてしまう可能性が高まってきた。


「ぐっ……!!」


負けを意識した瞬間、急に呼吸が荒くなってしまう僕。


 その時だった。ぐわりと今度は視界の全体が黒く染まるかのような、そんな感覚。


―も、木星に、に、気をつけて……


 そして脳裡に浮かんだのは、何故か倒れ伏した若い女性が、か細い声で、目の前にいるのだろう僕に、そう告げて来るビジョンであったわけで。


 タイプは違うが、


 第一局の時と。


 同じ。


 そんな。


 感覚を。


 どこか。


 俯瞰するかのように。


 僕。


 僕は。


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