第15話 訪問
林間学習を終えた後、俺はいつも通り土日に仕事をして、代休日は家でゆっくりくつろいでいる。といっても、家では本を読んでいることが多く、特にファンタジー系や冒険系のジャンルを読んでいる。
昔、小学生の時、親にゲーム機を買ってもらったことがある。その当時にはまっていたゲームがまさに冒険系かファンタジー系だった。俺はそれにはまり過ぎてか、母親に没収されたことがある。そんなことがありつつも将来はそういう仕事についてみたいということがあった。今でも、そういった物語は好きなので、時間があるときは欠かさず読んでいる。
俺がこうして、気持ちを落ち着かせていられるのは、時間が限りなく少ないが、唯一の至福のひとときでもある。
そんな中、ソファーで本を読みながらくつろいでいた俺の耳元に玄関からインターホンの音が鳴る。
「誰だ?」
一階のリビングから出て、廊下を渡り、玄関の扉を開ける。
「あんた、これ忘れてたでしょ」
彼女の持つ袋を手にし、中を覗く。
「ああ、林間学習の時のやつか」
袋の中には、飲み物やお菓子が入っている。確か、林間学習を終えて、解散したときの土産だったか。そのことに全く気付かずにそのまま帰っちゃったな。
「それで、そうしてここが分かったんだ?」
「たまたま、瀧が家に入るのを見かけたからよ」
「けど、家は俺と真逆だよな?」
「締め倒されたい?」
「いえ、結構です…」
俺は、なんでか彼女に口を割らせてくれない。この頃、最近の花は前に比べて関わりが多くなったのは、気のせいだろうか?クラスは違えど、家から通うときのホームは一緒。もしかすると、その可能性が高いのかもしれない。
「それと、ご飯はもう食べたかしら?」
「これから食べる予定だが」
時刻は、ちょうど12時を指す。
「栄養はちゃんと摂っているでしょうね?」
俺は、あんたのおかんかと内心ツッコミつつも。
「そこは、コンビニで抜かりなく…」
それを聞いた花は、ため息をついてこちらに目線を向ける。
「いいわ、たまには時間があるときに作ってあげるわよ」
「俺のことは別に気にしなくても大丈夫だ」
花は俺の言うことを無視して
「キッチン借りていい?」
そう言って、彼女にそれ以上迫られると、こっちとしては言う立場がなくなる。なんだか、俺は彼女にだんだん良くしてもらって、最初は嫌なやつだと思っていたが、今では、ものすごく感謝している。けど、俺なんかのために頑張らなくたって、ほかっといてもよかったんだが。
「聞いてる?」
「おう、キッチンだったよな?」
「少し、お邪魔するわね」
俺がこの家に女の子を上げたのは初めてだ。すかさず、リビングの方に行き、彼女が持っていた袋の中身にある材料を一つずつまな板の上に置いていく。
「本当にいいのか?」
「何よ今さら、とりあえず私が作っている間、自由にしてていいわよ」
本当に俺は何もしなくていいのかと疑問に思うが、彼女の料理ができるまでにリビングで本を読むことにする。
一体、彼女が何を作ってくれるのかをキッチンの方に目を向けると、既に料理に必要な具材を切っているようだ。こうして見ると、二人でこの家に住んでいるみたいだな。いつかは、夫婦として生活をしていくことになれば、こんな感じなるのかと想像がつく。
俺にどんな料理が来るのかは楽しみではあるが、ジャガイモと人参、玉ねぎ、さやいんげんに豚肉と来たから、おそらく肉じゃがを作ろうとしていそうだ。しかも肉じゃがは俺の好物だから、米がかなり進みそうだな。
しばらくして、彼女の料理が完成すると、美味しい肉じゃがの風味が漂う。
「できたわ」
そういって、机の上に置かれた皿の上に盛られている肉じゃがを見ると、見事な出来であった。実際に、お箸でジャガイモをほぐしてみる。
「簡単にお箸が中に入るな」
それに感動した俺は、早速ジャガイモを口の中に入れる。
「うまいな!」
出し汁がジャガイモの中にしみ込んで、旨味がバランスよく取れている。今まで、食べてきたどの肉じゃがよりも間違いなく一番美味しいだろう。
「味はちゃんとしみ込んでいたかしら?」
「ああ、ちゃんとしっかりしてる」
「それじゃあ、私も一口もらうわ」
そういって、自分で作った肉じゃがを口の中に入れる。
そして、彼女と一緒にお昼ご飯を食べた後、家から少し離れたところで、街並みを一望できる公園へと歩いた。
そこの公園は、よく子供達が遊び場に使い、学生やお年寄りがたびたび来る場所である。ここは、俺からすると都会の中では数少ない絶景ポイントである。
「こんな場所があるなんて全然知らなかったわ」
「ここは、この時間帯に俺が気分転換によく来る場所だ」
風通しは、山に登った時と比べると劣るが、それでも引けをとらないくらい心地いい場所で、穴場スポットとしても最適な場所だ。
「風当たりはいいわね」
金髪が流れる風と共に揺らされているのを見て、絵になる様だ。
「それで、アルバイトは最近どうなの?」
「普段通りにぼちぼちやってるな」
彼女とは、二人で歩いて会話しているときと変わらず、学校やアルバイトのことだったり、家のことだったりと、たわいのない会話を続ける。
「そういえば、前にある男の子から青いリボンをもらったことがあるんだけど」
「それ、堀北さんも似たようなことを言ってたな」
「彼女も?」
「ああ、10年前にその男の子にもらうときに再開したら結婚する誓いを立てたそうだ」
「それは、不思議な話ね。その10年前というのも結婚の誓いも偶然かしら?」
「偶然?」
花も、どうやら10年前の出来事に堀北さんと同じように遭遇している。もしかすると、その男の子というのは二人に会ったことがあるのか、もしくはその男の子と誰か別の男の子に会ったのかは未だに分からない。ただ、唯一引っかかるのが、なぜリボンの色が違うのかという点だ。
「私もその男の子からリボンをもらって、家に飾ってあるわ」
「そうなんだな」
けど、彼女はそれについての記憶があやふやだそう。
「でも、こういうロマンがある話、全然嫌いじゃないわよ」
彼女が、包み込むような柔らかな笑みを浮かべる。
「もしかして、意外とピュアだったりするのか?」
「意外って何よ」
「い、いや別に…」
それとは一転して、彼女は俺に睨みつける。ちょうど夕日が沈みかける頃になると、公園から見下ろす街並みの景色に点々と灯りが照りつけられる。
「瀧はそのリボンのことについて詳しいことは知っているの?」
そう言われてみると、昔のことでちょくちょく思い当たるところはあるかもしれないが、鮮明には思い浮かばない。
「そのことについては、全然知らないな」
「ふうん、そう」
そして、だんだんと外灯が明るくなると、俺たちは、公園から抜け出す。
「今日はいろいろとありがとな」
「ええ、暇があったらこういう時ぐらい呼んでいいわよ」
彼女とは俺の家の前で別れて、その後家で静かに休息をとった。
貧乏高校生の俺は美少女と運命の恋なんて訪れるだろうか? 久世原丸井 @kuyoharamarui
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