第14話 林間学習 その4

 


 中間地点から険し山道をくぐり抜けて、ようやく山の頂上に到着した俺たちは、ここでひとまずみんなと写真を撮ることになった。



「それにしても、よく頂上まで登り切ったな」


「登り切ってみると気持ちいいね」



 俺は、頂上から見える景色を一望して、気持ちをリラックスさせる。


 今日の天気は、快晴で空気も澄んでいる。おまけに夕方になるこの時間帯で夕日を見るのは、これはこれで味気がある。もし、時間があるなら、正月にでも朝日を見に行くのもいいかもしれんな。


 そんな清々しさに仕事での疲れを忘れさせるくらいである。



「瀧くんは、山に登ったことってあるの?」


「一応、家族と登ったことはあるが、たいして高くなかったな」



 それもそのはず、俺のその当時は小学一年生の時の話だ。実際にそこの頂上付近に遊べる遊具があるくらいだから、そこまでたいしたことないだろう。けど、小さい頃の自分と今の自分を比べて、よくあそこまでいっぱい体を動かしてはしゃげたよなと感心する。


 こうして、山を登り切ってみると達成感があって、内の中に溜まっているものを全部吐き出せたような気がする。まぁ、それと引き換えに体力の方がピークに来ているのだが……。



「それと頂上まで来たのはいいのが、ここから歩いて引き返すんだよな?」


「うん、少し休憩したら出発するから、それまでに十分休んでおいてね」



 はぁ、俺が宿にたどり着くころには、おそらくどこかの草原に咲いているお花畑でも眺めているだろう。



 …………………

 ……………

 ……



 そして、宿にたどり着いた俺たちは、中に入り部屋で着替えを持ってきてお風呂に入る準備して、そのまま脱衣所で服を脱いでから浴場で軽く体を洗って、内湯につかる。



「瀧もちょうど来てたとはな」



 俺の隣にスギが座ると



「瀧よ、向こうにいる女の子達の様子は気にならないか?」



 スギがにやりと怪しげな目つきで俺を覗いてくる。



「俺は別に気にならないが」


「なら、堀北さんはどう思っているんだ?」



 それを聞いて一体、俺が堀北さんに対して何なんだと思っているんだ。と内心ツッコむ。



「言っとくけど、罪を犯してまで向こうを覗こうなんて気はさらさらないからな」


「まっ、覗くとは一言も言っていないけどな」


「いや、話の流れ的にそうなるだろ!」



 俺はスギに抗議して、俺たちがお湯につかっているその一方。ちょうど堀北さんと結衣が女浴場に現れ、二人で一緒に隣り合わせで体を洗っているときのこと。



「今日の山を登るのは結構疲れたね、琴葉ちゃんはどうだった?」


「うん、私も結構疲れちゃったかな」


「ほんと、お疲れね」


「お疲れ様」



 互いに労いの言葉をかける。



「それでこの後、瀧くんと二人で何かやるの?」


「そうだね、でもそれはやってからのお楽しみになっちゃうかな」


「も~う、琴葉ちゃんはほんといい子ね、瀧くんとくっついちゃえばいいのに!」


「それは……その…」



 彼女が顔を赤らめて、やり場のない空気感が漂う。そして、二人が体を洗い流した後に疲れを癒しながら内湯につかる。



「それにしても琴葉ちゃんの胸大きいね~」



 彼女の肩にぴたりとつき、胸を触ろうとする。



「さ、触っちゃダ…」



 彼女は逃げるようにして、背を向けると、結衣が後ろから覆い被さるように彼女にしがみついて――



「琴葉ちゃんの胸、すごく柔らかい!」



 結衣の暴走は止まらないようだ。


 俺たちは、お湯につかりながら仕切りの向こうで結衣たちの声が耳元まで響いてくる。それを受けた俺たちの本能の中で、悪魔と天使が脳裏の中でさまよい続けている感じだ。


 これは耳を抑えておくべきだろう。




 そして、お風呂から出た俺は夕食を取ってからすぐさま肝試しと宝さがしの準備に取り掛かる。



「もうすぐで始まるね」


「そうだけど、その……お風呂は大丈夫だったのか?」


「き、聞こえちゃった!?」


「ま、まぁ…」



 彼女が「むぅ」と唇を尖らせてこちらを見てくる。そんな、可愛い顔で迫られても俺は困るんだが。それにしても俺のつけている仮面、結構息しづらいんだがもう少し空気が通るように工夫してくれなかったのか。怖い点でいえば抜かりないのは認めるが。


 けど、それよりも俺とは違い堀北さんのそれは怖いよりも可愛いを重視した衣装だよな?どこかハロウィンで女の子がおしゃれしてきそうな格好のような……。



「どうかした?」


「なんでもない…」



 まぁ、堀北さんのその魔女の衣装は似合うと思うが、おそらくクラスの人や他の人に見つかると記念に写真を撮られかねない勢いなのは間違いなさそうだ。そこは、俺がなんとかフォローしていかないというわけか。




 しばらくして、俺たちは、予定通り所定の位置につきここに人が来るのを待ち構えている。


 一応、念のため彼女には驚かせるタイミングを伝えた。というのも、連携が崩れたりしたら、怖さというクオリティが下がるだろう。



「準備はいいか?」


「うん」



 ただこうして待っている間、彼女との距離は肩にぶつかるくらいの距離にあり、かつお風呂に入ったばかりか彼女のいい香りが漂うため、集中があまりできない。自分の鼓動が早くなるのを感じて『落ち着け』と心の中で念じる。そこまで彼女に対して意識した覚えはないが自然と気持ちがそうなってくる。


 とりあえず、これが終われば晴れて自由の身になれるとそう願う。



「来たな」



 俺たちのところにのこのことやってきた記念すべき一組目は、男女でペアになっている組のようだ。そして、俺はターゲットのところまで足を踏み入れたのを見て、すかさず草むらから飛び出す。



「キャーーー!」



 これで、一組目はやれたようだな。そして、次々と来た組を屠って見せる。



「今度は、私一人で驚かしていい?」


「全然構わないが、本当に大丈夫か?」


「うん、頑張ってみる」



 俺は彼女の言葉を信じて、彼女一人で驚かさせてみたのだが、どうやら反応はそれと違ったようだ。



「可愛い~何この衣装!どこから持ってきたの!?」


「ええっと、その…」



 やはり、驚かれるというよりは、ギャラリーの目を楽しませてしまった。彼女が俺にこちらを向いて『助けて』と言わんばかりに訴えている。だが、もう次々とどんどん来てしまった以上、俺にはどうしようもできない。彼女の中では驚かせるつもりが予定外の方向に傾いてしまったのだろう。俺はそんな彼女をただただじっと見つめるしかない。


 とりあえず、蒸し暑いため彼女を後にし、ここから避難しようするが――



「ちょっと、どこに行くのよ」



 どこか聞き覚えのある声を耳にして、後ろの方を振り向くと



「何だ」


「ヒィィーーー!」



 最初は驚いた表情をしてくれたが、次第に表情が変わり、怒りの形相をこちらに向けてくる。



「あんたねーーー!」


「いや、待て!俺は別に何も悪くないだろ」


「一発、関節技を決めないと気が済まないわ!」


「それは、理不尽だろ!」



 俺は、彼女から逃げるようにして、この場から去る。その後ろから「こらー待ちなさい!」という声が聞こえる。俺よりも彼女の方が普通に怖いんじゃないか。結局、彼女に捕まり俺の背中に乗られて関節技を食らう。




 こうして、肝試しと宝さがしが終わり、林間学習のキャンプファイヤーで最後のフィナーレを飾る。



「なんか、いろいろと大変だったな」


「そうだよ、瀧くんあの後どこかに行っちゃうからすごく大変だったんだよ」



 彼女は俺が離れたことにどうやら不満を買ってしまったようだ。そして、花は堀北さんとは反対に俺の隣にいる。



「次にもし肝試しをやることになったら、あんたを夜に寝られないように怖がらせてあげるわ!」



 そこは心配しなくても、花に追いかけられた時点である意味恐怖というものを味わった。まぁ、少なくとも俺にとっての林間学習は、退屈せずに過ごせたな。


 刻々と木の檻の中でめらめらと燃え続ける炎が尽きるまで、俺たちは見届けた。




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