第12話 林間学習 その2

 


 会場に到着すると、バスを降りて自分のバックを背負いながら荷物をホテルの部屋に置いた。その後は、クラスの各自の班でまとまって、飯盒炊爨はんごうすいさんの場所まで移動する。


 俺と堀北さんは、席が隣なので同じ班となる。着いたら、まず材料と器具を持って、班ごとの机の上に置き、調理の準備に取り掛かる。というわけで、早速俺たちは、会場に着き、役割を分担される。



「瀧くんは、カレーの作り方は分かる?」


「全然分からんが、卵焼きなら自信があるぜ!」



 とはいっても、俺にはそれぐらいのことしかできんが



「そっか、じゃあカレーを作った後にトッピング用でやってもらおうかな」


「そうなるよな…」



 結局、俺ができる仕事は、米を炊くことぐらいしかできないので、そっちを任されることになった。


 実際に、堀北さんの料理の腕前は、素人の俺が言うのもあれだが、目を見張るぐらい上手く、一つ一つ丁寧に作られ、味も完璧である。もし、主婦としてやっていくなら、ぜひ俺から願い下げたいぐらいだ。


 一方、花を比較するのもあれだが、あれはあれで、堀北さんと違ったタイプの料理だ。なんというか、見栄えを意識して作っているわけでなく、味重視と言ったところだろうか。個性がかなり強調されていて、違う種類の斬新な料理が出される。


 たまに、タッパーの中にカタツムリが入っていたときは、めちゃくちゃびっくりして残したが、「エスカルゴ」という料理だそうだ。



(結構、米を見張るのは地味だがその分、向こうみたいには手がかからないから俺には合ってる仕事だな)と心の中でそうつぶやくと、後ろから見知った客が訪れた。



「よう!楽しくやれてるか!?」


「もしかして、さぼりに来たのか?」


「これは、俺にとってのれっきとした仕事だ」


「で、何のようだ?」


「瀧と琴葉ちゃんの様子を見にな」



 そして、スギは俺の隣に座った。こういうしてスギと話すのも久々な気がする。普段、学校では、昼放課のときぐらいしか顔を合せてなく、いつもそこで、漫画やアニメ、ゲームの話をしたりして、たまに結衣がその話に入ってくるが、基本的にジャンルは問わないで話していることが多い。



「ぶっちゃけ、琴葉ちゃんとはどこまでいったんだ?」


「どこまでもいってないけど」


「既に俺は、キスまで済んでると思ったけどな」


「いや、そこまでいくか!」



 思わずツッコミを入れる。けど、俺から見た堀北さんは、本音を言うと好みではあるし、理想のタイプの女の子ではある。さすがにキスするところまでとなると、一歩の段差がめちゃくちゃ高く感じる。本人が、俺のことをどう思っているか分からないが、俺としては多少彼女に対する見方は変わった気がする。



「けど、琴葉ちゃんはすごいよな、勉強もできてそのうえ料理ができるもんな、俺の結衣なんかとは全然違うな」


「褒めるのはいいけど、それを本人が聞いたらまずいぞ」


「心配するな、そうなったときの対処法をちゃんと考えてある」



 そして、言ったそばから後ろで結衣が腕を組んで待ち構えている。



「お、おい後ろ!」



 スギが俺の声に反応して振り向き。



「こ、これは結衣じゃないか」


「圭くん~私がどうかしたの?」


「お、俺たちは普通に米のことで話していただけだよな」


「スギが、結衣の料理より堀北さんの方が上手いってよ」


「瀧、俺を裏切るのか…」


「もう圭くんには私の手料理を作ってあげない」



 結衣の一言でスギはあえなく撃沈。俺は、日頃からスギにはいろいろと恨みがあったので今日こそは、晴らさせてもらった。でも、こうして二人の姿を見るとものすごくお似合いのカップルだな。いずれ二人が結婚したときとかは何かしてやらんとな。


 彼は、二人の今後の行く末を暖かく見守る。



「瀧くん、米の方はまだかかりそう?」



 彼女の声に気づいて、米の状態を見ると



「わ、わりぃ、米焦がしてしまった」


「もう、ちゃんと見てなきゃだめだよ」


「ごめん」



 俺もある意味スギと同じような羽目になった。




 しばらくして、ようやく俺の班は無事にカレーを作り、みんなで食べることになった。俺が座る席には、隣に堀北さんが座っている。みんなと一斉にスプーンで口に運ぶ。



「カレーの味はどう?」


「普通にうまいな!」


「ほんと!」



 味の感想を聞いた彼女は、嬉しそうだ。少なくとも、レトルトで買ってきたカレーよりも断然おいしい。今は、ものすごく誰かが作った手料理が恋しくなる。


 俺は黙々とカレーを食べ進めて、ついでに自分で作った卵焼きと一緒に食べる。そして、カレーを完食したところで洗い場に持って行き、スプーンと食器を洗剤と一緒に洗っていると



「これあんたの分で作ったから」



 そういうと、俺を見ずに作ったカレーを差し出す。



「おお…」



 見栄えは、どこのカレーとそう対して変わらないが、スプーンで一口入れてみる。



「どう?」


「さっき、俺たちが作ったカレーよりも、こっちは味がしっかりしている感じでおいしいな」


「そう…」



 それを聞いて、どこか安堵したようだ。



「ついでに食べ終わったら、食器を洗って返しておいてね」



 彼女は、すぐさま俺から離れて、もといた場所に戻る。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る