第11話 林間学習 その1

 


 俺たちは、授業後に早速、林間学習でやる催し物をクラスで決めることになった。



「何かやりたいものがあれば、挙手してください」



 クラス中は、一斉にざわつき始める。その間、俺はやることがないので本を読んで待っていることにする。


 堀北さんはというと、実は二学期が始まって一回席替えを行ったのだが、位置は変わらず、周りの人が移動しただけとなる。よって、俺の隣には、堀北さんが座っている状態だ。


 不思議なことに、くじで引いた席の番号がたまたまおんなじ所になるとは思ってもみなかった。こんな偶然に鉢合わせるのは、ひょっとして運命が俺にそうしろとでも言いたいかのように思えるが、俺はそんな現実に見向きしないままでいる。



「瀧くんは、何かしたいものでもある?」



 彼女は、俺に尋ねると、その受け答えに「特にないけど…」と返す。まぁ、あまり思いつかないということもあるが。



 ——数分後 



 しばらく、何がやりたいのかをじっと考えている彼女を見ていると、俺も何か面白いものはないかと頭の中で考えてみる。



 ――10分が経ち



「決まったか?」


「なかなか決まらないね」



 俺たちは互いに「うーん」と顔をしかめながら考え悩んでいくうちに、黒板には次々と催し物が書かれていく。



 ——そして



「他にないならこれで打ち切りたいと思います」



 催し決めは、打ち切りとなった。



「それでは、肝試しと宝探しで決まりましたので、実行委員会で話を通していきたいと思います」



 結局、俺たちは何も言わずに終った。しばらく、俺たちの間に沈黙が続き、一言も会話を交わさずにいる。それに呑まれている俺は、まるで上から空気の圧に押されているような感じだ。


 こうゆう場合、彼女とどうしたらいいのかを探る俺は、普段、人とあまりコミュニケーションを取らないため、俺にとってハードルがかなり高い……。



「そんな難しい顔をしなくても大丈夫だよ」



 俺を見た彼女は、優しく語りかける。



「…何か力になれなくて悪いな」


「ううん、全然気にする必要ないよ」



 彼女は俺に笑みを向け、それを見た俺は、多少の申し訳なさと安心した気持ちが入り混じる。ちょうど、窓から夕日が差し込む頃には、終業のチャイムが鳴る。



「瀧くんは、この後バイトがあるんだよね?」


「けど、今日のところは早く終わりそうだけどな」


「少しは大変しなくて済みそうだね」


「ああ…」



 俺は帰り支度をして、彼女にお礼を言いながらタッパーを返却した。その後、いつものアルバイト先へ向かう。


 その間、彼女は俺が教室を出るまで、その跡を追うように背中をずっと眺めている。



「瀧くんは、私と会ったこと覚えてるかな…」



 彼女がぼそりと呟くと、ポケットからリボンを取り出して、胸の中に収めるようにする。




 —— 一週間後



 俺たちは、朝早くから荷物を持って、バスへと向かい、出席を取った。


 その後、自分のバックと一緒にバスの中に乗せて、自分で決めた窓際の席に座る。


 席に座った俺は窓際から見える外の景気を淡々と眺める。こうして、眺めるのは、両親と遊園地に遊びに行った時に、車の後部座席の窓から覗いていたことを思い出す。


 俺がその余韻に浸っているときに、隣で誰かが座るような音がした。



「ごめんね、席空いてなくて」


「おお…」



 隣には堀北さんが来たようだ。急遽、彼女が座ろうとしていた席が、他の人に取られていたため、こっちに座ることにした。とりあえずは、まぁ仕方ない。



「瀧くんは、私と隣になるのはまずかった?」


「…そこは、心配しなくても大丈夫だ」


「ほんと、なら良かった」



 彼女の方は、少し落ち着きを取り戻したようだ。けど、こうして俺が隣に座る彼女を見て、あまり違和感を感じなくなったのか、むしろこういう雰囲気がなんだか落ち着く。


 最初は、俺からあまり目を合わせることはしなかったが、彼女が俺に喋りかけてくれるおかげで、だんだんと打ち解けるようになる。


 そして、俺と彼女は会場に着くまで一緒に過ごすこととなった。






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