第10話 二学期
夏休みが終わり、二学期に入った。夏休みが終わる前のここ数日、猛暑が続いて、仕事はかなり大変だった。時より、休憩に入れば、アイスを買って食べた。
猛暑は、二学期が始まると、それっきりで治り、だんだんと涼しさが増していく。
そんなわけで、今日からはいつもと変わらず、制服を毎日着る日が始まる。
朝は、起きてからカーテンを開け、トイレを済ませて、歯磨きをする。その後は、コンビニで買ってきたパンとその上にバターをつけて、そのまま食べる。
荷物は、既にリビングに置いてある状態で事前準備は出来てる。
「行ってきます」
母親に一言声をかけてから家を出る。
そして、二学期からやる学校の行事は、体育祭、林間学習、文化祭とイベントが盛りだくさん。けど、そこまで行事に関しては、あまり興味がない。
クラスで率先して何かを決めたり、動いたりするわけでもなければ、他の人を仕切ったりとかするたまでもない。
この先のことを考えたら、それはただのちっぽけな出来事に過ぎない。
もし、社会人になったら同じクラスの人と二度と体験することはないだろうとも言える。
俺が、家から最寄りの駅まで歩いてる途中で、その隣に珍しい来客がやってくる。
「おはよ」
ちらっと声の聞こえた俺の隣を覗かせると、長袖の白いシャツに、上にはブルーのVネックニットベストを着て、下は線の模様が入った赤色のスカートを履いてる。
おまけに長い金髪から漂うシャンプーのいい香りと体に香水でもつけたような匂いがして、髪の結び方も変わってる。
彼女をよく見ると、胸から腰にかけて、凹凸がくっきりしている。意外と膨らみはあるんだなと実感する。
「私のことじろじろと見て何?」
「いや、別に…」
俺が今まで見てきた彼女とは、ここまでいいシャンプーや香水を使われた覚えがない、しかも髪の結び方が変わり、爪まで一段ときれいに整えている。
それと普段、この時間はほとんどの学生がこんな朝早くから駅へと向かわず、たいてい一人で乗車していることが多い。
よりによって、彼女がたまたま朝早い時間に駅へと向かったのか、あえて俺が来る時間帯を抑えてきたのか、今のところは分からない…。
「瀧の髪、寝ぐせついているわよ」
一度、自分の髪を触って確認する。
「全然気づかんかった」
彼女が、カバンから霧吹きと櫛を取り出し
「ちょっと止まって」
言われた通り足を止める。
「少し顔を傾けて」
「おう…」
彼女は霧吹きで髪にかけて、櫛で整える。
「できたわ」
あっという間に、もとの状態に戻った。
「ありがとうだけど…なんで俺にこんなことをする気になったんだ?」
彼女は、視線を逸らして
「…普通に気になったからよ、じゃないと私と歩くのに見栄えが悪くなるでしょ」
「まぁ、そうだな」
多少の納得感はあるものの、以前の俺の扱いと比べると大きな差はある。これは、付き合いが少し長くなると、必然的にそうなってくるのかと思う。
まぁ、いずれにせよ、そうなってくれた方がこっちも面倒ごとをかけなくて済む。
「ちなみに、なんでこんな早い時間から駅に向かおうとしたんだ?」
俺の疑問に、花は恥ずかしながらこう答える。
「…それは、今日から朝早くに登校するつもりで駅に向かおうとしただけよ」
「それで、学校に朝早く来て一体何をするつもりだ?」
「学校の課題をやるか本でも読んでいるわ」
「なるほど」
彼女の話を聞いているとたいして普通だが、俺と時間が被るとなれば、この先、一緒に登校することになるだろう。そうなると、俺の荷が重い…。
なら、時間を変えてみるのもいいかもしれんが、家で勉強や読書をするといってもどちらかというと、学校でやった方がはかどるのと、堀北さんが朝早く教室に来るから、勉強のことだって聞ける。
結局、今の習慣を崩すのは、難しくなってしまう…。
「それとこれ…」
彼女に渡されたのは、中に敷き詰められた惣菜の透明なタッパーのようだ。
「えっと、これはその…」
「これなら少しは食費が浮くでしょ」
「いや…まぁ、そうだけど」
実際のところ、堀北さんにも学校で惣菜の入った透明なタッパーを渡される。
その都度、洗って返せば次のタッパーが来て、そんな感じのシステムがいつの間にか出来上がっている。
ただ、せっかく作ってもらったのを受け取らずに無下にするのは、それはそれでもったいない。そんなわけで、俺はありがたく頂くことにした。
「一応、受け取ってはおく」
「…ええ」
そして、彼女に渡されたタッパーを自分のカバンの中にしまう。
「そういえば、次は林間学習だっけか」
「もう、そんな時期になるのね」
俺の高校生活は長いようで短いような、そんな時間感覚で過ごしている。
こうして、学校に登校できるのは、あとどれくらいだろうと日数を数えるばかりである。
——学校で過ごす時間も刻々と迫っている。
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