第8話 夏祭り その4
「一つ聞いていいか?」
少し心配になった俺は、彼女に率直に思ったことを尋ねることにした。
「何よ」
「俺に対して口数が少ないのは、もしかして緊張しているのか?」
「べ、別に緊張なんてしていないわよ…」
「そうなのか?」
おそらく、彼女によると、慣れない人と一緒にいるから緊張するのではなく、今彼の隣にいる状況が、どこか彼女の意識の中でそうさせているのだろう。
彼は、そのことについて全く自覚がない。
そんなこんなで俺たちは、しばらく花火を見ながら歩き進んでから、屋台より少し離れたベンチの場所で休憩をとる。
「屋台回るのに結構歩いたな」
俺が祭りで歩いた距離感を例えるなら、家と学校を10往復しているような感覚だ。
たくさんアルバイトをしている人間の体力なら、見た目上そこまで歩かされたって体力があるから耐え切れると思いがちだが、普通に歩き疲れてしまう。
そして、俺の中の体力の燃費は、学校で部活をやっている人やクラブ活動をしている人よりも、かなり悪いと自負している。
これだけ歩き回って体が脱力しているのを感じるのは、久しぶりなのかもしれない。そんなことを考えながら、立って、少しぼーっとしていると
「俺は少しの間、トイレに行ってくるから、あとのことよろしく頼むな」
「じゃあ、私も!」
結衣は、スギの後をついていき
「ごゆっくり~」
「おい!」
俺は呼び止めようとしたが、二人はトイレへと向かってしまった。
それを二人が見えなくなったタイミングを見計らって、堀北さんは俺たちに寄ってきた。
「確か、花さんでしたよね。二人の関係を聞かせてもらってもいいですか?」
俺から見る彼女の表情は、いたって穏やかだ。どこか怖いが…。
「俺たちは…」
「瀧くんは、少し黙って」
「はい…」
俺は、彼女に黙らされいつの間にか蚊帳の外にいるようだ。別に悪いことをしたわけではないのに…。
「それで、瀧くんとはどんな関係なんですか?」
そして、彼女はその問いに答える。
「私たちは、友…ただの知り合いで、それ以上は何もないわ」
「そうですか…」
(いや、なぜそこで訂正した…?まぁ、どっちでもいいけど…)
「あの良かったら、お友達になってくれませんか?」
「…ええ別にいいわ」
どうやら二人は、今の会話でお友達になれたようだ。少し安直すぎるのではないかと思うが…。
「なら、私も瀧くんと事前に待ち合わせればよかった…」
そうぼそりと呟き、彼女は少し残念な気持ちになる。彼女も事前に待ち合わせしていたら、彼と一緒に行けてただろう。
「そういえば、瀧とはお知り合いなの?」
「うん、私と瀧くんは同じクラスで隣の席だよ」
「ふうん〜」
花は、俺の方を見て睨んでくる。
「な、なんだよ」
「べっつにー、ただあんたが他の女の子と絡んでたなんて全然思わなかったけど」
「はぁ」
俺は、ごく普通の高校生をやってきたつもりだったが、側から見てそんな風に思われているのかと思うと、少し心が痛む。
まぁ、事実間違ってはいないが。
「そういえば、二人はまだ何も食べてなかったよね?私も含めてだけど」
「そうね、一応何か屋台で買っておこうかしら…それで、あんたの方はお金大丈夫なの?」
「ああ、それなら最低限持ってきてる」
彼は、自分の懐から小銭入れを取り出し、中を確認する。
「で、いくらなの?」
「500円…」
「全然少ないじゃない!」
思ったよりも少ない額に彼女は見放す気になれなかった。
結局、俺は一円も払わずに花と堀北さんにまで奢ってもらう形となった。
「それは、あんたのものだからね」
俺は、焼きそばとおまけにたこ焼きを手に入れた。
「もしあれだったら、少し分けようか?」
「別にいいわよ、分けなくたって、ただでさえ生活が苦しいんだから」
女の子に食事代を奢ってもらうのは、なんか申し訳なさが膨れ上がる。
「まだお腹空くなら、私の分も食べていいからね」
「お、おう…」
俺たちは、屋台で買ってきたものを、再び休憩場所のところまで持って行き、仲良くベンチに座って食べながら結衣とスギの帰りを待っている。
そして、ようやく二人の姿が見えてきて
「あれ〜瀧くん〜、いつの間にこんなに仲良くなって〜」
結衣が俺に含みのあるいい方で尋ねる。
「普通に座って食べているだけだけど」
そこにスギも参入して
「そうだ瀧、俺はお前の親友として、成長を喜ばしく思うぜ」
「いや、何の成長だよ!」
こうして、夏祭りは終わり、みんなとどこかに寄り道したあと、俺達は解散した。
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