第7話 夏祭り その3

 


 夏祭り当日の夕方、俺は浴衣に着替えてから家の外に出た。最寄りの駅まで徒歩で行くと、家族連れで浴衣や着物を着て行く人が多いようだ。


 実際、友達と祭りに行くのはいつぶりなのだろうか?ふとそんなことを思ってしまう。ちなみにみんなと待ち合わせることとなったのは、祭りの会場に近い駅前となった。


 あまり外に行こうにも乗り気ではなかったが、こうして場所や時間をきっちり決めて、ことが進んでいるわけだから行かないと損はする。


 俺の人生というのは、スズメの涙ほどであるが、多少なりと背伸びしたい気持ちだ。いつしか俺はそんな幻想を抱くようになった。これもきっと、周りにいる人間が影響してのことだろう。



 そして、目的の場所まで少し離れたところに着き、みんなのところまで足を運ぶ。



「あれ、まだあいつは来ていないのか?」


「そうみたい」



 スギと結衣は、一緒に歩いて、待ち合わせのところまでたどり着いた。



「あ、あの…」



 後ろから声が聞こえて、スギ達は後ろを振り返り誰かを確認すると、そこに着物姿で現れたのは、堀北さんだ。



「あらやだ、超かわいい~!」



 唐突に結衣がぎゅっと抱きしめる。


 一度、彼女が着ている着物を見ると、色は涼しげなライトブルーで、爽やかな色で織り上げたもの。清楚な女性にはぴったりなコーディネートだ。



「あの、少し恥ずかしいです…」



 彼女は、顔を赤らめ



「可愛いのは分かるが、ほどほどにしとけよ」


「あ!もしかして、私よりもこの子をとるつもり!?」


「今の話の流れからしておかしくね?」



 二人のカップルトークを横で聞かされることとなる。



 その一方



「もう遅いじゃない!」


「普通に時間通りに来たけど」



 俺は、何気ない顔をして、彼女の前に現れる。


 そして、彼女の着ている着物姿は見もので、色は紫に花の文様が入っている。一見して大人びているイメージが湧く。



「ここに1時間前に来るのは常識よ!」


「いや、なげーよ!」



 実は、ここに来る前に花と二人で一緒に行く約束をした。



「そういえば、まだみんなと顔を合わせてなかったな」


「……」


「おい、聞いてるか?」


「聞いているわよ、それよりも…」



 彼女は、自分の着ている着物に視線を落として、やたらと何かを意識している。



「で、何があったんだ?」


「こ、この…」


「ん?」


「やっぱり何でもない…」



 彼女は何も言わないまま口を閉じてしまった。結局のところ何がいいたかったんだろう。



「もうそろそろ着くぞ」



 俺たちの目の前は、目的の場所まで差し掛かった。けど思った以上に駅前の人通りはかなり多い。探すのも少し手間がかかる。


 現地で開催される祭りは、規模感が他の祭りと比べて大きい。そのうえ、周りの人たちはかなりにぎわっている様子だ。


 生憎、俺はここできゃっきゃっしにきたわけではなく、静かなひとときを過ごすために来たと、そういい切りたいが、こいつらといることになるとそれはなかなか難しくなる。



 ようやく人混みから解放された俺たちは、スギ達と合流することに成功した。


 そして、スギ達の前に現した俺達は、駅の入り口の方へと向かい、既に俺たちが来る前に屋台で食べ物を買っていた。



「お!来たな!」


「って、もう満喫しているんだな」



 スギは、一度俺から視線を外し、隣にいる彼女に移し変えると



「その瀧の隣にいるのが…」


「ああ、前に話した子だ」



 花は少し俺の後ろに下がる。



「なるほど…つまりこれは浮気か?」


「浮気も何も、そもそも付き合ってないだろ」  



 俺は一体、いつ付き合うことになっているのか。



「確かにそうだった」


「確かもくそもないけどな」



 そして、俺が堀北さんの方に視線を向けると、どこかむすっとした顔をして視線を逸らす。俺は彼女に怒られるようなことはしたのだろうか…。



「もう、またべっぴんさんを連れてきて!」



 結衣が、俺が連れてきた彼女に気づき、すぐさま彼女のもとに立ち寄ると



「こんばんは、将来圭の妻になる小桜結衣です!」


「初めまして…」



 二人は軽く自己紹介して挨拶をする。



「こいつは、可愛いものにしか目がないから気にするな」


「こいつじゃないでしょ!」



 そこにスギが挟み込み



「とりあえず、みんな集まったことだし移動するか」


 俺たちは、屋台を回ることになる。




「そういえば、瀧たちはまだ何も食べてなかったっけ?」



 今の俺たちは、スギと結衣を先頭に後ろからついていき、堀北さんは俺たちの前にいる。



「何か食べたいものがあれば、自由によっていいぞ」


「遠慮なく、ゆっくりしていってね」


「おう」



 そのまま、屋台に挟まれた道をまっすぐに進み、いろんなところを見て回る。


 なぜか堀北さんは、俺たちのことを気にしてか、ちらちらと見る。少し気まずい感じがする。



「なんか食べたいものはあるか?」


「特にないわ…」



 今日の花はあまり本調子じゃないようだ。俺が一言いったきり、あまり喋らないでいる。


 普段、俺と二人の時は、むしろ口数が多く皮肉を言い合っているくらいだが、慣れてない人と一緒にいるときはそうなってしまうのかと思う。


 俺はこの状況に耐えるのにもどかしい気もする。ポジション的にもいい所にいるとは言えない。想像とは少し違ったところで傾いてしまったようだ。


 俺と堀北さんと花の三人とスギ達で温度差が開いている。どっちにしろ状況が呼んでしまったものだから仕方ないとそう解釈する。



「見て!花火があがったよ!」



 結衣の声に反応した俺は、夜空を見上げる。俺の隣にいる花は、その世界に吸い込まれているような顔をして見る。


 そして、横顔から覗く堀北さんの顔も、そんな感じのようだ。


 打ちあがる花火の音とともに圧倒されている中、どこか気持ちが投げ捨てられるような感覚になる。




































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