第6話 夏祭り その2



 学校の放課後、俺は堀北さんに話しかけてみることにした。



「なぁ、ちょっといいか?」


「ん?」


「来週の日曜日って予定は空いてないか?」


「うん、全然空いてるけど」



 俺は他の人を普段あまり誘ったことがなく、特に知らない人を誘うのは苦手だ。



「それならこの日にやる、祭りとかはどうだ?」


「瀧くんから誘うなんて珍しいね」


「いや…まぁ、一応スギと結衣に頼まれたからな」


「ふうん」



 彼女はどこか不貞腐れているようだ。



「何かあったか?」


「別に」



 俺にはよく分からんが事情はどうあれ、ほかの人から頼まれて誘う形の方が俺的に誘いやすい、むろん薦められはしたが、結局のところ自分の意志で決めることにはなるので、多少ごまかした。


 それも彼女には日頃から良くしてもらっているお礼をするという意味合いからだ。



「それで、その祭りは何時からになるの?」


「6時からやるそうだ」



 今回の祭りは、花火やおみこしのイベントがあり、屋台もたくさん出るようだ。



「待ち合わせはどうするの?」


「まだ決まってはないが、どこか分かりやすそうな場所になるけど」


 

 都会で待ち合わせとなると、地下鉄の駅の入り口かどこかの建物の中ぐらいがちょうどいいだろう。その方が目印としても分かりやすい。



「ちなみに瀧くんを含めた3人の他に誰か来るの?」


「いや、来ない」


 

 スギ達の予定では、もともと他の人を誘うつもりがなかったようだ。



「ねぇ、もしもなんだけどさ、私が着物を着てきたらどう思う?」



 彼女は、照れくさいような表情で俺を見る。



「まぁ、堀北さんなら似合うんじゃねえの」


「そっか…」


 

 そして、次の授業の予鈴が鳴り、俺たちは教室から離れ、別の場所へと向かった。




 学校の授業が終わり、家に帰る途中、コンビニで寄り道したときのこと。


 コンビニの中に入り、惣菜や野菜と飲み物をかごの中に入れて、レジでお会計を済ませて、袋を持って再び家に帰ろうとする。



「ねえ、ちょっとあんた」



 後ろから俺に声をかけたのは、どうやら咲野 花 だ。



「あれー?おかしいな?後ろから誰かさんの声が聞こえたような?」


「とぼけると痛い目に合うわよ」


 

 俺は少し彼女をおちょくってみた。こういうのも意外と面白いな。



「それで、ここの道は使うのか?」


「いつも帰るときによく通ってるわ」



 もしかして、帰る道間違えたか?ここは仕方ないか。



「その袋の中は一体何が入ってるの?」


「飲み物と惣菜と野菜が入ってる」



 基本、ご飯を食べるとなると、炊飯器で簡単に米を炊いたら、あとはコンビニで買ってきたおかずをレンチンして、それに野菜を盛り付ければ、夕食の完成だ。



「ふうん、いつもご飯はそうしているの?」


「まぁ、料理ができないのと作る時間がないからこうしているが」



 どのみち、料理を作るにしても手間がかかるし、面倒だからこっちの方が手っ取り早くて助かる。やっぱりそこは効率を重視してしまう。



「この時間は、家で一人なの?」


「まぁな、どっちにしろ家には俺しかいないが」


「そう…」



 彼女は少し、俺から視線を外して遠くの方へ眺める。



「それと、来週の日曜日…予定空いてる?」


「夜は空いてないけど」



 彼女は、俺につぶらな瞳を向けて



「もしかして、他の誰かと約束したの?」


「まぁ、その日は友達に誘われてな」


「なら、仕方ないのね…」



 彼女は、きょとんと肩を落とす。


 本当は、彼を祭りに誘って一緒に行きたかったようだ。



「もしかして、祭りに一人で行くのか?」


「え、ええ…」



 なんだか、一人で祭りっていうのもかわいそうな気がしたので誘ってみることにした。俺も一人になる気持ちはよく分かる。



「こういっちゃなんだが、一緒に来るか?」


「え!?」



 彼からの誘いで少し驚いた様子だ。



「べ、別にいいわよ、無理に誘わなくたって…」


「ならそうさせてもらうが」


「じょ、冗談よ、私も行くわ」



 俺は、彼女に少し笑みを浮かべる。



「とりあえず、待ち合わせ場所や時間は、まだ決まってないから後日伝える」


「分かったわ。それと伝えるなら私のスマホにかけてくれてもいいわ」



 どこか、いつもの調子を取り戻したみたいだ。



「明日、電話番号を紙に書いておくからなくさないようにちゃんと、とっておきなさい」



 そして、夕日が街中を照りつける。

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