第5話 夏祭り その1



 彼女と街中で別れた後、俺は家に帰った。そして、家の中は一段と静けさが増す。


 自分の部屋に行き、財布だけ机の上に置くと、棚から着替えを持って、タオルと一緒に風呂場のかごの中に入れる。


 湯船にお湯を流し込み、その間、リビングで買ってきたカップ麺の中にポットのお湯を入れて、割りばしと一緒に食卓の上に置き、座ってしばらく待つ。


 その後は、食べたごみを片付けてから風呂に入って、今まで蓄積していた疲れをほぐし、まったりする。


 天井を見上げて、目を閉じて、何も考えないように心を落ち着かせる。



 しばらく、彼は、湯船の中で眠りにつき、急いで風呂場から出て、時計の針を見ると夜中の1時を回っている。


 とりあえず、服に着替えて、寝る準備を済ませる。


 ようやく、ベッドの上で眠りにつこうとしたとき、自分の携帯からブザーが鳴る。



「誰からだ?」



 電話を取ると、見覚えのある番号からだ。



「もしもし」


「瀧、俺だ。こんな夜遅くにかけて悪いな」



 どうやら、彼の父親のようだ。



「それは別にいいが、そっちはうまくやれているのか?」


「ああ、普段通りにやってる。それでお母さんの方は?」



 父親が、母親の体の状態を心配して俺に尋ねる。



「今、病院で入院している」


「先生にはなんて言われたんだ?」


「慢性骨髄性白血病と言われた」


「そうか…」



 診断結果は、あまりよろしくなかったそうだ。



「心配かけて悪かったな」


「俺は心配しなくても大丈夫だ」



 会話に少し間を空けて



「見ないうちに大きくなったな」 



 父親として息子の成長を喜ばしく思う。そして、少し余談話をしたあと



「とりあえず、俺は限界だからもう寝る」


「そうだな、それと、体には無理するなよ」


「分かってる」


 

 電話を切った俺は、布団の中に入って、頭ごと毛布で覆い被さる




 朝の6時を回り、俺はいつもと変わらない日常に戻り、朝早くに起きて学校の支度をして、朝食をとる。


 そして、学校に朝早く来た俺は、自分の机のところでテスト期間の課題を前倒しで推し進めている。ちょうど、俺の隣の席の人が教室に入ってきた。



「おはよう……もうテストの課題を進めているんだ」


「みんなよりも先に進まないと追いつかないからな」



 仕事に覆われている俺は、課題をやる暇があまりないため、普段はこうしている。



「真面目なんだね」


「別にそうでもないけど…」



 彼女は俺の隣の席に座り、バックの中からお茶のペットボトルを取り出し彼に差し出す。



「もしよかったら飲む?」


「いや、遠慮しとく」


「そう…」


 

 取り出したお茶のペットボトルをバックの中に戻す。



「そういえば、堀北さんって勉強は得意なのか?」


「そこそこはできる感じだけど…」


「なら、今やってるところ教えてくれないか?」


「うん」



 俺に柔らかな笑みを向ける彼女は、椅子を俺の方に寄せて、みんなが来る前に勉強を教えることになる。




 中間テストを終え、夏休みムードに迫ったとある体育の授業の日のこと、俺は授業が始まる前に男子更衣室のところで着替えを済ませて、体育館へと向かう。


 今日の授業は、俺が苦手とする球技だ。バスケットボールで例えるなら、まともにボールをつけず、すぐにどっかいってしまうほど。


 特に今日のバレーボールなんかは顔面に当たるのが当たり前の勢いだ。そんな俺に球技を扱わせる事態が間違えてる。


 なので、俺はみんなから離れた場所でボールを使って暇を潰している。



「おーい、そこで何してるんだ?」



 やってきたのは、スギのようだ。



「見ての通り、俺はボールで遊んでるだけだ」


「それは見てれば分かる」


「で、何しに来たんだ?」


「瀧を連れ戻しに来た」


「なんでだよ」



 誘われることに対して、少し不満を抱く。



「苦手なのは分かるが、このままだと琴葉ちゃんが他の人を選んじゃうぞ」


「いや、そこで彼女の名前を出さなくてもいいだろ」


「ま、とりあえず来い!」 



 結局、スギの強引さに押された俺は、スギのチームに配属することになった。



「よし、いくぞ!」



 相手のサーブに備えて、前傾姿勢で構えると真っ先に俺のところに来た。



「瀧、上!」


「お、おう」



 そして、腕でしっかり捉えたと思ったボールは、見事に顔面の方に跳ね返って直撃した。



「瀧、大丈夫か?」


「だ、大丈夫だ…」


 

 多少ひるんだもののすぐさま立ち上がった。



「あまり無理はするなよ」


「これくらい平気だ」


 

 バレーの試合で死闘を続ける中、ようやく体育の授業が終わり、結局まともに球を返球できたのも数回程度だ。


 俺は体育館を出て、自販機のところで飲み物を買う。 



「おう、瀧も買いに来たか」



 スギがちょうど財布を持ってこっちにやって来た。



「ああ、お前のおかげでのどを枯らすはめになったがな」


「そうか、それはいい気味なこった」



 彼も自販機で飲み物を買う。



「ほーら、よっと」



 彼から、投げ渡された飲み物をキャッチする。



「瀧が体育の授業で頑張ったご褒美だ」


「なかなか似合わないことをするもんだな」


「たまにはだけどな」



 二人は学校のベンチに座ってくつろぐと



「今度、俺たち祭りにでも行こうと思っているんだが、瀧も一緒にどうだ?」


「それで、予定はいつなんだ?」


「日曜日の夕方の6時からだ。その日、バイトは空いてるか?」


「そうだな、一応予定は空けとくようにする」



 母親が病院で入院している間、少しゆとりは出てきた。



「そうか、ついでに琴葉ちゃんも誘ったらどうだ?」


「…まぁ、できたら誘ってみるよ」



 実際に俺が誘って来てくれるかどうかは分からないが



「ちなみにうちの結衣が、祭りで告白しちゃえばだってよ」


「は?なんでいきなりそんな話に発展しているんだよ!」


「そしたらカップル同士仲良くできるのにな」



 それに対して、俺はどうしようもなく思う。そして、話は祭りに遡ることとなった。







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