第52話 文化祭の準備
季節は11月。野水君が転校して来てから、2月の時間が経過した。気温は9月と比較して幾分か下がり、校庭には無数の落ち葉が拡がっている。
「皆さん、文化祭の出し物に関して何か案はないでしょうか?」
教壇に立つ学級委員の男子が無差別に言葉を投げ掛ける。室内は先ほどから妙に騒がしい。
「はい。りんご飴を出すのはどうかな?」
「焼き鳥とかは?」
「そこは、王道のチョコバナナだろ」
それぞれがテンポ良く意見を一同に対して放り投げる。
自力では計測できない数の言霊がどこもかしこで多量に交差する。
女子の学級委員が、吐き出された案を手を止めることなく黒板に板書する。黒板には縦書きで文字が描写される。丸文字でかわいらしい女子の書体。
10分後、室内は静かになった。黒板には、20個程度の名称が横に並列している。ラーメン、チョコバナナ、りんご飴と、有名どころの名前だ。
遅くなったが、今日、我がクラスにおいては文化祭の出し物を決定するための話し合いが行われている。俺たちの学年(2年生)は、出し物で何か1つ出店を出すことが学校で規定されている。出店で提供可能なモノは、食べ物のみであり、それ以外は禁止されている。
学級委員はしばし熟考し、話し合いでは解決しないと予期したのだろう。座長の権力を行使して多数決を獲ることを独断で決断する。
皆、自分が気に入った名称が声に出されランダムに手を挙げる。その中には、気持ちが籠った人間もいれば、そうではない人間もいた。俺は後者の人間だった。
学級委員によって集計が行われ、最終的に、最も票数が高かったチョコバナナを出店で提供することになった。辺りでは、満足げな顔や不満げな顔が散乱する。
「皆さん、文化祭まで残り2週間しかありません。そして、文化祭の後日に体育祭です。多忙になるかもしれませんが、クラスで力を合わせて頑張りましょう!」
男子の学級委員が発破をかける。何人かの生徒は無表情だ。しかし、その一方で、ノリの良い明るい性格の持ち主たちは、「おー!」大きな掛け声を挙げていた。その人数は、クラスの3分の1程度だろう。
2週間後、高校の中でも3本の指に入るビックイベントの文化祭が開催され、その後日、体育祭も行われる。
1月前から実行委員の活動は始まっていると聞いたことがあるが、俺を含む一般の生徒たちが文化祭が始まる感覚を味わうのは今日からだろう。
そう、出店で提供するメニューが決められたことで、我がクラスの文化祭に対する火ぶたが切られた。
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