第51話 帰宅部のはずなのに
時刻は18時45分。空には夕日が飾られている。その一方で、半分ほどは陽が落ち、暗闇と思しき雲が無造作に個性を醸し出されている。
俺は、図書館を退出すると、下駄箱で靴に履きかえる。そして、男子バスケ部の部室に向かう。
到着するなり、唯一の扉をノックする。手の甲にわずかの痛みを覚える。
「ちょっと待って。すぐ行く!」
活気のある声が室内から響いてくる。推測するのに、1人だけ内在していると思われる。
ガチャっと勢い任せに扉が開け放たれる。
「ごめん。お持たせ」
新田は、肩にリュックサック、片手にお着替え袋を携えていた。
「ちょっと。寄る場所があるんだけどいいかな?」
俺は髪の毛をぽりぽりと掻く。
「いいけど、どこに行くんだ?」
新田は、頭上にハテナマークを作り出している。
「それが、こっちなんだけど」
俺は手を使って新田を誘導する。20秒ほど歩くと、目的地に到着する。両者の前には、1つの扉が設けられている。
「おい、ここって」
「うん。新田の予想している通りだよ」
新田を他所に扉を3回ノックする。先ほどと同様、手の甲にわずかの痛みを覚える。
「香恋!俺だよ」
俺は扉越しに声を掛ける。ごそごそと物音が聞こえてくる。
「・・・遅い」
姿を露にするなり、香恋は不満を吐露する。
「ごめん。遅くなって」
俺は、スクールバックを左から右に移動させる。
「この人も一緒なの?」
香恋は露骨に訝しむ。
「うん。ダメかな?」
おねだりするように彼女のやや薄い赤色の瞳を覗き込む。
香恋が表情を創らない時間が何秒間か生まれる。瞬きだけが、数秒間に1回行われる。
「いいわよ。行きましょ」
部室の扉がカギによって施錠される。ガチャリっと。
校門に差し掛かり、歩道を並んで歩いているが、3人の間に会話はない。俺は、2人と面識あるが、当人たちはない。そのため、俺が切り出さない限り会話は生まれない。
「今日、同じ中学校の男子に話しかけられたんだけど」
予想しない出来事が起こった。香恋が、気を利かせたのか(多分違う)、話題を提示してくる。
「その男子って?」
「私と敦宏と同じ中学校で、確か、バスケ部でもエースだった人だと思う」
「野水君のこと?」
当てずっぽうで答えてみる。
「う~ん。確か、そんな名前を自分で名乗っていた気がするわ」
香恋は首を横にかたむける。
「多分、そうじゃないんかな。紺色の髪に紺色の瞳をしてなかった?」
俺は、野水君の特徴的な容姿を例に挙げてみる。
「そう。その特徴と合致する男子だったわ。それでね、その男子に「久しぶり」って声を掛けられたのよ」
まぁ、「適当に対応したけど」っと零し、息を吐く。
「赤森、その野水って人とはどんな関係なんだ?」
新田が、切羽詰まった様子で質問を投げ掛けてくる。その表情から必死さが垣間見えた。
「い、いや、中学生のときの部活仲間だよ」
新田の剣幕に圧倒され、歯切れの悪い回答をする。
「そ、そうか。そうなんだ」
新田はなぜか体を上下に揺らし安堵した様子である。
どうしたんだ新田?何か不安を覚える事柄があったのか。
「やれやれ。この人も少し重症ね」
香恋が冷ややかな目をしながら、肩を竦めている。
俺たちが並列で歩いている最中、1台のハイエースが3人存在する歩道の付近を通過していった。
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