第15話 新キャラ登場

 


 俺は学校が終わり1人で帰宅している。


 今日は朝本さんに一緒に帰るよう誘われなかった。帰りのホームルームが終わった後に教室で友達と仲睦まじく会話をしていたことから放課後に友達との遊びの約束があるのだろう。


 香恋も今日はおそらく部活動があるのだろう。そのため、久しぶりの1人で下校いわゆるボッチ下校である。まあ、久しぶりといっても2週間を超えていないレベルなのだが。だが、なぜか久しぶりに感じる。最近、いろいろな出来事が何度も起こったかな?


 約1週間前を思い出して懐かしく感じる。実際、あのときはこんな感じだったしね。


 俺はそんなことを脳内で考えながら正門に向かってゆっくり足を進める。


「赤森君?」


 俺の学校の制服を身に纏った小柄な女子生徒は俺の存在を視認するや俺の名字を呼ぶ。


「名都(なつ)さん」


 俺は思わずそのような言葉を口にした。


 名都美奈(なつ みな)、今さっき俺に声をかけてきた女子生徒の名前である。肩甲骨あたりまで伸びたライトブラウンのロングの髪に、ブラウンのぱっちりした瞳をした女の子である。それに、名都さんはぱっと見、身長150センチ前半ぐらいの小柄で顔立ちは一般的な女子高生と比較しても幼く、かわいらしい見た目をしている。


「・・・久しぶり・・だね・・」


 名都さんは緊張しているのかよそよそしいというか歯切れの悪い言葉を俺にかけてくる。


「うん・・。そうだね・・」


 俺もそれにつられて同じような態度をとってしまう。


 

 名都さんと会ったのは実に2ケ月ぶりぐらいだ。


 ちなみになんで名都さんが俺を知っているかというと、名都さんは以前に俺が所属していた男子バスケ部のマネージャーだからである。学年も俺と同じ2年生である。


 しかし、バスケ部のマネージャだからといって別に親しかったわけではない。いや、別にというレベルではない、全くというほど親しくなかった。実際に俺が名都さんと会話をしたことがあるのは今のちょっとした会話を併せても片手で数える程度のものだ。


 しかも、会話をしたことがあるといっても名都さんが物を落としたときを俺が気づいて声をかけたり名都さんが部活関連の重要事項などを俺に伝えるときに声をかけてきてそれに俺が返答するといった形である。これを会話といえるレベルかどうかわからない。その程度のレベルの会話ぐらいしか交わしたことがないのだ。


 そのため脳裏では「なんで名都さんが俺に話しかけてきたんだ?」という疑問が話しかけられた後から今までずっと駆け巡り続けている。


 

「あそこにいるの名都さんじゃない?」


「ほんとだ!すごいかわいいよねー」


「名都さんって本当に見ていて癒されるよな」


「ああ!本当にな!さすが俺たち男子の癒しである"癒し姫"。くー守りてぇー!!」


 そのような声が周囲から聞こえてくる。名都さんを見かけた人達の反応だ。てか、最後の奴、なんだよ守りてぇーって。そんな保護欲湧いてるのか?それにしても、名都さん"癒し姫"って呼ばれてるんだ。知らなかった。初耳だよ!!確かに、部活内でも名都さんを見ながら「癒される」と言っていた部員は多数いた。でも、"癒し姫"という言葉は聞いたことがなかった。俺が知らなかっただけかな・・。


 まあ、そのような呼び名で呼ばれるのは理解できないわけではない。実際に、名都さん、小柄な上に幼くて整った顔立ちをしてるし。見ていて癒されるというのもわからなくはない。


「え~と、名都さん。今日は部活はないの?」


 さすがにこのまま立ち去るわけにはいかないのでふと頭に浮かんだ疑問を口にする。「なんで俺に話しかけてきたの?」とは聞けない。聞けるかそんなこと。自意識過剰に見える上にそれを聞くだけの勇気を俺は持ってない。


「うん!今日は部活休みなんだ」


 緊張している感じはまだ抜けていないのだが笑顔で質問に返答してくれる名都さん。なるほど。だから名都さんは今日はこの時間でも制服を身に纏っているんだな。


「そうなんだ」


 自分で質問をしておいてこれ以上会話を広げることができず相槌をうつようにしか言葉を返せない俺。自分のコミュ力の低さに涙が出そうだ。ひどい。


「あの・・」


 名都さんは俺の顔を窺うようにこちらを

見てくる。


「赤森君って・・今日の放課後・・時間・・ある?」


 名都さんは俺から視線を外し体をモジモジさせている。よく見ると顔も少し赤い。


「う、うん。時間はあるよ」


 俺は突然のそのような質問に驚きながらも言葉を返す。というか、名都さん?なんでそんなこと聞くの?しかも、態度もおかしいよ。


「今日ね・・、部活で必要な部品の買い出しがあるんだけど、けっこう買うものが多いの。それで・・赤森君・・・もしよかったら買い出しのお手伝いをしてもらってもいいかな?」


「へ?」


 俺は素っ頓狂な声を出してしまう。


 待って。少し頭の中を整理する時間が欲しい。なんで俺なの?バスケ部のメンバーにそれを頼むならならそれはおかしいことではない。至極普通のように思える。でも、俺は元バスケ部のメンバーだよ。しかも、別に親しい関係でもなかったはずなのに。う~ん、考えても全然わからない。


「ダメ・・かな?」


 うっ。俺は心中でそのような言葉をぼやいてしまう。


 脳内で考えを巡らしていた俺に対して名都さんが不安げな表情をしながら上目遣いで俺の目を覗き込むようにして見つめてきたからだ。俺はその名都さんの表情としぐさにドキッとしてしまった。そのせいで普段より鼓動が激しくなり脈を打つ音が耳に鮮明に聞こえてくる。後、体がいつもより熱い。


 俺は身長が低い。それは同級生と比べても明らかだ。同級生の中には180センチやら170センチ以上やらがごろごろいるのに対し俺の身長は161センチである。小さい。明らかに。おそらくだが、俺は同学年の男子の中ではトップレベルで小柄なのではないだろうか。少なくとも、俺のクラスでは俺より身長が低い男子生徒はいない。余談だが、俺は足も小さい。足のサイズは24・5だ。メンズの靴ではサイズを探すだけでも一苦労だ・・。


 そんな低身長の俺なので上目遣いというものを今まで体験したことがなかったのである。まあ、女子との面識がほとんどなかったというのはもちろんあるけど朝本さんにしても香恋にしても俺とあまり身長変わらないんだもん。さすがに俺の方が高いけど5センチも差ないよ。


 そのため俺は名都さんの上目遣いを目にして不覚にもドキッとしてしまったのだ。これが上目遣いかー。これは男たまらんわー。


 てか、こんなことをしている場合じゃない。名都さんが不安げな瞳をしている。俺の言葉を待っているんだろう。


「いいよ」


 俺は了承の返事をする。


「え、ほんとに?ほんとにいいの?」


 名都さんは確かめるように俺の顔に顔を近づけてくる。


「う・・、うん」


 俺は名都さんの気迫に押されてややたどたどしい返答をしてしまう。


「やった!赤森君ありがとう!!」


 名都さんは顔立ちから想像できない豊満な胸の前で両手の拳を握って小さなガッツポーズをする。すぐに引っ込めてしまったが。おそらく無意識だったのだろう。


 それにしてもガッツポーズするほど喜ぶ

ことかな(苦笑い)。


 この後、俺と名都さんは備品?の買い出しに行くため正門をくぐるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る