第16話 帰宅部の俺が部活の買い出し



 俺は名都さんに買い出しの誘いをされた後、必要な備品を買うため名都さんと一緒にショッピングモールに来ていた。


 俺と名都さんは今、ショッピングモールの中に設置されているスポーツ用品店の中にいる。


「う~んと、次は・・」


 名都さんは必要な備品をまとめて書き上げた白い紙のメモに顔をやや近づけて覗き込むかんじで見ている。必要な備品が何々あるのかをチェックしているのだろう。


 名都さんが買い物用のカゴを手で掛けるかんじで持っているのだが、今のところカゴの中に入っているものは、テーピング用のテープや、絆創膏、怪我のときに直接吹きかける冷却スプレーなどがある。また、他にも、アイシングに使用する氷の入れ物やスポーツ飲料の粉末が入った小さい袋が大量に入っているだろうと予想できるやや長い箱、スクイズボトルがある。


 結構買うものがあるなと心中でボソッとぼやく。これ以外にまだ、買うものがあるとしたら、名都さんが1人で買い出しをするのはしんどそうだな。


「赤森君!このお店ではもう買うものがないからお会計をしてくるね」


 俺がそんなことを考えていると名都さんがそう声をかけてくる。


「うん。わかった」


 俺は返事だけすると、入り口にドアがないオープンにされているスポーツ用品店を出た。このように店がオープンにされている入り口は大きいショッピングモールならではの特徴だ。入り口がオープンにされていることによって気軽に店に入りやすくしている。


「お待たせ!ごめんね。待ってもらって」


 俺が入り口付近で少し待っていると、会計を終わらせて大き目のレジ袋を2つ両手に持ちながら店から出てきた名都さんが俺の元にやや駆け足で寄って声をかけてくる。


「いいよ。気にしないで」


 俺は思っていることを口にする。実際に"待ってもらって"と言われるほど俺は待っていない。


「あと、名都さんその荷物俺が持つよ?」


 俺は名都さんの体の前に軽く手を差し出し、荷物を渡してくれるように促す。


「えっ、そんなの悪いよ。私の買い出しにわざわざ手伝ってもらっているんだからこれぐらい私が1人で持つよ」


 名都さんは俺の方を見ながらそのように答える。


「そのことは気にしないでいいよ。それに、まだ買わなければいけないものがあるんでしょ?」


 今はまだ持てるかもしれないが、これからまだ買うものが荷物になると名都さんは持つのがしんどくなるはずだろう。そのためにも俺が荷物を持つのが当然だろう。それに、

荷物を持つのは男の仕事だから。


「・・わかった・・。ありがとう赤森君・・」


 名都さんはそう言って申し訳なさそうに右手に持っているレジ袋を手渡してくる。中には、スポーツ飲料の粉末が入ったやや長い箱と冷却スプレーが入っていた。


「もう1つも持つよ?」


 俺は全部の荷物を持つ予定だったのだが、もう1つのレジ袋は名都さんが左手にある。


「もう1つは私が持つ。さすがに赤森君に全部は持たせられない」


 笑顔で俺の疑問に答える名都さん。


 俺はそんなこと"気にしなくてもいいのに"と心中で思ったのだが、言葉には出さない。名都さんの様子を見るに多分、荷物を俺に渡さないだろうからだ。根拠はないが直感でそう感じたのだ。


 そのため、俺は何も言わず名都さんと一緒に並んでまだ買っていない備品を買うために次なる店に向かった。


             ・・・


「もう買うものはないかな?」


 ショッピングモールの通りを歩きながら俺は隣で並んで歩いている名都さんに

疑問を投げかける。


「う~ん。ちょっと待ってね」


 名都さんは俺の言葉を聞くと、買い出しで買う備品が書かれたメモをさっと制服のポケットから取り出して確認するように見る。


「うん!もうないよ!!」


 名都さんはかわいらしい笑顔で俺の方を見ながら返答してくる。くっ。かわいいな。名都さんの顔は幼くて童顔だ。その上、小柄なため小動物感があり、子供みたいな無邪気な笑顔だ。かわいいという感想しか出ない。


「赤森君どうしたの?」


 俺が何も反応していないことになにかを感じたのか、ボーッとした人に呼びかけるように名都さんは俺に声をかけてくる。


「な、なんでもないよ」


 俺は名都さんの言葉が耳に入るや誤魔化すように慌てて歯切れの悪い言葉を返す。さすがに、名都さんの笑顔を見てかわいいと思ったとは言えない。言えるはずがない。もし、言える奴がいたらそいつがすごいかおかしいかのどっちかだと思う。


「じゃあ、帰ろうか」


 俺がそう言うと、名都さんと一緒にショッピングモールの出口に向かう。


 出口に向かっている途中に牛丼屋やファストフード店が並ぶ飲食店コーナーの付近を通った後に、エスカレーターに乗り、今、俺たちがいる4階のフロアから1階へとスーッと機械に身を任せながら降りた。


 エスカレーターに乗る際には、俺が前で名都さんが後ろにいる形をとった。決して、カップルがしているような迷惑でしかない並列で並んで降りるようなこと

はしない。


 俺と名都さんは1階のフロアに足をつけた後に、入り口に向かいショッピングモールを出る。


 ショッピングモールを出た後、俺たちは少しの時間並んで歩く。そのときに会話はない。


 そんな時間を現在進行形で過ごしながら進んでいくと、分かれ道が目に入る。


 俺からしたら右手に位置するの道は住宅街の方に向かっていく道で、もう片方の道、左手に位置する道は最寄りの駅に向かう道だ。


「俺は右側だから」


 そう言葉を発しながら俺は右側の道にやや体を傾けながらその方向を人差し指で指さす。俺の家はここから住宅方面の道を10分

ほど徒歩で進んだ場所にあり、住宅街の中にある。


「名都さんはどっち?」


 確認しておくべきだと思い、名都さんにそのような質問を投げ掛ける。


「違うよ・」


 名都さんは往復するように頭を横に振る。


「私は駅方面だから」


 名都さんは俺の方を見ながら質問に答える。


「そうなんだ」


 俺は反射的にそのような言葉を発していた。てか、なんだよ。"そうなんだ"って。コミュニケーション能力低すぎだろ。


「じゃあ」


「うん・・。またね」


 そう1言だけ言って俺は帰路へと歩を進める。このような場面のとき俺が名都さんを自宅まで送り届けるのが世間的に正しいことかもしれない。しかし、俺は名都さんと親しい関係ではないし付き合っているわけでもない。そんな男が家まで送り届けてくれるのは、恐怖を感じるのではないかと俺は思うし、俺だったら嫌だ。想像しただけで悪寒

がするわ。


 結論、俺は踵を返して家に帰宅する。以上。


 それと、踵を返す際に名都さんの顔が一瞬だけ見えたのだが、そのときの名都さんの表情が、名残惜しんでいるような悲しそうな表情をしていたのは俺の見間違いだろう。


 そんなことが歩きながら頭にふっと浮かんだが、気にしないように意識して帰路についた。

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