第11話 どうして香恋?

 

 

 学校が終わり、俺は帰りの支度をする。


 俺は自分の席に座っている。


「赤森君」


 俺が帰りの支度をしている最中に誰かが声をかけてくる。明るくて、かわいらしい女性の声だ。


 帰りの支度をするためにカバンに向けていた視線を上に向ける。


 視線を向けた先にはこれでもかというくらいにまぶしい笑顔をした朝本さんがいた。


 俺の席までわざわざ足を運んでくれたのだろう。

  ...

「今日も一緒に帰らない?」


 朝本さんは俺に一緒に帰ろうと誘ってくる。


 山西先輩の1件から5日がたった。


 その1件から何かと朝本さんから「一緒に帰らない?」と誘われるようになったのだ。なんでだろう?俺と関わっても良いことないのに。


「うん。いいよ」


 朝本さんの誘いを断るはずもなく俺は2つ返事で了承する。


 俺の返事を聞いた朝本さんは嬉しそうな表情をする。


 

 俺は早々に帰りの支度を済ませて朝本さんと一緒に教室から出た。


 帰りの支度を済ませるに多少の時間を要したが、朝本さんは気にすることなく待ってくれた。やさしい・・。


 俺と朝本さんは並んで廊下を歩く。朝本さんが俺に話しかけてきて俺がそれに答えるという形で会話をした。


 会話の内容は趣味の話や今日の出来事や授業のことなどだ。


 趣味の話だが、朝本さんの趣味はお菓子作りと喫茶店巡りらしい。実に女の子らしい?のかな。


 2人で会話していると昇降口にたどり着いた。


 教室から昇降口まであまり距離はないはずなのになぜかすごく遠く感じた。やはり朝本さんといると目立つから?実際に、廊下で一緒に歩いているときもたくさんの生徒から視線を感じたし。


 それはさておき、俺と朝本さんは昇降口で上履きから靴に履き替えて校門に

向かう。


 俺と朝本さんが向かっているのは正門だ。だが、俺は正門を通る前に毎回、心臓の鼓動が早くなる。


 正門に行くまで長い1つの道があるのだが、その道の途中には体育館があり、近くには体育館で活動を行う部活の部室もある。そこにはもちろんバスケ部の部室もあるわけで。


「おっ。赤森じゃん」


「本当だ。ちび森じゃん」


 バスケ部のメンバーに遭遇する可能性があるわけで・・。って、もう遭遇しているか。



 俺と同級生のバスケ部所属の男子2人が俺を見つけるや否や声をかけてきた。2人はニヤニヤっと笑みを浮かべている。


 この2人は部活に所属しているときに山西先輩と一緒に俺をバカにしてきた奴らだ。1人は180センチ近い長身、もう1人は170センチぐらいのやや高い身長である。実際には、他にもいたのだが。同級生で特にひどかったのはこの2人だった。



「なんでちびで冴えないお前が朝本さんと一緒にいるんだよ」


「ちび森がボッチで可哀想だから気を遣って関わってあげているだけだろ」


「そうだよな。それしか考えられないよな」


 2人は腹を抱えながら「ギャハハハッ」と高笑いする。


「朝本さん、気にしなくてもいいよ」


 朝本さんは悪口を口にして俺をバカにしている2人を睨みつけて何かを言おうとしている朝本さんを止めるように促そうとする。


「なんで?あの2人、赤森君のことバカにしてるよ」


 朝本さんは苛立ちの口調で俺の言葉に不満げに返答してきた。


「言わしておけばいいんだよ。言い返しても無駄だし。それに、こういうのは言われ慣れてるから」


 俺は笑顔を朝本さんに向ける。


 朝本さんは言いたいことがあるかもしれないけど、ここは抑えてもらわないと。これは俺に関することだから。朝本さんに迷惑をかけるわけにはいかない。


 俺がそんなことを心中で思っていると。


「あんたたち、人のことをバカにしてそんなに楽しいわけ?」


 そのような言葉が耳に入ってくる。


 うん?この声どこかで聞いたことがあるような。


 凛としている声というか、堂々とした声というか。


 俺は声のした方向に視線を向ける。声のした方向は俺をバカにして笑っている2人がいる方向だった。


 そこには制服姿で2人を睨みつけて立っている香恋がいた。香恋は切れ目だから普段からやや目つきが鋭いのだが、睨みつけていることでより目つきが鋭くなっている。


「「へっ」」


 俺をバカにしていた2人は間抜けな声を出す。いきなり声をかけられて思わず出てしまったのだろう。


「あんたたち2人に言ってんのよ」


 香恋は苛立ちの口調で言う。


 香恋は2人と2メートルぐらい離れた位置にいる。


「あんたたち、ちびって言ってたけど身長が高いことがそんなに偉いわけ?身長が高かったら低い人をバカにするって、しかも2人で1人をね。私から見れば、あんたたちの方がよっぽどちびに見えるけど」


 香恋は捲し立てた後、言葉を1度切る。


「人間的にね」


「なっ」


 2人のうちの1人が素っ頓狂な声を出す。もう1人は声も発さず黙っている。


「本当にダサい」


 香恋は憐れむような目を向けて吐き捨てるように言葉を放つ。


「な、なんだと」


 長身の1人が大きな声を出して香恋の方を見る。威嚇しているように見える。


「なに?」


 香恋はそう言いながら鋭い眼光で長身である男子を睨みつける。


「ぐっ」


 長身の男子は香恋の眼光にびびった声を出す。逆に、威嚇されたようだ。まあ、無理もない。実際に、怖い。

     

       ・・・

「なんで、あの睨み姫がこんなに怒ってるんだよ」


 長身の1人がもう1人に声をかける。


「さ、さあ」


 もう1人は突然声をかけられたためか歯切れの悪い返事をする。


「とにかく行くぞ」


「お、おう」


 2人はそそくさとその場から立ち去る。


 香恋のおかげで今現在の、問題は解決した。明日のなったらどうなるか分からないからだ。また、あの2人がバカにしてくる可能性はなくはないから。いや、その可能性の方が高いか。


 でも、なんで香恋はこんなことしたんだろう?


 俺のためではない。ということは、あの2人が悪口を言う声と笑い声がやかましかったためだろう。確実にそうだ。それ以外には考えられない。


 それにしても、睨み姫って。まあ、香恋ならそう言われるかも。目つきは鋭いけどかわいい顔してるし。


 そんなことを考えていると香恋がこちらに視線を向けてくる。俺の考えてることバレたかっと内心ドキッとした。

 

 ・・

「敦宏(あつひろ)、その女の子なに?」


 香恋は俺の方を見ながらそのような質問をしてきた。


 俺は突然のことに驚きながらも「え、なんでそんなこと聞く?」と心中でぼやいた。

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