第10話 人気者がボッチと会話をした理由


(※朝本萌叶視点)


 お風呂から出た後、2階に上がって自分の部屋に入る。風呂から出てあまり時間がたっていないためか、体は火照っている。


 私は首にかけているタオルを右手に持つと顔に出ている汗を拭きとる。


 少しスッキリする。そして、ベットに軽くダイブする形で寝転がる。


 今日は赤森君と一緒に私のお気に入りである喫茶店でお茶をした。赤森君にお礼をするためだ。


 赤森君の存在は1年生のときから知っていた。組が同じだったからだ。


 でも、私は1年生のときに彼と話したことがなかった。


 それは彼が常に男子の友達と一緒にいたから。


 その上、私は彼が女子と話しているところを見たことがなかった。


 彼は男同士の友達関係を重要視しているのか?いつも男子の友達に気を遣っているように見え、女子など眼中にないようだった。


 実際に眼中になかったのだろう。


 私は赤森君以外のクラスメイトとは何か会話をしている。何かと1年の間に自然とクラスメイトと会話をする機会があるのである。


 だが、赤森君とは機会もなかった。話しかけるなオーラではない何か違ったオーラを彼は纏っていた。それに、近くには何人かの男子たちがいた。話す機会など存在しなかった。


 最終的に私は赤森君と1回も話すことができなかった。そのためか、私は赤森君に少しだけ興味があった。


 私はそんな感情を抱きながら2年生になった。赤森君とはまた同じクラスになった。


 私は彼の行動を観察した。我ながら少し変態だと思う。


 観察を始めて1週間がたった。それに

より、私は2年生になった彼の行動を見て目を疑った。


 驚天動地とは正にこのことだと思った。


 何かしらいつも男子の友達と一緒にいた赤森君がクラスの誰とも関わらず1人で静かに机に座っていたからだ。


 それは新学期の初日から見て取れた。


 私は新学期が始まって友達づくりに失敗したか何かだと思っていた。彼が親しくしていた男子は違うクラスになっていたから。


 しかし、1週間、2週間がたった。


 赤森君は誰とも話さず関わらず学校生活を送り続けていた。


 クラスメイトである生徒達も誰1人と赤森君に声をかけなかった。みんな彼が出しているオーラを敏感に感じていたのだろう。


 そして、新学期が始まって1ケ月後の放課後、私は教室にいる赤森君に話しかけた。彼はそのとき1人で黒板をきれいにしていた。掃除当番は何人かいるはずだが彼は1人で掃除をしていた。


 赤森君と話してみると1年生のときと変わっていない様子だった。


 赤森君は見た通りの人だったことが話してみて改めてわかった。よそよそしくて私に対して常に気を遣っているのが話していて非常に伝わってきたからだ。


 結局、その日は何気ない会話をするだけだった。私は初めてこの日に赤森君と会話をすることができたのだ。


 赤森君と会話をして1日がたった。


 赤森君はこの日、早々と教室を出て行き帰宅してしまった。何か用事があるのかな?という疑問を持ったが気にしなかった。


 私は支度を済ませ教室を出て帰路についた。


「萌叶ちゃん。今から時間空いてる?俺とショッピングモールでも行って遊ぼうよ」


 私が帰路の道を歩いている途中うちの学校の制服を身に纏う高身長の男子生徒から声をかけられた。


 その人は山西先輩。私の1個年上の先輩でバスケ部に所属している男子生徒。友達の女の子から聞いた話だと"かっこよくてモテる"らしい。私はかっこいいとは思わなかったけど。


 山西先輩は2年生になってから私に会ってはしつこく遊びに誘ってきた。断ったらそのときは諦めるのだが、また会ったら誘ってくるという感じだった。私はすべて断っていた。私が山西先輩のことをあまり知らなかったこともあったのだが、1番は女癖が悪くてチャラいという評判を聞いたことがあったからだ。


 山西先輩と恋人関係になって涙を流した女の子はかなりいるらしい。


「すいません。行きません」


 私はいつも通り誘いを断って早々に山西先輩の元から立ち去ろうとする。


 だが、それは叶わなかった。私が立ち去ろうとする際に山西先輩が私の手首を掴んできたからだ。


「放してください」


 私は大きな声を上げて離れるように山西先輩に抵抗する。だが、山西先輩の力の方が強くて抵抗してもまったく効果がなかった。


「さぁ、行こうか」


 山西先輩はそうつぶやくと私の手を引いて連れて行こうとする。


 私は恐怖から助けを求めるように周囲を見渡す。だが、周囲にいる人たちは目を合わせなかったり知らないフリをしてその場から立ち去ったりしていた。私を助けようとしてくれる人は誰もいなかった。


 そんなとき。


「山西先輩、なにしてるんですか?」


 明るい声が耳に入って来た。


 私は声のした方向に視線を向ける。そこにはなぜか。赤森君の存在があったのだ。


「あ?なんだお前。て、赤森か」


 赤森君と山西先輩は知り合いに見えた。


「いいところって言う割には嫌がられているように見えますよ?」


 少しの会話を交えた後、赤森君がこの状況の違和感を指摘する。


「これは照れてるだけなんだよ」


 山西先輩はウソの理由を口にする。


「照れてません。なに言ってるんですか?」


 私は恐怖におびえながらもなんとか言葉を発した。黙っていたら肯定と捉えられてしまうと思ったからこその咄嗟に出た言葉だった。


 立場が悪くなった山西先輩は舌打ちをした。


 赤森君は山西先輩が油断しているスキを狙って私の手から山西先輩の手を引き剥がした。私と山西先輩の間に赤森が割って入るように立つ。


 赤森君は私の前方に立って逃げるように促した。


 私はそれを拒否した。当然だ。助けてもらった私が赤森君を置いて逃げるというのはおかしいし、このまま赤森君がタダで帰れるようにはとても思えなかった。


「赤森てめえ」


 山西先輩はそう言いながら赤森君を鋭い目つきで睨みつけている。


「いいから」


 私は赤森君の語気を強めた口調に肩をビクつかせた。


 "さっさと行け"と言われているようだったから。しかし、語気を強めてそう言った彼の肩は少し震えていた。


 私は歯切れが悪いながらも了承して駆け足で赤森君から離れて逃げる。


 その後、私は少し離れた場所にあった交番に足を運ぶ。走ったからなのか額や頬に汗が流れる。


 私は警察官の人と一緒に先ほどいた場所に向かった。でも、そこに赤森君と山西先輩はいなかった。


 私は近くにいないかと思って辺りを見渡す。すると、私の目に誰も人がいなさそうな路地裏に続く入り口があった。


 私はもしかしたらと思い、警察官に人に声をかけて共に入り口に足を運んだ。


 誰もいないやや暗い1本道を進んでいくと、曲がり角がありそこを曲がると路地裏の突き当りに出た。


 私はそこに出ると、学校の制服を着た男子生徒の倒れている姿が私の視界に入った。着ている制服は足で踏まれたのか、泥や小石が媚びりついてひどく汚れている。


「赤森君!」


 駆け足で倒れている赤森君のそばに駆け寄ると彼の体を両手で揺する。


 返事はない。息をしているかを確かめるため赤森君の口に耳を接近させる。


 幸いなことに、スー。スー。と定期的なリズムをとって息をしていたのだが、赤森君は気を失っていた。


 山西先輩は?と思い辺りを見渡すと突き当りの壁に寄り掛かっている山西先輩を視認できた。山西先輩も気を失っているように見える。


 私は警察官の人に赤森君がいたことを口頭で伝えると携帯電話を救急車をよんだ。救急車が到着すると、乗っていた人が担架を持って路地裏の突き当りに駆け寄ってきた。


 赤森君と山西先輩は救急車に乗せられて

病院に連れて行かれた。もちろん別々の救急車で。


 友人というポジションで私は赤森君の乗っている救急車に同伴した。


 病院では、赤森君の体の状況をお医者さんの先生から聞いた後に、彼が目覚めるまで病室でイスに座っていた。


 彼が目覚めた後は、めちゃめちゃきれいなお母さんが来たり、なみだ目の山西先輩が赤森君に謝るということが起きた。


 そして、今日、休まずに学校に来ていた赤森君にお礼をしたいと思い赤森君を誘った。


 だが、彼は『お礼はいいよ。大したことしてないし』と言って私のお礼を1回断った。


 大したことしてない?


 私には理解ができなかった。


 私を助けるたことで自分よりも身長が高く体格もいい人と戦わなければならないことになりその結果、体中に傷を負った。それが大したことをしてない。そんなことあるわけがない。大したことすぎるぐらいだ。


 もう1回誘うことで了承はしてくれたけどあまり乗り気には見えなかった。


 その後、山西先輩に偶然にも遭遇して恐怖におびえてしまって赤森君に迷惑かけてしまった。我ながら自分がすごく情けないと思う。


 それにしても、今日の喫茶店で赤森君と話をしたのはすごく楽しかったなー。


 他愛もない会話をしただけなのに。


 それに、赤森君と一緒にいたり話していると胸がドキドキする。


「私、どうしたんだろう」


 私は独り言をつぶやいてベットの上にある枕を抱きしめる。


 昨日から赤森君のことばかり考えてしまう。彼のことが頭から離れない。


 授業中のときも彼が気になってチラ見をしてしまう。今日、何度それをしたかわからない。


 また、赤森君のことを考えてしまう。


 鼓動が激しくなって胸がドキドキし、体が湯たんぽのように熱くなる。体温は部屋に入ったときより上がっている。


「ほんとうに、どうしたんだろう」


 私は寝返りをうって体を横向きの姿勢にし、枕を胸の前でぎゅっと抱きしめた。


 結局、この日の夜は赤森君のことで頭がいっぱいだった。

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