第2話 なんで俺に話しかけてくる?


 俺は授業が終わった後、掃除当番だったので今現在、教室の掃除をしている。


 掃除当番は5人いるのだが掃除をしているのは俺だけだ。


 他の4人は掃除をサボって教室をそそくさと出て行った。


 部活か遊んでいるかのどちらかだろう。多分。


 しんどいな、と思いながらも俺は1人で教室内を掃除していた。


 床の掃き掃除は済ませたので、今は黒板を黒板消しを使ってきれいにしている。


 俺は真面目な性格なのか、当番のような与えられた仕事はしっかりやらないと気が済まなかった。


 これが原因で部活で陰口や悪口を受けたこともあった。


 真面目で気持ち悪いとか、いい奴ぶってるとか。


 なぜそんなことを言うのだろうか?


 まあ、今考えてもしかたのないことだな。


 そんなことを考えながら黒板をきれいにし終わると落ちたチョークの粉をあらかじめ用意していた雑巾で拭き取る。


「真面目なんだね」


 かわいらしい女の子の声が耳に入ってくる。


 声のした方向に視線を向ける。


 そこには学年でかなり人気のある女子生徒、朝本さんがいた。


 朝本 萌叶(あさもと もえか)。背中まで伸びる明るいベージュの髪に、薄いイエローの瞳をした清楚な空気を纏った美少女だ。


 髪に付いている花の髪飾りがチャームポイントである。


「そうかな。普通だと思うけど」


 なんで俺なんかに?と怪訝に思いながらそう答える。


「私はそうは思わないけどなー」


 朝本さんはそう言いながら意味深な表情で微笑む。


「赤森君って変わったよね」


「なにが?」


 俺は朝本さんが不意にそんなことを言ってきたので気になって質問をする。


「1年生のときはずっと男子の友達と一緒にいたから」


「ああ、そうだね」


 俺は1年のときは基本、男友達と一緒にいた。だから、今みたいにボッチでいることは昨年の俺を知っている生徒からは変わったと思われてもおかしくないだろう。


 付け足すようだが、朝本さんと俺は1年のときに同じクラスだった。


「あのときは赤森君すごい話しかけづらかったんだよ」


「そうなんだ。それは知らなかったよ」


 朝本さんはそう言うが、俺は朝本さんと話した記憶はない。


 いや、今日初めて話しただろう。


 なのに話しかけづらかった?


 なんで人気者でスクールカースト上位の朝本さんが今現在、スクールカースト最底辺の陰キャボッチの俺にそんなことを言うんだ?


 謎だ。


「背中汚れてるよ」


 俺が落ちたチョークの粉を拭き終えて、帰宅するために荷物を取りに行こうとしたときに、朝本さんが背中を指差して俺の元に近づいてくる。


 近くまで来ると、朝本さんは右手で軽く背中を叩いてチョークの粉を制服のブレザーから落としてくれる。


「あ、ありがとう」


 背中に朝本さんの手の感覚を感じて照れて歯切れの悪いお礼をしてしまう。


「いーえ」


 朝本さんはかわいい声で笑顔を向けてくる。


 その笑顔は窓から入った光のせいなのか、すごくまぶしい笑顔だった。


「俺帰るから」


 帰りの支度を済ませた後、朝本さんに一応そう声をかける。


「うん、またね。掃除お疲れさま」


 朝本さんは手をひらひらと振ってくる。


 手の振り方がかわいい。


 そんなことを思いながら教室から出て帰路についた。

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