第3話 幼馴染


 俺は昇降口で上履きから靴に履き替えて学校の正門に向かおうとする。


 俺が通う陽成高校では正門と裏門があるが、俺が家に帰るには正門をくぐらな

ければならないのだ。


「1人で帰るって、ボッチは寂しいわね」


 正門に向かうために昇降口から歩を進めようとした瞬間、後方から声をかけられた。


「香恋」


 俺はふり返って声をかけた主の名前を呼ぶ。


 西宮寺 香恋(さいぐうじ かれん)。


 肩にややかかるボブヘアーに、切れ目のやや薄い赤色の瞳をした女の子だ。


 俺は幼稚園から香恋のことを知っている。いわゆる幼馴染というやつだ。


 だが、中学に上がった頃にはお互い距離ができて中学から今まで1度も会話をしていない。


 まあ、時々目はあってたりしていたのだが。


 俺と香恋との話はここまでにして。


「確かに香恋の言う通り寂しく見えるかもね」


 久々に話すので少し緊張する。


「しょうがないから私が一緒に帰ってあげるわよ」


「は?」


 俺は香恋のその言葉に驚いてそのような声を出してしまう。


「一緒に帰ってあげるって言ってんの」


 照れくさそうな香恋。


「いや、無理しなくていいよ」


 香恋がかわいそうだと感じてそう言ってくれているんだと思い、その誘いをやんわりと拒否する俺。


「いいから」


 香恋は苛立ちの口調になる。


 こういうのは昔と変わってないんだなと思いながら「わかった」と返事をする。


 俺と香恋は肩を並べて帰路である住宅地を歩いている。幼馴染ということで、家が近所なため自動的に帰路も一緒になる。


「なんで部活やめたのよ?」


 香恋が歩きながら不意にそのような質問をしてくる。


「知ってたんだ」


「知ってるもなにも新学期になって男子のバスケ部の練習にあんたの姿が1度も見受けられなかったから嫌でもわかってしまうわよ」


「それに・・」


 香恋が言葉を切って間を作る。


「あなたが部活を休んでいるの見たことなかったし」


「なんでそれ知ってるの?」


 俺は率直な疑問を投げかける。


「私も部活休んだことないから男子の練習が目に入ったときにあんたの姿がたまたま目に入っていただけよ。ほんと、それだけよ」


 香恋の語気の強い捲し立てが炸裂する。


 捲し立てた後、なぜか香蓮の顔は少し朱色になっていた。


「な、なるほど」


 香恋の捲し立てに歯切れの悪い返答をする俺。


 案外、香恋って俺のこと見てるのかな?


 いやいや、それはないだろ。香恋の言う通り男子の練習が目に入ってたまたま俺の姿がそこにあっただけだろう。


 そうだ。絶対にそうだ。


「で、なんでやめたのよ」


 香恋は再度聞き返してくる。


 そうだったな、と心中でぼやく。


「おもしろくなかった。だからやめたんだよ」


 俺は半分正解で、半分正解じゃない返答をする。


「ふぅ~ん」


 香恋は疑うような視線を俺に向けてくる。


「な、なに?」


 俺は怪訝に思って香恋に聞く。


「そういうことにしといてあげる」


 香恋は意味深な言葉を投げかけてくる。


「どういうこと?」


 香恋からはなにかを知ってるような感じがした。


「私こっちだから」


 香恋はそう言うと俺の質問には答えず、俺と違う分かれ道を歩いていく。


 俺は諦めて自分の家に帰るため香恋が通った道とは違う分かれ道に歩を進めた。

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