(二)‐2

 店に着き、壁際の席を要望した。幸い一箇所だけ空いており、案内された。そして水上咲良に新津が話した噂話の真偽をそれとなく聞いた。

「私、お見合い結婚だったの」

 そう切り出した彼女の顔には、笑顔がなかった。中学の時はよく笑顔を見せてくれていたのに。今は思い詰めているというほど深刻そうではなかったが、人生に疲れているような、少し無理をしているような顔だった。

「父は国家公務員だったんだけど、その父に勧められて。お相手は父の部下だった人。帝大法学部を優秀な成績で卒業した人だった。私当時、父には内緒で付き合っている人がいたから、その話、断ろうと思ってたの。でもね、父の健康診断でガンが見つかって。しかも見つかったのが遅かったらしく、結構進行していて、余命三ヶ月って宣告されたわ。だから私、その人と結婚することにしたの。急いで式も挙げたわ。その一週間後、宣告から二ヶ月しか経っていなかったけど、父は亡くなったわ。でね、その結婚相手っていうのが酷い人で、暴力は当たり前。仕事の虫で家には週末しか戻ってこないし。しかも女も作っていたの。『仕事の付き合いだ』って嘘ついていたけどね。その後、急に官僚を辞めて仲間数人で起業をしたの。でも軌道に乗らなくてね。数年で破綻した。それまでの仕事仲間は散り散りになったわ。夫の先輩が社長を務めていたんだけど、その人に全部責任を被せるようにして夫も辞めたわ。夫はその後すぐに就職したと言って家には戻ってこなかった。調べたら女の家に転がり込んでたのよ。その家に行って現場を見て、私、すぐに離婚を決めたわ。でもね、その後離婚調停で、財産分与だって言って、借金を半分押し付けられたのよ。破綻した会社の借金の一部を負っていたんだって」


(続く)

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