(二)

 そのようなわけで、本当に彼女が目の前に現れたときには正直驚いた。

 新津と会ってから一週間後、会社を退勤して駅に向かい、自動改札に入る直前に呼び止められたのだ。

 振り向くとそこには腰まで届きそうなストレートロングヘアーの女性が立っていた。容貌から水上咲良だとすぐに気づいた。彼女も退勤後だったのか、ビジネスにも着られるベージュのトレンチコートを着ていたので、艶のある漆黒の髪の色がより強調されて見えたのかもしれない。当時もスタイルが良かったが、今もすらりとしていた。身長はあの頃よりお互いに伸びたと思う。彼女も身長が伸びていたが、俺の方が二〇センチほど高かった。声は当時よりも低くなっていた。

「もしかして、水上咲良?」

 俺が聞いた。

「覚えていてくれたんだ」

 帰宅する人たちの流れの中で、再会できたことを喜びあった。

 口には出さないが「邪魔だからどいてくれ」という表情をした会社員たちが、俺たちのそばを抜けて自動改札を抜けていった。

「ちょっとお話しない」

 彼女の言葉に同意した俺は「近くの居酒屋でいいか」と聞いた。彼女が同意したので、居酒屋へ向かった。あと一〇歳若ければオシャレなバーに連れて行くところだったが、結婚して以降はそんな思考を俺は持ち合わせていなかった。


(続く)

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