第3話 それじゃ作ってみますか

 さて、前回までで一応マイギリ式・メタルマッチ・火打石での火熾しを一通り体験して成功させた私。市販品を利用しての実験でしたが、いろいろな問題が見えてきました。



 メタルマッチに関しては市販品に頼らざるを得ないので置いておくとして、まずはマイギリ式。火切ひきり板と火切り棒がセットな訳ですが、当然これらは消耗品。かつ、使う素材によって火つきの良し悪しがかなり変わってきそうです。

 また火切り棒に取り付けてあるはずみ車(円盤状の重り)の重さも、市販品は重いMDF板を使ってくれてはいるものの、若干軽めかも。

 それじゃ、改めて自作しちゃいましょうかね。



 ときどき笛も自作している私。幸い、材料も工具もいろいろ持っているものを流用できます。


 まずは火切り棒。回転軸には、11~13mmの細い篠竹しのだけを使いました。長さ約500mm。

 一節では無理なので、下から40~45mmくらいのところにひとつ、上から100mmくらいのところにもうひとつ節がある篠竹を3本選びました。


 弾み車を入れる関係で、節の部分があまり出っ張ってしまうと問題があります。表面は出来るだけフラットにしなきゃならないし、巻きつける紐があまり滑るのも具合が悪いので、篠竹の表皮は削り取ることに。


 下の節より下は、平の彫刻刀で約8mm角の四角い穴に加工しました。こうすれば、先端部分が消耗しても差し換えがきくので棒全体を作り直す必要はないですし、いろんな素材を簡単に試せます♪

 四角い穴にしたのは、差し換えた先端部分がしっかり回転してくれるように。棒と穴が両方丸だと、材によっては滑って空回りしちゃいますのでね。

 差し込む棒も片方だけ削って四角にまる面を作ってあげる必要はありますが、空回りの虚しさに比べればこんな労力、大したことじゃありません。

 割れ防止に、念のため篠竹の先端には凧糸を巻いておきました。


 次に弾み車。これは家にある材料ではまかなえなかったので、ホームセンターでかつらの円盤を購入。直径150mmで厚さ20mm。充分な重さです。

 円盤の中心に9mmのネズミ歯錐(先端が三又に分かれた錐)で穴をあけ、ヤスリと小刀で穴を軸に差し込めるギリギリの大きさまで慎重に広げていきます。

 回転軸上のちょうどいい位置まで差し込める穴があいたら、円盤が回転軸の下にずり落ちないよう差し込む横軸を準備し、それを食い込ませる溝を円盤に彫ります。

 今回は試しに直径3mmの竹ひごを長さ100mmで用意しました。溝は小丸の彫刻刀でちょっと深めに彫りました。


 篠竹の回転軸、下から50mmくらいのところに直径3mmの穴を手回しドリルであけ、上から30mmくらいのところに6mmのネズミ歯錐で穴をあけました。

 下の穴は前述の横軸、上は紐を通すための穴です。バリ取り面取りは小刀で。


 続いて横木作り。450mmの長さに切った桧の角材のど真ん中に9mmのネズミ歯錐で穴をあけ、ヤスリと小刀で適当に広げます。回転軸が引っかからないよう広めにっと♪

 両端から20mmのところに6mmのネズミ歯錐で穴をあけ、こちらはバリ取りと面取りのみ。紐が通れば問題ないし。


 作ったパーツを組み上げて、横木と回転軸に紐を通して火切り棒ほぼ完成。



 次は火切り板を作ります。

 ときどき頼まれて作る木製品がありまして、そいつの材料である一位の端材ならふんだんにあるので、こいつを使ってみることに。

 厚さ12~20mmの板を準備。50mm毎に一辺15mmのV字の切れ込みを作り、そのてっぺん付近に彫刻刀でなんとなく丸い穴を浅く彫って完了です。



 作ったからには試しますよ。

 回転軸に差し込む火切り棒本体は、火つきがいいとされる紫陽花あじさいを使ってみました。たまたまちょうどいい太さの乾いた枯れ枝が庭の紫陽花の木の下に落ちていたもので。

 まずは市販品の火切り板にセットしてっと⋯⋯



 いっくぜ~! おりゃおりゃおりゃりゃ~!



 バキッ!

――ぬおーっ! 横軸の竹ひごが折れたぁ~ッ!――


 しゃーない、かなり短くなるけど、応急処置で釘の頭とお尻を落とした棒と入れ替えますか。 あとで3mmの真鍮丸棒でも買ってこよう。

 よし、完了♪ 改めまして⋯⋯



 おりゃおりゃうおりゃ~!



 すぐさま焦げ臭くなり、いきなり煙がモックモク。

――な、なんか板の減り方が尋常じんじょうじゃないんですけど――


 市販品の火切り棒より細いとはいえ、中空でそれなりに柔らかいはずの紫陽花は、ドリルよろしく簡単に板を貫通してしまいました。


――火がつく前に貫通しちゃうと、火種が得られないっすよぉ~――


 今度は一位の火切り板で挑戦。



 うおりゃりゃおりゃりゃ~!



――煙出るの早すぎ!――


 いい感じで焦げてます♪

 しかし⋯⋯



 ズコッ!

――ぬおーっ、外れたぁ~ッ! しかも紫陽花が折れたぁ~ッ!――



 紫陽花の枝を差し換えて何度か挑戦。

 窪みに重ねたV字の切れ込みが深すぎたか、その後も火切り棒がある程度まで回転すると、火切り板から切れ込み方面にガンガン外れて火種が取れない状況が続きます。


 試しに小刀で小さなV字切れ込みと浅い窪みを作って⋯⋯



 おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ⋯⋯



――うん、OK。今度は外れない。――


 ただしV字切れ込みが浅すぎてもダメなのですね。火種がまらないうちに削れた火種のもと(火糞ほくそというらしい)でいっぱいになっちゃいました。でもまぁ、これならなんとかなりそう♪


 マイギリ実験ひとまず終了。

 我が家にある一位はちょいと堅いようなので、近々火切り板に最適と言われる杉板でも仕入れて再挑戦するとしますか。




 今度は火打石。市販の瑪瑙めのうの火打石は確かにいいのですが、すぐに割れて角が丸くなってしまうのが難点。

 確か瑪瑙はモース硬度6.5だったよね? しかも高価⋯⋯

 そこで前回、原石屋さんで仕入れた格安碧玉を使ってみたら、いい感じの火の散り具合。かつ瑪瑙より割れにくく角の削れもずっと少なめで良い感じでした。

 こちらはモース硬度7。瑪瑙よりちょいと硬めです。

 さらにもう一歩進んでみることにしました。


――今度は道ばたに落ちている石でやってみようか――



 それから数日間、街中や地元のあぜ道・旅先の道など、目についたちょうど良さそうな石を拾っては丹尺たんざくタイプの火打鎌を打ちつけて、火花の出と欠け具合を確認。使える石の傾向がわかってきました。

 我が家の庭にもいくつか使える石が落ちているぞっと♪  特にチャートがいい。

 これでいざという時、外出先でもいい火口ほくちと丹尺だけ持っていれば火を熾すことは出来ますね♪


――って、そんな機会あるのか?――


 いやこれ、冷静に考えれば役に立ってくれないほうがいい知識と技術なんですけど⋯⋯。

 放火魔と間違われても困りますしね。



 今度は火口。これも市販品はめちゃくちゃ高価な上に、保存状態によってはすぐ使い物にならなくなります。

 その上、店によってはそんなに売れるものでもないようで、新品でも状態がいいものとは限らないという⋯⋯


 ならば、自分で作ってしまおう♪


 材料としては、がまちがやすすきの穂だったり、乾燥したキノコだったり、綿だったり⋯⋯を蒸し焼きにして炭化させたものが火打石にはいいようです。

 もしくはチャークロスと呼ばれる炭化した布や、炭化ティッシュでも大丈夫らしい。要は植物性の極細繊維の集合体を炭にしたら使えるということですね。

 季節はちょうど秋。蒲も薄もあしも茅も花盛りだったり思いっきり収穫期だったり。

 こりゃ、せっかくなので自然界の恵みを利用したいですねぇ。


 で、早速土手に出かけて蒲の穂をちょっと頂いてきました♪

 帰ったらたまたま焚き火もしていたので、急いでアルミホイルで蒲の穂を包んで焚き火に放り込み、無事に消し炭作り完了。

 その時点で日没後でしたので試しませんでしたが、たぶんいい火口になっているはず。

 その日は時間があまりなかったので少量の収穫でしたが、天気の良い休日にもう少し多めに蒲の穂を穫ってきました。蒲だけでなく、いろんな種類をね。




 材料が揃ったところですが、翌日は雨が降ってしまったため実験できず。

 その先はしばらく仕事でバタバタしており、長期出張もあったりでしばらく実験はお休みです。


 旅先でも情報収集はできる! と蒲という植物について調べていたら、有名な『因幡の白うさぎ』の話にぶつかりました。


 蒲の穂が茶色いフランクフルト状に育つ前、梅雨の時期に花が咲きます。フランクフルト状のあそこは雌花でまだ細く緑色。その上に伸びる細い棒のところに黄金色の雄花がついて、花粉をたくさん落とすんですね。

 で、その花粉を集めて天日干ししたものが、漢方薬にもなっている『蒲黄ほおう』です。止血や利尿の効果があるそうです。内臓出血にも効くらしい。

 あ、薬事法違反になりますので、ご自身で採取してもいいですが、それを誰かに分けちゃダメですよ♪


 さて、ここでようやく『因幡の白うさぎ』の登場です。

 童謡『だいこくさま』では「がまの穂わたにくるまれと」と歌われていますが、元々の出典元『古事記』ではしっかり『蒲黄』と書かれています。あの穂綿をほぐすと確かにほわほわで柔らかくてうさぎの毛のような印象なので、あの歌詞もそちらを採用したのかもしれませんね。それは置いておいて⋯⋯

 つまりそんな時代から蒲という植物は日本に存在していて、しかもその花粉が薬として用いられていたんですね。

 こんな壮大な話にぶつかるとは⋯⋯



 さて後日、作ったものたちで火熾し実験をしました。そのお話はまた今度。

 最後は少し脱線しちゃいましたね。

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