第19話

私は、しばらくの間、涙が止まりませんでした。

自分の両親が、亡くなった時のように・・・

さっきまで、一緒にいた仲間は私だけ残して・・・

まだ、2人に出会ってから、一日もたってないのに・・・

残ったのは、優の頼もしい言葉と、啓の楽しい会話・・・

そして、

2人が残った、あの建物が爆発した音・・・

気が付いたら、私はあの建物からかなり遠くの方まで来ていました。

すると、少し遠くの方に、木の根元に座っている男の人がいました。

よく見ると、かなりの深手負っているようでした。

私は、その男の人のそばへ歩み寄りました。


「あのぅ・・・」


すると、こっちに気付いたようで、返事を返してくれました。


「ん?・・・誰だ?」


「あっ・・・すいません・・・いきなり話しかけて・・・私、門垣 麻美っていいます」


「門垣さんね・・・俺は、“今は”風戸 肇だ・・・で?俺になんかようか?」


その人はさっきから、ここで休んでいたのか、目をつむったままで話をしていました。


・・・風戸 肇・・・あの男も風戸・・・私の中にあの大量殺人鬼の名前が浮かんできました・・・


「いえ・・・たまたまここを通りかかっただけで・・・」


「そうかぁ・・・・ん?」


風戸さんは、目をあけ私の顔をみて言いました。


「どうしました?」


「あんた・・・泣いてたのか?」


「え!?・・・いや・・・別に、泣いてなんかないですよ・・・」


とっさに言われた事に、焦って無意味な嘘をついてしまう。


「ふーん・・・何も、ようがないんだったら、すまねぇけど1人にしといてくれないか・・・」


「あっ・・・はい・・・わかりました・・・」


「ごめんな・・・いつもだったら、こんなにつんけんしてないんだけどな・・・今はちょっと気が立ってるから・・・」


「いいんです・・・私こそごめんなさい、休んでいたのに邪魔しちゃって。私、じゃあ行きます」


「あぁ、・・・生き残ってたら、また会おうぜ」


「はい・・・」


そう言って、私はそこから離れようとした時でした。


「やっと見っけたでぇ!」


その男の人は、銃を構えて、少しずつ歩み寄って来ました。

その人からは、どこか懐かしい感じがしました。

近付くにつれ、それが誰なのかわかりました。


「京にぃ?!」


そこには、5年ぶりの兄の姿があった。


「麻美か?!お前、なんでこないなとこにおんねん!」


あまりの突然の再会に、動揺する京介


「私も、わかんない・・・気が付いたらここに・・・」


「なんやお前もか・・・あっ!とにかく麻美!はようその男から離れぃ!」


「え?」


「そこにおる男がな、俺らの父さんと母さんを殺した張本人や!」


「嘘っ!?だってこの人の名前、肇って言う人で・・・」


「そんなん偽名に決まっとるやないか!麻美!はよっ、こっちにこい!」


“ザッ・・・”


麻美は、自分がいた所から、少し早足で、京介の所に行った。


「さぁ、かんねんしぃや!今度こそ、とどめささして貰うでぇ!」


“ガチャ・・・”


京介は、銃口をその男に向けた。


「待って!」


京介の手が下がる。


「はぁ!?なんで止めんねや麻美?」


「この人、なんか違う気がするの・・・」


「違う?何言うてんねん!正真正銘こいつがあの大量殺人鬼や!」


「でも・・・違う気がする・・・」


「じゃあ、どないしたらええねん!」


麻美は、肇に問い掛ける。


「ねぇ?・・・あなた、本当にあの風戸 仁なの?」


肇は、顔をうつむかせる。


「ねぇっ?」


「フフフ・・・」


肇は静かに笑う・・・


「そのままその銃で、撃ってくれてたら、俺も楽に死ねたのになぁ・・・」


「なんやてッ!?」


「京にぃ!」


「う・・・・」


今にも、爆発しそうな京介を、麻美が止める。


「どうなのよ?」


「半分が仁で、半分が今の俺だ・・・」


「!?」


麻美と京介は驚いた。


「どうゆう事?」


「言葉の通り、俺は二重人格さ・・・」


「二重人格?」


「信じられへんなぁ!」


「それなら、それで俺は別に構わない。さぁ、殺すなら殺せ・・・」


「そうやなぁ、じゃあ望み通り殺したるわぁ!」


“ガチャ・・・”


「だから待って!」


「なんでや麻美?なんでこんな奴かばうねん?」


「別にこの人をかばってる訳じゃないの・・・もしこの人が、私のパパやママを殺したんだったら私も許さない。だけど、もし違ってたら、無実の人を殺した事になるし、きっと後悔する」


「麻美・・・わかった。じゃあ、あとは頼んだで、やけどこいつがホンマに父さんと母さんを殺した奴やったら、容赦せぇへんぞ」


「うん・・・」


麻美は、小さくうつむいた。もう一度、麻美は、肇に問い掛けた。


「じゃあ質問を変るわ。桜川銀行・・・5年前、あなたが襲って捕まった事件・・・その時にあなたが一般客に銃で発砲して私達の両親の命を奪った。その時のこと何か教えて」


その事件は肇の頭のなかに、色濃く残っている。なぜなら・・・


「その事件なら、よく覚えている。はっきり言おう。俺は、仁は・・・あの事件の時、組織の連中に裏切られた・・・」


「組織?」


「あぁ、仁に指令を与えてた奴らだ、詳しい事は、何もわかってないが、俺を裏切った奴を俺は許さない・・・」


「ちょっと待って、裏切られたって、どうゆう事?」


「それは―」


肇は、あの事件の一部始終を麻美と京介に話した。


「じゃあ、私達の両親を殺したのは 仁じゃなくて、その仁を操っていた組織って事?」


「そうゆう事だ・・・」


「でもなんで急に話す気になったんや?さっきまで死ぬ気満々やったやろ?」


「俺は(仁は)少なくとも人を殺す時、その家族、友達、恋人・・・誰かが復讐しに来ると、そいつに殺されるつもりだった。だけど、お前らは違う。だから話した、かな・・・」


「京にぃ・・・聞いた?この人は、私達にとったら無実の人よ・・・」


「そうやな・・・麻美の言う通りやったわ。危うく関係ない人間を殺してしまう所やった」


「お前ら俺を信じるのか?仮にも俺は風戸 仁だぞ?」


「でも、今は肇さんなんでしょ?じゃあ嘘つく意味ないじゃない」


「俺も麻美と一緒で、あんたを信じたくなったわ」


「フン・・・気に入ったぜアンタ達の考え、俺も、まだ組織には用がある。アンタ達の復讐、このゲームをクリアしたら、手伝ってやるぜ!少なくとも武器の使い方は心得ているからなぁ」


「ありがとう・・・」


「これで心強い仲間が出来たっちゅうわけか。そや!仁に、さっき背中撃った事スマンかったって伝えといてくれへんか?」


「構わないけど、仮にもし、今の俺の人格が仁だったらアンタ達2人はとっくに、ハチの巣だぜ」


「えっ!?」


「少なくとも奴は(仁)そんな奴だ。俺が言うのもなんだけど、仁は危険だ、奴が今殺したい奴は、組織を除けばこの俺だからな・・・」


「どうゆう事や?」


「言ってみれば、俺と奴の人格は、表と裏・・・表の俺がいなくなれば、奴はこの体を自由に使える・・・だからある意味、組織より俺のことを嫌ってるよ・・・」


「・・・・・」


「安心しろって!当分の間は、奴は表には出て来ない。というか、俺が出させない」


「そうか・・・それやったら大丈夫やな!」


「ねぇこれからどうするの?」


「そうやな、じゃあとりあえず、辺りもくらなって来たし、この近くの小屋に行こか!そこに1人、俺の仲間置いてきてもてるし・・・」


「そうね・・・」


「俺はもう少しここで休んでから向う。アンタ達は先に行っててくれ・・・」


「わかった。ほな、行こか麻美」


「うん」


京介と麻美は肇と別れ、小屋に向い始めた。


途中、このゲームの事、優や啓悟の事、なんかを話した・・・


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