第16話

「うぉ~すっげぇ!」


「おいしそう~」


「なんかあったの父さん?」


「会社で、昇進したのよ」


「昇進?」


「会社で、偉い人になる事だよ」


「へぇ~、じゃあパパもお偉いさんになったんだぁ」


「ねぇ?何になったの?」


「フフフッ、聞きたいかぁ~?」


「うん!」


「フフフフフッそんなに聞きたいかぁ~?」


「聞きた~い!聞きた~い!」


「オッホンッ・・・パパ、専務になったんだ!」


「すっげぇ!」


「だろ?(笑)」


「ねぇお兄ちゃん・・・専務って何?」


「ん~、そうだな、専務って言ったら、学校で例えると、教頭先生ぐらいかなぁ」


「すご~い!パパすご~い!」


「ハハハッ(笑)、そして今度の火曜、久しぶりに休みがとれた。そこでだ、その火曜日に、家族4人でどっか行くかぁ!」


「やったぁ~!」


「で?どこに行きたい?」


「俺、USJに行きたい!」


「私も!」


父「わかった!じゃあ次の火曜、USJに行くぞ!」


「やったぁ!」


「さ、早く食べちゃいなさい。冷めたら、おいしくなくなるわよ」


最後のおかずをテーブルに並べ、母がテーブルに座った。


「いただきます!」


「いただきま~す!」


「いただきますっ!」


「ウフフッ・・・どおぞ、めしあがれ」


「うぉ!うまいなぁ~これ!さすがママだ!(笑)」


「おいしい~!」


午前1時・・・食事も終わり、子供達は自分の部屋で眠りにつく。


その頃、父親と母親はリビングでお酒を飲んでいた。


「乾杯~。」


「ふーぅ、うまいなぁ」


「お疲れ様。専務。」


「フッ、ありがとう(笑)」


「それにしてもいいの?子供達にあんな約束して・・・」


「あぁ、久しぶりの休みなんだ、今まであんまりかまってやれなかったからな。やっとデカい仕事終わらせて、昇進もしたんだ、たまには家族水入らずもいいんじゃないかぁ」


「そうじゃなくて、またゴルフなんて言わないわよねぇ?」


「大丈夫だってっ(汗)」


「そう?じゃあ、あたしも楽しみにしておくわ、USJ(笑)」


「任せとけって!」


そして、運命の日がやって来た。


「お前ら、忘れ物はないかぁ?」


「うん!」


「早く行こうよ!」


「おぅし!出発進行!」


「お~!」


僕達は車に乗って、目的地に向った。


「ねぇパパ、ちょっと桜川銀行に寄ってくれない?」


「銀行?わかった」


「ごめんね・・・」


「え~!直で行かないの?」


「まぁ少しぐらい良いだろ?USJは、逃げないぞ!」


「わかったぁ・・・」


そして、僕達は銀行に到着した


「じゃあ、あたし行ってくるわね」


「じゃあ俺もついて行くよ、もうちょっと財布に入れときたいしね」


「え?でも、子供達が・・・」


「大丈夫だろ?2人共もう中学生だ、ここで待ってられるよな?」


「オッケェ!」


「な?子供達もこうして言ってる事だし」


「えぇそうね、一緒に行きましょ」


「じゃあ、麻美を頼んだぞ!京介!」


「おぅ!」


「私、そんなに子供じゃないよ!」


「あぁ、ごめんっごめん!」


「じゃあすぐに戻ってくるからね」


それが、父と母の最後の言葉でした。


後午4時20分


“キーンコーンカーンコーン”


「ふーぅ・・・やっと終わったぁ~!」


6限目の終わりの合図と共に、1人の女の子が叫んだ


「ねぇ、晴奈!今日、“あの場所”に行かない?」


「え?あの場所?」


すぐには、思い出せなかった。


「ほらっ、私達の思い出の場所・・・」


「あ!あそこか!・・・いいけど、美帆、今日部活どうすんのょ?」


「大丈夫だって!顧問の武田、今日出張でいないから、部活自主練にするらしいし、それに部長の私もエースの晴奈も、たまには羽のばさないと!ぶっ倒れちゃうよ(笑)」


「ん~どうしよっかなぁ~?(笑)」


気持ちは半分半分ぐらいだったんだけど


「私、マック奢っちゃうからさぁ~、ねぇ?サボっちゃおーよ♪」


この言葉が決め手かな。


「うん!わかった♪」


ダイエット中だけど、今日は特別!なんか単純な私・・・

そうゆう訳で、私は美帆の提案に乗った


“ガラガラッ!”


突然、教室のドアが勢いよく開いた


「七瀬(ななせ)!七瀬は、いるかぁ~?」


それはこのクラスの担任の先生だった


どうやら、美帆の事を呼びに来たらしい・・・


「ここだよ。先生」


「おぉ、そこにいたのか」


「で、なんかようなの先生?」


「なんかようって、今日お前、来月の陸上競技大会の生徒会会議だろうが」


「へ?」


「もしかして、忘れてたのか?お前、陸上部の部長だからって、このクラスの代表買って出ただろうが」


「あっ!そうだった!完璧に忘れてたわ」


「まったく・・・ほれっ!早く行け!もう会議は、始まっとるぞ!」


「ごめ~ん!晴奈・・・」


「いいよ、待っててあげるから!」


「本当に!じゃあ、ちゃっちゃと済ませて来る!」


「はいよ(笑)」


美帆は、教室を飛び出して行った。


でも数秒後、また教室に戻って来た。


「ねぇ先生!会議場所ってどこだっけ?」


「体育館だ!急げよ!」


「サンキュ(笑)」


そしてまた飛び出して行った。


「まったく・・・あいつって奴は・・・」


先生も、なにやらブツブツ言いながら、教室を後にした。


それから2時間がたった。


“タッタッタッタッタッタッ”


向こうの方から誰かが、ものすごい勢いで走って来る

美帆が、体育館から戻って来た


「ごめ~ん、晴奈!まさか、こんなに時間かかるなんて思ってなかったわ」


「いいよ全然。じゃあ行こっか!」


普通なら、少しくらい怒るかもしれないけど、美帆はなんか憎めない

美帆とは、幼稚園の頃から幼馴染み。高校生になった今でも、ずっと一緒・・・

でも、ほんとは、3人だったんだ。5年前まで・・・


「・・・ぇ・・・ねぇ?聞いてる?」


「あっ!ごめん!何の話しだっけ?」


「だから、陸上競技の話しだよ!晴奈、短距離出るんでしょ?」


「もちろんよ!」


「だよね!そうゆうと思って、もうエントリーさせちゃった(笑)」


「嘘!?サンキュー(笑)でもさぁ、もし私が出ないって言ったらどうすんの?(笑)」


「大丈夫!私、信じてたから(笑)」


「何よそれ(笑)」


私達は、そんないつもと変わらない話しをしながら、途中、買い物をして、“あの場所”に向った。


「ふーぅ!着いたねぇ~(笑)」


「懐かしいなぁ~、この潮の匂い(笑)」


「何年ぶりだっけ?」


「千鶴(ちづる)が居なくなってから、来なくなったから、5年ぶりかなぁ・・・」


「5年ぶりかぁ・・・もうそんなにたつんだね」


ここは、私達の思い出の場所(?)というよりかは、私も美帆もあの日を境に忙しくなって、ここに来る暇がなかったって方が正しいかな。


まぁでも、やっぱり思い出の場所にはかわらない。私と美帆と千鶴の・・・


―5年前―


「ねぇ?早く教えなさいよ!(笑)」


「イヤよ(笑)」


「うわぁ~、なんか距離感じちゃうなぁ」


「せめて、名前とか歳ぐらい教えてくれたって、いいじゃないよ(笑)」


「私、マックおごるからさ!(笑)」


「私も!(笑)」


晴奈と美帆は千鶴を説得する。


「ダァメ(笑)だって、私、今、ダイエット中だし(笑)」


「そんな事、言わないでさぁ~ねぇ?(笑)」


「しょうがないなぁ~(笑)、じゃあ言うね?」

「名前は肇(はじめ)さん、歳は21・・・」


「ふ~ん、21ねぇ~って、21って私達と8も離れてるじゃん!」


「13と21は、犯罪でしょ!」


「そんな事ないわよ!とっても優しくて、いい人なんだから!」


「ん~・・・まいっか!千鶴の事だし!(笑)」


「で?いつ知り合ったのよ、その肇っていう人とは?」


「もう!それ以上聞かない約束でしょ。あっ!いっけない、もうこんな時間だ、私行かなくっちゃ」


「ほんとだ!私も帰んないと」


「そうだね、じゃあそろそろ帰ろっか」


“ププッー”


3人が帰ろうとした時、急に車のクラクションが鳴った。


「ごめ~ん、迎えが来たからもう行くね!」


「え?迎えって、例の彼氏?」


“タッタッタッタッタッタッ”


千鶴は、走ってその車に向う・・・途中、こっちに振り返り、叫んだ


「晴ぅ~!美帆~!落ち着いたらちゃんと話すからぁ!」


「オッケェ~!」


美帆も大声で応えた

千鶴はその車に乗り込み、しばらくしてから走り出した。

それが千鶴を見た最後の姿だった。

そのまま千鶴は行方不明になって、その事に気付いたのはその3日後だった。

千鶴の両親も、1週間後にはどっかに引越ししちゃって、結局その後、千鶴がどうなったのかは、分からずじまい

そのまま5年の月日が経ったてた。


「ねぇ?今日は、なんでここなの?5年ぶりだし・・・」


「実は…私、彼氏出来たんだ!(笑)」


「嘘!?良かったじゃない!おめでとう!」


「ありがとう(笑)」


「で?相手はやっぱりあいつ?」


「うん!昨日メールで告ったらOK貰ってさ」


「で、思い出のこの場所で、発表てわけか」


「うん。千鶴がいたら、多分ここで、言ってたと思うし、千鶴にも届くかなぁ~なんて・・・」


「何言ってんの!千鶴はまだ死んでないわよ」


「そうだよね・・・」


「でも、美帆にも彼氏が出来たのかぁ~」


「晴奈もがんばりなよ!」


「ねぇ・・・」


「どうしたのよ?」


「美帆は、どこにも行ったりしないよね?」


「何言ってんのよ!そんなの当たり前じゃない!私達ずっと一緒だよ」


「だよね!ずっと一緒・・・」


そんな約束をしたのに。

私から約束したのに・・・

私は今・・・

地獄にいます。

誰か助けて・・・

薄暗い工場の様な場所だった


「さぁ目を覚ましたまえ!肇君」


スピーカーからした声で俺は目を覚ました。


「・・・ん・・・ここは・・・」


「ふんっ。まだ寝ぼけているのか?」


「・・・ハッ!?・・・」


俺は、両手両足に鎖が繋がってるのを見て、全てを思い出した。

ここがどこなのか。

今、喋ってる奴が誰なのか。


「・・・で?・・・今日は俺に何のようだ?」


「何のようだと?ここにいるのならその答えは、既に出ているはずだが」


「何?」


「それに、私達組織は君に用は無い・・・“君の中”にいる奴と話しがしたい」


「ちょっと待てよ・・・約束が違うぞ!」


「約束?」


「あぁ・・・この前の医者で最後の仕事だったはずだ!」


「あぁ・・・そうだったな」


「そうだったじゃねぇ!じゃあなんで俺はここにいる!」


「だから、もう答えは出ているはずだ・・・」


「また・・・仕事をしろって事か・・・」


「フフフ・・そうゆう事だ。さぁ、早くキミの中の―」


「ふざけるな!!」


間髪入れず、肇が叫ぶ


「・・・・」


「もう一度、仕事をしろだと!?もうお前達組織には、借りなんか残ってねぇ!金も全部渡した。もう関係ねぇだろ!?」


「関係ないだと?組織の情報を握っている人間を、簡単に外へ出すわけには行かないのだよ。それに、必要なのはキミではない・・・」


「あくまで、俺達に仕事をさせたいようだが、前にも言ったように、この前の仕事で最後だ。もう仕事はしない・・・」


「果たして・・・そんな事がいえるのかな」


「どうゆう事だ!」


「肇君、キミには最近、恋人が出来たようですね。まだ少女じゃありませんか・・・」


「まさか!?・・・千鶴?・・・ちょっと待てあいつは関係ねぇ!」


「関係ない?そんな事はありませんよ。組織の情報を握ってるキミの恋人ですよ・・・関係なくはないでしょう」


「・・・千鶴・・・・千鶴は?あいつはどこにいる!」


「彼女は今、別室でぐっすり眠ってますよ・・・」


「貴様ら・・・卑怯だぞ!」


「卑怯?・・・人聞きの悪い、これはあくまでビジネスです。組織の秘密を守る為にしている事なんですよ」


「わかった・・・次が最後だ・・・その代わり、次の仕事が無事に終われば・・・あいつを・・・千鶴を解放しろ・・・」


「わかりました・・・その約束は守りましょう。ただし無事に完了出来ればの話しですがね・・・」


スピーカーから、声がして表情はわからなかったけど、こいつが笑っているように思えた。


「わかったよ。やってやるよ」


「では、交渉は成立ですね。それでは早く呼んで貰いましょうか。仁様を」


肇は静かに目をつぶった。


「パチッ・・・」


そして、大きく目を開けた。


「ふーぅ、やっと出てこられたぜ・・・」


肇と、仁の人格が入れ替わった


「おーい・・・なんだこの鎖は早く外しやがれ!」


その言葉を聞くと左右にあった扉から黒服の男2人が仁の手足についていた鎖を外しにやって来た。


“ゴキッ!バキッ!”


鈍い音が部屋に響く。


“ドサッ・・・”


2人の男が倒れた。

仁は、一瞬のうちに2人の男の首を折った。


「ありがとよ、そいつは俺様からの礼だ・・・あっ、もう聞こえねぇか・・・・・んで?おっさん!次の仕事はなんだ?」


「えぇ次の指令は銀行強盗です・・・」


「銀行強盗だぁ?殺しじゃねぇのかよ?」


「はい、確かに殺人が主体ではありませんが、邪魔になる人間は殺して貰っても構いません。その代わりと言ってはなんですが、私達組織の人間を今回の任務に参加させて頂きます・・・」


「フンッ・・・構わねぇが、足手まといになるなら俺様が片付けるが・・・構わねぇか?」


「いいでしょう・・・」


「じゃあ決まりだな」


「はい、それでは、任務は明日、場所は桜川銀行、こちらからはうちの組織の者3人をつけさせて頂きます。それでは、いつものように隣りの部屋で装備を整え下さい・・・」


“タッ、タッ、タッ・・・”


仁は無言のまま、隣りの部屋に向った。

―そして、翌日―


“バンッ!!”


勢い良くドアを突き破り銀行に侵入した。


「いいか!ここに金を入れろ!!」


近くにいた店員にバッグを投げ付ける。

銀行員は、言われるままバッグにお金をつめ始める。

その行程を見ていた仁に思いも寄らない出来事が降りかかる。

それは、仁が銀行員からバッグを受け取った瞬間に訪れた。


“ドォォォン!!”


仁の足に激痛が走る。

一瞬の出来事に、仁の思考が一時停止する。

組織の人間に足を撃たれたのだ。

その時、仁はさとった“裏切られた”と・・・

組織の人間は、俺様から銃を奪い、周りにいた銀行員と客を次々に撃って行く。


「・・・貴様ッ!・・・一体・・・何を・・・」


「上からの命令でね、あなたはここで終わりです」


「・・・なん・・・だと?」


男は電話をかける。


「もしもし・・"はい、任務は完了です。はい・・・それでは・・・」


男は電話を切り、すぐに他の場所へかけ始める


「もしもし!大変です!桜川銀行に強盗が!早く来て下さい!さっきから銃声もして、とにかく早く!」


「何を!?」


「言ったでしょ・・・あなたはここで終わりです。いいですか、警察に組織の事を話せば、あなたの・・・いや肇様の恋人がどうなるか・・・わかっていますね・・・」


男は俺様からバッグを奪い、銀行をあとにした。

その数分後、警察が到着し、俺様の刑務所暮らしが始まる事となった・・・と同時に、組織への復讐計画も俺様の中で生まれた。

10月19日(金)午後14時40分・・・いつものように、子供達は広場で遊んでいた。


「みんな~!おやつよ!」


「わぁ~い」


子供達がその人周りを取り囲む。


「恵理子先生!今日のおやつなに?」


「今日は、先生特製のドーナッツよ」


「やったぁ~」


「さ、早くみんな院内に入って、あっ!食べる前はちゃんと手を洗うのよ」


「は~い!」


子供達は院内に入り、先生の言われた通りちゃんと手を洗ってから、おやつを貰う。


“ドッドッドッ”


廊下を2人の少年が走る


「恵理子先生!チョコレート買ってきたぜ」


「全く、子供にパシらせるってどう言うこっちゃ(笑)」


「ありがと、優君、啓悟君。」


「あと、玄関にお客さんが来てたみたいだぜ」


「わかったわ・・・、はいっ、これ優君と啓悟君の分ね」


「うまそうやな~」


「早く食べて、表でサッカーやろうぜ!」


「それえぇな!」


「はいっ!食べる前は、ちゃんと手を洗いましょうねぇ」


「は~い」


「お客さんって誰かしら?」


恵理子先生は、お客さんが来ている玄関に向った。

そこには、いかにもヤクザって言うぐらいの男が2人、玄関に立っていた。


「あのぅ・・・何かご用でしょうか」


「アンタが、ここの責任者の神谷 恵理子(かみや えりこ)か?」


「えぇ、そうですけど・・・」


「わたくしどもはこうゆう者でして・・・」


“スッ・・・”


男は、恵理子に名刺を差し出した。


「島本開発?あのぅ、一体島本開発がうちに何の用なんですか?・・・」


「実はですね、ここら一帯をうちの建設するテーマパークに打って付けの場所でしてね」


「はぁ・・・」


「まぁ早い話し、ここを立ち退いて貰おう言う話しですわ」


「そんなぁ!」


「もちろん、タダでとは言いません。おたく、多額の借金があるそうですね?」


「どうです?ウチがその借金、全額立て替えるっちゅうことで」


「ちょっと待って下さい!確かに、借金はありますけど、ちゃんと返済していってますし、それに、この孤児院を立ち退いたら、私も、子供達も行くあてが・・・」


「んなこたぁこっちは関係ねぇんだよ!」


「そんなぁ!」


「そうですね・・・では、どうしても、ここを出られないとおっしゃるのなら、600万・・・来週の月曜までに用意して貰えますか」


「えっ!?ちょっと待って下さいよ!600万って、私の借金より、多いじゃないですか!それに、来週の月曜って、あと3日・・・無茶ですよ!」


「ええか、無茶な事ゆうとるのは、そっちや!こっちは、そっちの借金全額立て替えたるっちゅうてんのに、住むところがあらへんからゆーて、この孤児院を渡さへんとか、そんなわがままこっちだって聞けまへんわぁ」


「でも、3日で600万なんてとてもじゃないけど無理です・・・」


「なんでしたら、手っ取り早く稼ぐ仕事、紹介しましょうか?その代わり、死ぬ思いになると思いますけど。ハハハッ」


「それが嫌なら、いっそのこと、ここにおるガキんちょらと、心中でもしたらどうでっか?・・・ハハハッ」


「・・・・・・。」


「フンッ!アンタが悪いんだよ!充分な財力も無いのに、こんな孤児院たてて、どこのどいつが捨てたのかもわからへん“ゴミ”拾ってきて、それで自分の事もろくにせんとゴミの世話ばっかり・・・正直疲れるでしょ?いつでもこんな事やめられるんやで!」


「・・・・・・。」


そこに突然、1人の少年が叫んだ。


「誰がゴミだ!!」


「やめろって優!相手はヤクザやで!」


「関係ねぇよ!!ヤクザだろうが、誰だろうが先生が言ってたんだ。人を傷付ける奴は馬鹿者だ、でも、人の心を傷付ける奴は、それ以上の大馬鹿者だってな!」


「それがどうした?」


「だからお前は大馬鹿者だぁ!!」


「優!」


「ハハハッ!なかなか根性のある坊主やなぁ!せやけど、おしゃべりもその辺にしとかんと、一生しゃべられへんようにしてまうど!」


「う・・・・・」


「・・・・はい・・・・」


「ん?何かおっしゃいましたか?先生?」


「はい・・・確かに、私のやっている事は疲れます・・・」


「先生・・・」


「でも、やめようなんて思った事なんか、一度もありません!・・・・ゴミ?あなた達から見ればそうかもしれません。ですけど、私にとっては、ここにいる子供達全員、1人1人がかけがえのない宝物なんです!この子達は、普通の子供より、少し過酷な運命を背負ってるかもしれません。でも将来、大きくなってこの子達が立派な夢を持ち、立派な大人になるのが私の夢です!だから、あなた達なんかに、この子達を侮辱させたりはしません!世間から見れば、あなた達の方が、ゴミです!」


「なんやと!?この・・・」


「まぁまぁ・・・こちらも少々言い過ぎました。今日のところは、これで帰ります。ですが次の月曜日、指定した金額を用意出来ない場合は、当初の予定通り、この建物から出て行って貰います。それでは・・・」


男達は、孤児院から去って行った。


「先生・・・あんな奴らの事なんか気にすんな!今度来たら、俺が追い返して・・・」


「ありがとう・・・優君のおかげで、先生・・・ちょっとだけど、勇気が出たかな・・・」


「ヘヘ(笑)・・・先生もやるじゃん!ヤクザにゴミだとか言うなんて(笑)」


「お互いさまよ(笑)」


先生・・・笑ってたけど、いつもとなんか違ってた。


そして、次の日・・・


「ごめんね、優君、啓悟君・・・皆の事お願いね」


「おぅ!」


「まかしとき!」


「今日は、ちょっと遅くまで帰らないから、皆の分のご飯も頼むね。材料は、一通り冷蔵庫に入ってるから」


「心配すんな!俺が腕によりをかけて、最ッ高の料理作って、皆に食わしてやるから」


「あかん!あかんっ!優の料理、ごっついまずいから。ここは、俺に任せとき!」


「なんだよ、お前だってお好み焼きしか作れねぇじゃねぇかよ!」


「なんやて、お好み焼きをなめたらあかんでぇ!」


「べ、別になめてなんか・・・」


「と・に・か・く!頼んだわよ2人共!」


「おぅ!」

「はいな!」


20日午後23時11分・・・


“ガラガラッ”


玄関の扉が開く。


「ふーぅ・・・」


「おかえり、先生」


「・・・!!」


「お疲れ様です」


「びっくりしたぁ~。っえ?2人共ずっと待ってたの?」


「まぁね」


「皆、ちゃんと眠ってるぜ」


「ありがと、でもどうしたの?こんな時間まで?」


「実は俺達、先生に話しがあるんだ・・・」


「話し?」


「今、先生が苦労して、募金活動とかで、お金集めてくれてるの知ってんだ。だから、なんか手伝う事ない?俺達なんか先生の役にたちたいんだ」


「何言ってんのよ、ちゃんと役にたってるわよ!私の代わりに皆のお世話してくれたし、ご飯だって・・・」


「そうやなくて!・・・・」


“サッ・・・”


先生は、俺達を強く抱き締めてくれた。

そして、泣きながらこう言ってくれた。


「・・・ごめんね・・私・・・なさけないね。あなた達は心配しなくていいの。これは・・・私の問題なの・・・本当にごめんね。あなた達に・・・心配かけるつもりはなかったのよ・・・」


「・・・先生・・・」


「・・・ありがと・・・先生・・・嬉しいよ・・・」


「・・・泣かないでくれよ・・・先生・・・なんか俺達が・・・悪いみたいじゃねぇかよ」


そのままどれくらいの時間がたったかは、わからないけど、ずっとこのまま、大人になるまで、先生や皆、そしてこの孤児院と離れたくない。そう思った。


「さぁ、2人共、今日はもう遅いから、早く寝なさい・・・」


「うん・・・」


「おやすみなさい・・・」


「おやすみ。」


「あっ先生!」


「どうしたの?優くん」


「俺達、明日も頑張るから!」


「ありがとう・・・」


「じゃあ、おやすみ」


「おやすみなさい(笑)」


それが俺が見た、先生の本当の笑顔だったのかもしれない・・・

そして次の日・・・


「じゃあ、行って来るわね」


「行ってらっしゃい!」


“ガラガラガラガラッ・・・ピシャッ”


「ようし!もう行ったな」


「お~い!みんな、集合やぁ!」


子供達を一つの部屋に集める。


「おしっ!みんな明日は、何の日か、ちゃんとわかってんな?」


「うん!」


「何の日や?」


「先生の誕生日!」


声をそろえてみんなが言う。


「そうや!明日は、先生の誕生日!とゆう事で・・・」


「明日は盛大に祝ってやろーぜ!!」


「オ~~~!!!」


「じゃあみんな、先生が喜びそうなもん、なんでもいいから作れ!」


「ええか?明日、みんなで先生にプレゼント渡すまで、絶対にゆうたらあかんでぇ!」


「それじゃあ、作業開始!!」


子供達はそれぞれプレゼント作りにとりかかる。


「ねぇ、啓にぃ、こんなのどうかなぁ?」


女の子が、いろんな色の紙で作ったわっかを繋げた首飾りを啓悟に見せた


「ええやんかぁ、こら絶対先生に似合うわぁ(笑)」


「ありがとう(笑)」


女の子は嬉しそうに、自分のところに戻って行った

今度は優の方に、男の子が小さな紙を持って、やってきた


「なぁ、優にぃ、これなんだけど・・・どう?」


「肩叩き券かぁ、いいじゃねぇか!先生も毎日俺達の世話できっとこってると思うし、絶対喜ぶぜ!」


「そうだよな!ありがとう優にぃ!」


こうして、2時間後・・・ようやく全員の誕生日プレゼントが完成した


「いいか?何度も言うけど、先生には絶対に秘密だぞ!!」


優は子供達に念をおした。

21日(日)午後22時29分・・・


「早く帰ってやらないと、あの子達また、待ってるかも・・・」


恵理子は、孤児院の近くまできていた。


ふと前を見ると、孤児院の門の前で誰かが立っているのに気付く。


「まさか、あの子達外で待ってるんじゃ・・・」


恵理子の足が早くなる・・・がそこにいたのは・・・


「どうも、こんばんは、恵理子先生・・・」


「なんで!?期日は明日じゃ・・・」


「いえ、今日うかがったのは、折り入ってご相談がありまして・・・」


「相談?」


「はい。ですが、その前にいくらお集まりになりましたか?」


「まだ、これだけしか・・・」


恵理子は、かばんに入れてあった封筒をその男に渡した。


「・・・1、2、3、4、・・・58万ですか、指定金額の十分の一も満たないじゃないですか・・・」


「もうちょっと、待っていただけないでしょうか!」


「いえ・・・期日は明日です。まぁでも、今日はその事で来たんですよ」


「え?」


「実は、まことに勝手ながら、もう契約は終わりました」


「どうゆう事ですか?」


「つまり、この孤児院・・・この土地は、我々、島本開発のものになったという事ですよ」


「そんな!?」


「とにかく、すぐにでも、出て行って貰いたいのですが、これはわたくしの優しさです。受け取って下さい」


男は、恵理子に小袋を渡した。


「何ですかこれ・・・」


「それは毒です。」


「毒!?なんで私にこんな物を?」


「以前、私とここに来た男が言った事、覚えていますか?・・・心中ですよ・・・」


「じゃなくて、なんで私が子供達と心中しなくちゃいけないんですか?」


「まだわからないのですか?ここにいる子供達はいずれ大人になるでしょう。ですがまともに教育を受けていない人間が、この社会で生きて行けると思いますか?いずれは、強盗や殺人などの犯罪をおかす者も出るかもしれません。そして、あなたが死ねば、身寄りのない者はいずれホームレスとなる・・・知っていますか?この社会で、一番嫌われている人種・・・それは、ホームレスなんですよ。まさに社会のゴミだ。あなたの望みは子供達をそんな大人にする事ですか?」


「・・・ぃぃぇ」


「この毒は特別な物で、体に入ると苦しむ事なく、眠るように死ぬ毒なんです。どうゆう風に使うかは先生に任せます。食べ物に混ぜたり飲み物に混ぜたり・・・」


「それでは、私はこのへんで・・・先生、何が子供達の幸せかわかりますよね?」


そう言うと男は去って行った。

恵理子は、男から貰った小袋を強く握り締めて、しばらく門の前で立っていた。


22日午後15時33分・・・


「あいつら来ねぇな」


「忘れてるわけあらへんし」


「きっと諦めたんだよ・・・」


「そうかなぁ?」


「さぁ、ここはいいから2人共、外で遊んでらっしゃい・・・・」


「わかった。じゃあ啓悟!サッカーしようぜ!」


「あぁ」


「もうちょっとしたらおやつ出来るからね・・・」


その時の先生の顔が何か悲しげだったのを覚えている・・・

そして、しばらくしてから恵理子先生はいつものみたいにおやつコールをして皆の集める。

俺と啓悟は、サッカーに夢中だったし、お腹も空いていなかったから、おやつは、後で食べる事にした。


「先生!今日のおやつは何?」


子供達が、先生を取り囲んで問い掛ける。


「今日は、皆の大好きな・・・ホットケーキょ・・・」


「やったぁ!」


無邪気に喜ぶ子供達。


「いただきま~す!」


子供達はいつものようにおやつを食べ始める。


「うま~い!」


「おいしい!」


皆が、いつものように喜ぶ。


そして先生の横にいた女の子が先生に言う。


「おいしいよ先生!」


「・・・そぅ・・・」


「どうしたの先生?なんで泣いてるの?」


「・・・なんでだろ・・・目にゴミが入っちゃたのかなぁ・・・」


「じゃあ、あたしが取ってあげる!」


「ふーぅ・・・ふーぅ」


「どう?とれた?」


「・・・グスッ・・・・うん・・・グスッ」


「まだ痛いの先生?」


恵理子先生はその子を抱き締めた。


「・・・グスッ・・・ごめんね・・・グスッ・・・ごめんね・・・グスッ」


「なんで謝るの?先生は悪い事なんかしてないよ」


「・・・ごめんね・・・グスッ・・・ごめんね・・・グスッ」


「泣かないで先生・・・」


心配そうにその子は先生を見つめ・・・頭をなでた。


「先生・・・俺・・・なんだか眠くなって来た・・・」


「私も・・・」


「僕も・・・」


やがて部屋中が静かになり、子供達は永遠の眠りについた・・・


「もう4時や・・・なんかおかしないか?」


「そうだよな・・・いつもだったら、皆また外に出て来るのに・・・」


「皆、寝とるんちゃうか?(笑)」


「まさか・・・ちょっと様子見に行ってみねぇか?」


「そやな!」


2人は、広場から孤児院に向った。

いつもと違う静かな空気が流れていた。

2人共、真っ先に食事をする所に向う。

優がドアの前に立つ。

そして、ゆっくりとドアを開けた。


「おぃっ!啓悟!お前の言った通り、皆、寝てんぞ!」


「あれま・・・ほんまや・・・」


「おぃ!オメェら行儀わりぃぞ!」


優が1人の男の子に近づく・・・

「おぃ!聞いてんのかよ!」


優はその子の体を揺さぶる。


“ドサッ・・・”


そのまま床に倒れた。


「啓悟!こいつらなんか変だぞ!」


「脈打ってへん・・・」


「てことは・・・」


「皆、死んどる・・・」


「嘘だろッ?なんで・・・さっきまで、元気だったじゃねぇかよ!」


「・・・・ッ!?先生!」


ふと気が付くと、先生が優の背後に立っていた。

片手には、いつも料理で使う包丁を持って・・・


「先生!大変なんだ!皆が・・・皆が死んでるんだ・・・」


「・・・・」


「なぁ!聞いてんのかよ!」


「・・・グスッ・・・グスッ・・・」


「先生?」


「・・・ごめんなさい・・・」


「優!!」


“グサッ・・・”


「・・・ぐっ!!!」


優の腹部に激痛が走る・・・


「優!大丈夫か!先生、あんた、なにするんや!」


「・・・こうした方が・・・グスッ・・・あなた達の為なの・・・」


「なんやて!?まさか、皆を殺したんも・・・」


「ぐはっ・・・」


優は、口から血を吐いた。


「優、待っとけ!すぐに、救急車呼んだるさかい・・・」


啓悟は、走って孤児院から飛び出した。


「・・・なんでだよ・・・なんで・・・」


優の瞳から一筋の涙が流れた。


「・・・皆の幸せを考えると・・・こうするしかなかったのょ・・・グスッ・・・」


「・・・嘘だよ・・・こんな事しなくたって・・・」


「・・・ごめんなさい・・・グスッ・・・私は・・・優君のような勇気や・・・啓悟君みたいな頭脳は・・・持ってない・・・グスッ・・・」


「・・・じゃあなんで・・・なんで言ってくれなかったんだよ・・・」


「・・・グスッ・・・」


「先生・・・言ってたじゃねぇかよ・・・人を傷付ける奴は、馬鹿者・・・・でも、人の心を傷付ける奴はそれ以上の大馬鹿者だって・・・」


「・・・俺・・・今このおなかより・・・心の方がいてぇんだよ・・・それが・・・それが先生の優しさかよ・・・自分の手で皆を殺して・・・それが俺達へのつぐないかよ・・・俺達・・・幸せじゃなかったのかよ・・・皆で一緒に笑って・・・皆で一緒に泣いて・・・皆で一緒に喜んで・・・皆で一緒に生活して・・・それが幸せじゃなかったのかよ・・・俺達・・・先生の宝物じゃあなかったのかよ・・・」


「・・・グスッ・・・優君・・・グスッ・・・」


「先生・・・今日・・・何の日か知ってるか?」


「・・・え?・・・」


「今日・・・先生の誕生日だろ・・・」


「・・・はっ!・・・」


「・・・みんな、一生懸命でさ・・・先生に喜んで貰おうって・・=先生・・=知らねぇだろ?・・・みんなで、先生びっくりさせようって・・・」


「・・・そんな・・・グスッ・・・私・・・」


「・・・なぁ先生・・・もし俺が生きてたら・・・みんなのプレゼント・・・ちゃんと渡すから・・・」


「・・・どうしよう・・・私・・・私・・・もう取り返しのつかない事しちゃった・・・」


「・・・大丈夫だよ・・・まだ罪は償える・・・だから・・・」


「・・・ごめんね・・・優君だけ・・・こんなに痛い思いさせちゃって・・・」


恵理子は、持っている包丁をゆっくりと自分のノドに向ける・・・


「何やってんだ先生!・・・そんな事しても・・意味なんか・・・ないんだ・・・」


“ピーポーピーポー”


外でサイレンの音がする。


「優君・・・グスッ・・・救急車がきたわよ・・・グスッ」


「・・・どうゆう意味だよ・・・」


「・・・勝手だけど・・・みんなの分まで・・・グスッ・・・啓悟君と2人で・・・生きて」


「・・・え?・・・」


「じゃあね・・・グスッ・・・今までありがとう・・・グスッ・・・・

さようなら・・・・」


「・・・やめろーっ!!・・・」


“グサッ・・・プシュー・・・”


おびただしい量の血が、辺りに散乱する。


「・・・くそっ・・・グスッ・・・

・・・俺達・・・まだ・・・おめでとうも言ってないのに・・・

なんで死ぬ必要があるんだ・・・」


ヤバい・・・

目がかすんで来やがった・・・

俺は死ねない・・・

俺の意識がだんだん薄れていく・・・

俺・・・死ぬのかな・・・・

気が付いた時は既にそこは病室だった。

近くには啓悟がいた。

心配そうにこっちを見ている。

良かった。

まだ俺・・・生きてた・・・

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