第14話

「ちょっと待ってよ、でもそいつ攻略人(ヒントマン)なんでしょ?じゃあ安全なんじゃ・・・」


麻美は言った。


「いや・・そうとは限らない・・・」


それに対して優は否定した。


「なんでよ?」


「じゃあ、仮に麻美ちゃんが攻略人(ヒントマン)だとして、ブックを置いていったりするか?」


「しないわ・・・」


「こんだけ厚くて重い本だし、落とすって事も考えられない。だから、これは意図的に置かれていたんだと思う。大切なこのゲームのルール、どんな奴がまわりにいるかわからない状況で、狩人(ハントマン)みたいな危ないキャラにわざわざ伝えるような真似、俺なら絶対にしない」


「でも、どうして攻略人(ヒントマン)はそんな事を・・・」


「これも、あくまで俺の推理だけど、多分、理由はひとつ。さっき言ったように、麻美ちゃんはブックを置いては行かないと言ったよね?じゃあ、こんどは、この建物の中にいる人間の中に、狩人(ハントマン)がいないって、わかっていたら どうする?」


「っえっ?それでも、私は置いては行かないわ」


「そうかぁ」


「えっちょっと待って。じゃあ、優ならどうするの?」


「俺なら・・・置いて行く!」


「なんでよ?持ってた方がいいんじゃないの?どうしてよ?」


「確かに、麻美ちゃんが言うように持ってたほうが役にたつ。でも、俺ならあえて狩人(ハントマン)がいないとわかったら、他のプレイヤーに教える為に、ブックを置いて行く・・・もちろん、ある程度のルールは把握するけどね」


「待って!・・・わからない事が2つあるの・・・」


「なんだい?」


「ひとつは、どうしてこの中に狩人(ハントマン)がいないって、分かるのか。もうひとつは、どうして直接会って教えないのか」


「あぁ、それか それなら簡単だ。ひとつ目の方は、俺達よりかなり早く起きておけば確認出来る」


「そうかぁ」


「もうひとつの方は、どんな人間かわからないから。いくら相手が眠っていてもいつかは目が覚める。それに、どんな性格かも寝ているだけじゃ分らないから、あるいは・・・」


「あるいは何?」


「俺を知っているかだ」


「っ!?

どうゆー事?俺を知っているかって?」


「話せば長くなるから機会があれば話すよ。だけど、もし、俺を知っている奴だったら、そいつは俺達をつけてきていると思う・・・」


「えっ!?」


「多分、この会話も近くで聞いてるだろうぜ」


その時だった、


「その通り!さすがだねぇ~、やっぱその天才頭脳は落ちてないか」


「!?」


突然した後ろからの声に2人は驚いた。


だが、優はすぐにその聞き覚えのある声に不安は吹き飛んだ。


「久しぶりやなぁ!優!」


「お、お前!?啓悟(けいご)か!?」


「おっ?覚えててくれっとんかぁ~、嬉しいやん!」


「バ、バカ!忘れるわけないだろ同じ学校の親友を」


「ちょっと待ってよ!2人とも知り合い?」


「あぁ、こいつは昔、俺と同じ学校にいた友達。名前は・・・」


「吉永 啓悟(よしなが けいご)いいます。よろしくな!」


「私、門垣 麻美です。よろしく」


「でも、どうしてお前もここに?」


「そんなん、俺が知りたいわ・・・」


「そうかぁ、お前もか・・・」


「とりあえず、例のポイントに行ってみない?ここで話しててもしょうがないわ」


「そうだな。あともう少しだし行くか!」


「なんや?例のポイントって?」


「あぁ、それは歩きながら話すよ。ってゆーかお前、俺達をつけてたんだったら知ってるんじゃないのか?」


「つけるって人聞きの悪い・・・尾行って言うてんか!まっ、どっちでもええけど、確かに尾行はしとったけど 会話のすみずみまで聞こえるかいなぁ」


3人は歩き始めた。


“コツッコツッコツッコツッ”


「へぇ~、天井かぁそら気付かんかったわぁ。やるなぁ麻美ちゃん」


「・・・・・」


麻美は啓悟をじーっと見ながら考えていた。


「どうした?」


「えっ?いやっ、なんか啓悟君、兄に似てるかなぁって・・・」


「へぇ~、麻美ちゃんの兄貴も、鼻が高いんちゃうかぁ~、こんなイケメンに似とるなんてな!(笑)」


「どこがイケメンだよ!麻美ちゃんの兄貴も大阪にいるんだったよな?」


「えぇ、だからなんか雰囲気がね」


「な?言っただろ?」


「なんや、そうかぁ、まっなんか会ってみたいなぁ~麻美ちゃんの兄貴・・・気ぃ合いそうや」


「こんど連れてってよ。大阪・・・なんか今、無性に兄に会いたい」


「えぇで!大阪なら知らん所なんかないからな!」


「じゃあ俺も行こうかな?お前に貸したCDそろそろ返してもらはねぇと」


「ギクッ!まだ覚えてたんかいな」


「あたりめぇだろ?忘れるかよっ!」


「いやぁ~、な?、あれな?、どこやったかいなぁ(汗)」


「まさかお前、なくしたんじゃ・・・」


「冗談や、冗談!絶対にどっかにあるって!多分・・・」


「お前なぁ・・・」


「あっ!そうや!すっかり忘れとった。お前に渡そうと思っとったんや」


ガサッガサッ”


啓悟はふところからあるものを取り出した。


「お前それっ!拳銃じゃねぇか!どこでそれを!?」


「これかぁ?俺が起きてからこの建物んなか探索しとう最中に、こんくらいの坊主がリュックん中にぎょうさん入れてぐっすり眠ってたさかいに、2丁だけ拝借したんや。おそらくそいつ、武器人(ウェポンマン)やで」


「この悪党・・・」


「まぁそない言いなや。ほれっ、1丁わけたるさかいに」


「いや、銃ならもう持ってる」


優も、自分の持っている銃を見せた。


「なんやそれ、せっかく2丁盗って・・・いや、貰ってきたのに」


「黙ってだろ?」


「いちいち、うるさいやっちゃな~。どや?麻美ちゃん使うか?」


「いいえ、私も遠慮しておくわ」


「さよか。なんや人がせっかく心配して・・・ブツブツブツブツ・・・」


「はいはい。ん?!・・・」


優は天井を確認した。


「そろそろ例のポイントだな」


「えぇ、そうね」


「なんや2人とも無視かいなぁ~」


「はいはい」


コツッコツッコツッコツッ”


3人は、例のポイントの【A/Z・・・001/100】の目の前まできていた。


“サッ・・・”


優は天井を確認する。


「やっと着いたぜ」


「なぁ、あれって・・・あれやろ?」


“スッ・・・”


啓悟はゆっくりと目の前を指さす


「えぇ、そうね」


麻美は少し、呆れた感じで言った


「宝箱・・・」


「ベタやなぁ~(笑)」


「まぁでも、これで少しはゲームっぽくなったじゃねぇかよ(笑)」


そこには、腰ぐらいの高さの台の上に乗った、20型テレビぐらいの大きさの宝箱が置いてあった。


「しっかし、たいそうな宝箱やなぁ」


「早く開けましょうよ」


「ちょっと、待ちぃな。ココ見てみ!ごっつい鍵付いとるで、俺、こんな鍵持ってへんし・・・」


「それなら大丈夫だ」


「そうか!優、鍵持っとったわぁ」


「なんだお前!?俺のポケットまで調べてたのか?」


「当たり前やろぅ?誰がなにもってるんかは、ちゃんと調べとかんと」


「お前って、怖ぇな・・・」


「まぁそー言いなや。(そん時、優が目ぇ覚めて、びっくりして頭どついて気絶さしたんなんか。言えへんよな・・・)・・・優・・・頭の調子どないや?・・・」


「ん?」


啓悟の問い掛けに疑問をいだきながらも鍵を探す。


“ガサッゴソッ”


「あった!これだ!」


「それで開ける事が出来るのね?」


「多分な」


“スッ・・・”


優は持っている鍵をゆっくりと鍵穴に差し込む


“・・・カチッ・・・”


「ヨッシャ!ビンゴや!」


そのまま鍵を回す。


“カチンッ・・・”


「さぁ~中から何が出て来るか楽しみやなぁ」


「えぇ」


「んじゃ、開けるぞ」


優は宝箱のフタに手を掛ける。


そしてゆっくりと開ける。


“ギィィィィィィ・・・ガチャ”


「これは・・・!?」


中に入っていたのは【メッセージの書かれたメモ用紙・2枚の地図・2本の鍵・2個の無線機】


「なんやぎょうさん入っとるで」


優は、中に入っているメモ用紙を取り出し、そこに書かれた文章を懐中電灯で照らし読み上げる。


「【鍵人様、おめでとうございます。よくぞココまで辿り着きました。まずは第一の関門(かんもん)突破です。今あなたのまわりに何人の仲間がいるかはわかりませんが、次にやって頂く事はこの建物からの脱出です。それには最低でも、もう1人の仲間が必要です。でも安心して下さいこの建物内にはあなたを含め4人います。まずは仲間を見つけてきて下さい。仲間が見つかれば裏面を確認下さい】」


「仲間やったら、3人やお釣がくるで!」


「早く裏を見ましょ!」


「そうだな」


“パサッ・・・”


優は、裏面を読み始めた。


「【仲間は、お集まりになりましたか?それでは、次のルールをご説明いたします。まず、箱の中にある2つの鍵についてですが、鍵にはそれぞれあるポイントが書かれています。そこには出口に繋がるドアがあります。そこに行き、箱の中にある無線機を使って そのポイントで同時に鍵を回して下さい。そのポイントに行くには、箱の中に地図を2枚用意しておりますので、お役立て下さい。】」


「と言うことは、二手に別れて行動するって事ね?」


「あぁ、そうみたいやなぁ」


「あれ?まだ なんか書いてあるぜ」


「読んでみてよ」


「え~と、【最後になりますが、この箱をお開けになってから、40分以内に出口のドアを開けないとロックがかかり2度と、この建物内から出る事が出来なくなります。さらにその1時間後に、この建物内に仕掛けてある7つの爆弾が爆発する仕掛けになっております。くれぐれも、鍵を回すタイミングには失敗なさらないように・・"誤差0.3秒以上でアウトです】って!?爆弾!?」


「なんやて!?」


「ちょっとそれって・・・」


“パカッ・・・”


優は携帯を開く


「やばいなぁ、後、30分弱しかねぇ」


優は、箱の中にある鍵を取った。


「とりあえず、時間がねぇ!早くドアを開けねぇと・・・」


「えぇ、急ぎましょ!」


「え~と、

こっちの鍵は【A/Z・・・100/100】で、こっちは、【Z/Z・・・001/100】・・・文字の並びからみて、2つとも、正反対だな」


「確かに、失敗はでけへんな」


「俺は、こっちを行く」


そう言うと、優は片方の鍵を啓悟に渡した。

そして、箱の中から、地図と無線機を取り出した。


「そっちは麻美ちゃんと2人で頼む!俺は少し考えたい事があるから・・・」


「わかったわ」


「それじゃ、急ごう、一秒も、俺達は無駄には出来ねぇ」


「そやな!」


そう言うと、啓悟も、地図と無線機を手にした。


「それと啓悟、無線機の周波数は、1Chだ」


「オゥよ!」


“カチッ・・・カチカチカチ”


2人とも無線機の電源を入れ、周波数を合わした。


「それじゃ、今度は、外で会いましょ」


「あぁ。じゃあ、また後で」


「あっ!優!いつでも【蒼【と【赤】、忘れたあかんでぇ~」


「分かってるって!」


3人は目的のポイントヘ向い始めた。


残り時間・・・32分9秒・・・


残り時間・・・19分24秒・・・


“コトッ、コトッ、コトッ、コトッ・・”


「え~と次を右か」


優は、確実に出口のドアに近付いていた。


“ザァ・・・ザァ・・・”


まただ・・・

また無線機にノイズが・・・

これで、3度目、一体、どうゆう事だ?

まさかっ!?

優は、何かひらめいたようだった。


“カチ・・・”


「〈どうだそっちは?〉」


「《どうって・・・相変わらずや、似た様な所をひたすらな・・・》」


「〈そうかぁ〉」


「《そうや!俺らもさっきノイズがあったで!優が言ってたように、しばらく歩いたら、だんだん聞こえんようになったわ!それと、ちゃんと優の指示どうりにしとるから、心配せんでええで!》」


「〈わかった。なんかあれば、また連絡する〉」


「《あいよ!ほなっ・・・》」


“ジー・・・”


そうかぁ。啓悟の所にもあったか。これで・・・


“コトッ、コトッ、コトッ、コトッ・・・”


優は歩き続ける。


残り時間・・・15分47秒・・・

一方、啓悟と麻美は。

残り時間・・・30分14秒・・・


“コツッコツッコツッ・・・”


「優は、学校でもあんな感じだったの?」


「ん?どうゆう事や?」


「だって、なんか普通の学生生活を送って来たようには思えないわ、さっきだって、考え事があるからとか、思考がちょっと特殊っていうか・・・優の頭の中の選択と行動はとにかく、的確なのよ」


「あぁ、その事かいな。確かに優は、飛び抜けて優秀やったで!学校ん中でも有名やわ!なんせIQ300越えの超天才児やからなぁ」


「IQ300って、数字が大き過ぎていまいち、ピンとこないわ」


「そうやなぁ・・・例えて言うんやったら、あの、エジソンが一生かけて成し遂げた研究を、たった一年で完成させてしまうんや」


「ッ!?嘘でしょっ?」


「嘘ちゃうって!俺は正直者んやで!」


「でも、それだけ凄い人がいる学校だったら、テレビとか出ててもおかしくないと思うけど・・・」


「まぁ、うちの学校はかなり特殊やからなぁ」


「なんて言う学校なの?」


「本来は、極秘事項なんやけどなぁ・・・」


「いいじゃない。名前だけなら問題無いんじゃないの?」


「いや、名前聞いてまうと、他の事も聞きたなる思うしなぁ」


「そう・・・」


「わかった。んなら、名前だけやで」


「うん」


「俺らの学校の正式名称は、え~と、確か『全国選抜天才児育成研究所(ぜんこくせんばつてんさいじいくせいけんきゅうじょ)』んで、長いから俺らは学校言うてんねん(笑)」


「・・・・・・」


「っんな?ツッコミどころ、満載やろっ?」


「確かにそうね。でも、ここから先は聞かない約束だもんね」


「すまんな。機会が出来たらまた話すわ」


「うん、ありがと・・・」


「その代わり、俺や優の事やったら、どんどん聞いてや!」


と、その時いきなり、無線機が鳴った。


「〈おいっ!今、無線機にノイズみたいな音、入らなかったか?〉」


それは突然した、優の連絡だった。


「《いやぁ、そないな音、せんかったけど。なぁ 麻美ちゃん?》」


「《えぇ、何も聞こえなかったわ》」


「〈そうか・・・〉」


「《なんかあったんか?》」


「〈あぁ、ついさっきだ、俺も出口のポイントに向っていたら、急にこの無線機に“ザァー”って、ノイズが入ったんだ。ただの電波障害だと思って、お前らに連絡したんだけど。でも、違うみたいだなぁ〉」


「《そうかいなぁ。俺らは、うんともすんとも言わんかったけどな》」


「〈わかった。またなんかあったら、連絡する〉」


「《はいよ・・・》」


「一体、何が起きてるのかしら?」


「さぁな、でも、電波障害かぁ。確かに、優にノイズが入った時に、俺にもノイズがあれば、わかるんやけどなぁ」


「えっ?どうゆう事?同時にノイズが入ればわかるって?」


「ええか?そもそもノイズが起こるんは、大気が乱れた時なんかに、ラジオとか無線機みたいな受信機能がついてるもんに入ってくる電波なんや。」


「ちょっと待って、でも、なんで優は、あんなに慌ててたの?それに、わざわざ確認を取るほどの事じゃないんじゃないの?・・・だって、ノイズって、どっからか流れ込んだ電波なんでしょ?」


「確かに、流れ込んだ電波自体はさほど重要や無いんや。問題なんはこの区域、最低でもこの建物内全域が圏外って事や」


麻「?」


「圏外ゆーんは、電波が全く入ってこうへん空間やで?そこに、理由はどうあれノイズなんか入って来よったんや・・・大問題やで!」


「あっ!そっか!圏外域にノイズが入るって事は、近くの場所に圏外じゃない場所があるって事。だから優は、あんなに慌てて・・・」


「そゆこと。やけど俺はこう思うねん。【圏外は作られたもん】ってな」


「作られたもの?」


「そうや。起きた時に、携帯みて圏外や。って知ってんけど、そん時は単純に【この建物ん中は電波が入らんのや】って思ってたんや。でも、この建物ん中でちっさい窓見っけて、そっから携帯出して電波探しとったんやけど、結局圏外のままやったわ。でも そんとき窓から外の景色みて、思ったんや【おかしいな】ってな」


「私も、その窓から優と一緒に見たけど、周りは深そうな森だったし、圏外って事に違和感はなかったわ。都会の真ん中だったら別だけど・・・」


「そこやねん。ひとつ矛盾があるとおもわんか?」


「どうゆう事?」


「確かに、都会やったら違和感あんねんけど、逆にまわりが森ってとこにも違和感が出てくんねん」


「まわりが森で、出て来る違和感って・・・・・あっ!」


「気付いたか?」


「この建物!

そうよね、森の中にこんな建物がある自体、不思議だもんね」


「な?仮にここが無人島でも、人が住んどる島でも、こんな大規模な建物ん作るんやったら、絶対にそれ相応の人手がいるはずや。それやのに圏外っておかしな話しやろ?」


「確かにそうね、電波がなかったら、連絡取れないもんね。あっ、でも、無線機なら圏外でも連絡出来るんじゃない?ほらっ!さっき優と通信できてたし・・・」


「ホンマや!無線機の事、考えてなかったわ」


「はい!啓の推理、大ハズレぇ(笑)」


「クソ~、爪が甘かったかぁ~」


「でも、すごいと思うよ。私なんか、優や啓に聞いてばっかだし」


「なんや、慰めてくれるんか?ええ子やなぁ(笑)」


「でも、本当の事よ。私も、啓や優みたいにちっちゃい頃から頭がよかったら、もうちょっと良い学校に楽に入れたかなって(笑)」


「ハハッ、確かに俺は、物心ついた時から、同年代やちょっと歳上には負けんぐらいの頭脳はあったけど、優は・・・」


「優がどうかしたの?」


「あいつ、数年前までは、普通の学生と変わらんかったんや

あいつ・・・俺と同じ孤児院で育てられたんや」


「孤児院?」


「あぁ、俺は捨て子で 優は赤ん坊の時に両親を無くしてな・・・」


「そうだったんだぁ・・・」


「んで、そんな俺らを拾ってくれたんが、そこの孤児院の創立者であり、たった1人の先生の恵理子(えりこ)って言う若くて美人な人やった・・・」


少し、啓悟の表情が曇った。


「俺らが、小学校ぐらいの時期やあの事件が起きたんは・・・・」


「あの事件?」


「孤児院にいた子供、俺と優以外全員が殺されたんや・・・」


「嘘ッ・・・」


「そん時、俺と優は外で遊んどってな、院内に戻った時にはもう全員死んでた。んで、そん時に優は犯人に持っとった果物ナイフで腹、刺されたんや。まぁ奇跡的に命に別状はなかってんけど・・・それ見て、俺・「「ビビってもてな。その場から逃げたんや・・・次に院内に戻った時は、呼んだ警官と一緒やった・・・」


「それで?犯人は捕まったの?」


「犯人か?死んどった・・・持っとった果物ナイフで自分の首斬って、子供達といつもみたいにお昼寝をするように・・・」


「まさか!?犯人って!?」


「そう・・・恵理子先生や・・・」


「そんなぁ・・・なんでなのよ」


「さぁな。警察は多額の借金が動機やって言っとったけどな」


「借金・・・」


「あぁ。話しを戻すけど、そんとき優の腹、刺された言うたやろ?確かに、命に別状はなかったんやけど・・・」


「なんかあったの?」


「実はそんとき、刺されたとこが悪くてなぁ、下半身の神経が逝ってもて、もう立たれへん身体になってもたんや」


「えっ?でも待って!優、普通に歩いてたよね?」


「そう。おかしいやろ?一生立たれへん体やのに、あいつピンピンしとんねん。それも、最近の事やないんやで!?」


「どうゆう事?」


「その事件から1週間後や俺も優も落ち着いた頃でな、俺が優の入院しとる病院に見舞いに行った時や、なんや個室に移されとってな、いちいちナースステーション行って聞いたんや。ほんで、優の部屋の前に来た時や ノックしてんけど全然返事なくてな、寝とるんや思て、せめて持って来たマンガだけでも置いてったろ思てドアを開けたんや

でも、そこはもぬけの殻やった。

その後、病院の人と血眼になって探したけど、結局そのまま消えてしもたんや・・・

そっから数年後、俺が例の学校に通っとった時や珍しくもなかってんけど、転校生が来るっちゅう事になってな、普通やったら別に驚かんねんけど、その転校生言うんが・・・」


「優・・・」


「そうや。あの天才頭脳と歩ける身体を手に入れて帰って来たんや」


「病院を抜け出した後、一体、何があったのかしら・・・」


「さぁな。それだけは、あいつも教えてくれへんかった・・・というより、病院から出た事も、今なんで普通に歩けてるのかも、全然記憶に無いそうや」


「そんな事があったんだ・・・」


「やから、優の天才頭脳の秘密は、わからんまんまやねんなぁ」


その時、また優からの通信が入った。


「〈まただ!またノイズがあった!そっちはどうだ?変化なしか?〉」


「《またかいなぁ。こっちは、ノイズなんか全然ないで!》」


「〈そうか。でも、なんかあるかもしれない。そっちでもノイズがあったら、そのノイズがあったポイントを地図に印を入れておいてくれ!〉」


「《わかったわ。そっちはどう?どのくらい進んだの?》」


「〈今で大体、半分ぐらいだ〉」


「《私達も同じぐらいよ。残り20分・・・急ぎましょ》」


「〈ああ、じゃあ頼んだぞ。ノイズは音がしたポイントから離れると次第に聞えなくなる、聞こえたら、なるべく早く印をつけてくれ〉」


「《おぅ!まかしとき!》」


“ジー”


通信を切った。


「それにしてもノイズかぁ。一体なんなんやろ?さっぱりやわぁ」


「あっちには あって、こっちには無いもんね・・・」


「まぁ、歩いとったら いつかなるやろ?」


“コツッコツッコツッ”


懐中電灯の光と地図を頼りに、暗闇の中を黙々と2人は出口へと進んで行く。

その時だった突然、無線機から、例の音が流れた。


“ザァ・・・ザァ・・・”


「ッ!?」


「これか、優が言うとった、ノイズっちゅうんわ!」


残り時間・・・19分50秒・・・


残り時間・・・7分28秒・・・


優は出口のドアの前に来ていた。

口もとに、無線機を構えた。


「〈おぃ!そっちはあと、どのくらいだ?〉」


「《俺らも、もう着くわ。今、最後の角を曲っとうとこや・・・・・・・よしっ!着いたで!》」


「〈残り7分・・・どうやら間に合ったようだな〉」


「《しっかし、デカいドアやなぁ。俺ん家の3倍はあんで(笑)》」


「〈まぁでも、これぐらいの方が出口らしいじゃねぇか〉」


「《ヨッシャ!早速、ドア開けようで!》」


「〈あぁ、じゃ、鍵を入れるぞ・・・〉」


“ガチャッ・・”


「《ほな俺も・・・》」


“ガチャッ・・”


「〈準備OKだ〉」


「《そんじゃあ俺が、カウントとるでぇ!》」


「《3!》」


「〈・・・・〉」


「《2!》」


「〈・・・・!!〉」


「《1!》」


「〈ちょ、ちょっと待て啓悟!!〉」


残り時間・・・6分47秒・・・


優は慌てて、啓悟のカウントを止めた。


「《どないしたんや急に?》」


「〈肝心な事を忘れてたぜ・・・〉」


「《なんや?肝心なことて?》」


「〈そっちに秒数までがわかる物、なんかねぇか?〉」


「《私の携帯のストップウォッチ機能なら、秒数までわかるけど・・・》」


「〈ああ、それでじゅうぶんだ〉」


「《一体どないすんねや?ストップウォッチなんか?》」


「〈この無線機の通信の誤差を調べるんだ〉」


「《通信の誤差?》」


「〈ああ。よしっいいか?今から俺がスタートって言ったら、ストップウォッチをスタートさせてくれ〉」


「《わかったわ》」


「〈・・・・〉」


「〈スタート!〉」


“カチッ・・・”


麻美は、優の合図と同時に携帯のストップウォッチ機能を起動させた。


残り時間・・・5分48秒・・・


「〈麻美ちゃん、秒数を数えていってくれ〉」


「《・・・3、4、5、6・・・》」


「〈・・・やっぱり・・・〉」


「《そんで、どんくらいずれてたんや?》」


「〈1秒・・・〉」


「《1秒かぁ。そら、デカいなぁ・・・》」


「《待ってよ、なんでそれがわかったの?私、秒数を数えてただけよ・・・》」


「〈それは、俺も携帯のストップウォッチ機能を使ってたからなんだ。麻美ちゃんが5秒をカウントした時、俺は既に7秒だった・・・〉」


「《・・・?じゃあ、誤差は2秒じゃないの?》」


「〈いやっ、確かに全体的に見れば、時間差は2秒だけど俺がスタートと言って麻美ちゃんに伝わる時間を仮に2秒だとする。すると、俺が2秒の時に、麻美ちゃんがスタートするわけだ。この時、時間差2秒だから、麻美ちゃんがカウントした時間は、さらに2秒の時をへて、俺に伝わって来る。分かるか?つまり、麻美ちゃんが5秒の時(優はこの時7秒)、無線機を通して俺が麻美ちゃんのカウントが5秒だと認識する時、9秒じゃないといけないんだ!〉」


「《でも、7秒だった。だから、無線機を通しておこる時間差は1秒・・・》」


「〈そうゆう事だ〉」


残り時間・・・4分22秒・・・


「《もう残り時間5分きってしもた。5秒カウントすんで!》」


「〈わかった。じゃあ俺は、お前の『1秒』って言葉と同時に鍵を回せばいいんだな?〉」


「《そやな。んじゃ、カウントとるでぇ!》」


再び啓悟が、カウントを取り始めた。


「《5ォ!》」


「《4!》」


刻一刻とカウントが進む・・・


「《3!》」


2人の手に緊張がはしる・・・


「《2ィ!》」


優が構える・・・


「《1!》」


“ガチャ・・・”


優が、無線機から伝わった、啓悟のカウントと同時に鍵を回す。


一方、啓悟もカウントを終え、心の中の『0』と同時に鍵を回す。

建物内は沈黙する。


「《どないや?あかんかったんか?》」


・・・・・。


「〈わかんねぇ。失敗だったのかもしれねぇ・・・〉」


・・・・・・。


「《なんで開かないのよ!!》」


・・・・・・。


扉は永遠に開く事の無い鉄の塊と化してしまった・・・。

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