第12話

辺りはだいぶ暗くなっていた。


“ザッザッザッザッ”


「あった。あそこや!」


京介の目の前には、古びたボロ小屋があった。


「えっ?あの中に、入るの??」


「贅沢言うたらアカンでぇ~、はよ治療せんと、悪いばい菌でも入ったら大変やからなぁ」


「いやぁ、でも虫とか出そうだし・・・」


「なにちっちゃい事、言うてんねん!虫なんか出てこーへんて!仮に出て来ても俺らが虫やったら人間なんか、東京タワーぐらいあるそうやで!虫の方がビビるっちゅうねん!」


「でも、やっぱ苦手なものは苦手で・・・」


「さぁっ!つべこべ言わんと、さっさ入るでぇ~(笑)」


「ちょっ、待っ、心の準備がっ・・・」


“ガラガラ・・・・・”


京介は小屋のドアを開けた。

中は外観(がいかん)とは違って、全然荒れた様子はなかった。


「へぇ~、中は結構普通なんだぁ」


「だから、言うたやろぅ?虫なんか出てこーへんて!」


「まだ安心出来ないわよ!」


「はいはい・・・」


「よいしょっと・・・」


京介は、晴奈を床に座らせた。


“ガサッガサッ・・・”


「え~っと、確かこのへんに・・・」


“ガサッガサッ・・・”


「あった、あった!」


京介は、棚から救急治療箱を取り出した。


「え~っと、まずは消毒やな。ちょっとしみるけど我慢しぃな」


「・・・痛っ・・・」


「ヨッシャ、後はガーゼあてて包帯を巻いてっと」


“サッサッ・・・”


「おしっ!これで、OKや!」


「アリガト・・・」


「どう致しまして(笑)せやけど、さっきの奴、一体何者なんや?」


「わかんない。ゲームや武器人(ウェポンマン)がどうとかって・・・」


「・・・なんやそれ・・・わけ分からんなぁ・・・」


「あぁ、それからあいつ、自分の事、名乗ってたわ」


「なんて?」


「えぇっと、確か・・・風戸 仁って・・・」


「なんやて!!」


京介の顔色が変わった。


「それほんまか!?」


「うん・・・」


「クソッ・・・刑務所におったんと違うんか!?」


「ちょっと、どうしたのよ?」


「いやぁ、あいつにはちょっと、借りがあるんや。スマンけど、すぐ戻って来るさかいちょっとここで、待っといてくれへんか?」


「私は、全然構わないけど、どこ行くのよ?」


「さっきんとこや、あいつにはちょっと用があんねや」


“ガラッ・・・”


「そや!これ持っとき」


“ガサッ”


京介は、晴奈に持っていた銃を渡した。


「使い方は、大体わかるな?俺が戻って来る前に、変な奴が来たら、それ使え!えぇか、無駄撃ちしたあかんで!ほなっ俺行くで!」


「ちょっと、待って!京の銃は?」


「心配せんでええ、ちゃんとあるから。ほな!」


“ガラガラッ・・・バシッ”


京介は小屋から飛び出して行った。


“ザッザッザッザッ”


京介は、森の中を走っていた。


「クソッ・・・クソッ・・・、ハァ・・・あいつが・・・あいつが・・・ハァ・・・

あん時、あいつが仁って知ってたら・・・とどめをさしとったんや。クソッ・・・変な情けをかけるんやなかったわぁ」


京介は、自分の親のかたきである仁を、助けた事を、後悔していた。


“ザッザッザッザッ”


京介は、さっきいた所に戻って来た。


「!?

なんでや!?あいつがおらへん?・・・確かにここやった・・・

クソッ・・・逃がしたか・・・・ん?」


京介は、足下を見た。


そこには、血の付いた枯れ葉が、そこら中にあった。

たどって行くと、その血が一本の道しるべのようにつらなって、続いているのがわかった。


「フッ・・・逃がさへんでぇ・・・」


京介は、薄く微笑を浮かべて、その血の跡をたどって行った。


「はぁ・・・また独りぼっちかぁ」


翔太や京介と一緒だったので、しばらく感じなかった孤独感に晴奈は不安になっていた。


“カチンッ”


晴奈は念の為に、銃のロックを外した。


“・・・・・・ ”


「!」


小屋の外で、かすかだが声がする。


「(・・・誰か来る・・・・!?)」


“ガチャッ・・・”


晴奈は、ドアに向って銃をかまえた。

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