42話 エピローグ

 どんなのを作れば良いのか解らず、悩み、スランプに陥り。それで、柳に相談していつもので良いんだと励まされて作ったカガミらしいカガミのオープニング。


 慣れない演技。初めての演技。

 撫子と何度も練習をした。役だと解っているのに、蒼演じる撫子に何度もドキドキさせられた。


 撫子も、弟だと思っていた鏡也に何度もドキドキした。


 キョウと蒼は出会い、恋仲を育んでいく。


 そして桃演じる美紅に止められ。


 美紅が苦しみ。竜司演じる黃が蒼に惚れ、あやめ演じる美紅のライバルがキョウにアプローチを仕掛けに行く。

 黒部演じる蒼のオタク友達は何度も蒼に助言をしている。

 良いことを言っているはずなのに閉まらない、面白いキャラだ。


 鏡也も桃も撫子も柳も竜司もあやめも黒部も監督も脚本も。


 内容なんて全部知っている。演じたのだから。書いたのだから。見てきたのだから。でも熱中する。物語の世界に引き込まれていく。


 それでいて、あの撮影の時はどうだった。

 こんなミスをした。こんなことを考えた。ここの演技はこだわった。

 映像を見ながらいろいろなことを思い出す。


 映画の撮影。このメンバーで作り上げる霹靂の蒼は本当に楽しかった。


 そしてスキャンダル。


 この展開の後、鏡也が殴られ怪我をした。


 沢山の人に迷惑をかけた。でも、みんな優しかった。五日間。怪我が治るまでみんなと遊んで凄く元気が出た。

 こんな楽しい一週間は鏡也のこれまでの人生で一度もなかった。


 怪我の功名である。


 そして、いよいよクライマックス。


 流れ出す桃と鏡也のコラボ曲。


 会心の出来で、二人の最高傑作。脳が溶けるような、思わず踊りたくなるような、心が震え揺さぶられる二人の音楽。

 それを蒼演じる撫子とキョウ演じる鏡也が歌う。


 沸き立つ。心が躍る。肌が痺れる。


 音楽に飲まれ、音楽に当てられ。最後、蒼とキョウが結ばれるところを見る頃にはここにいる全員が感動に打ち震えていた。


「良かった、良かったのでず!!!」


 柳が号泣し、声を上げる。


「スゲえ。スゲえ!!」

「スゴい。スゴいよ!!」


 竜司とあやめが抱き合って感動を伝える。


 黒部も黙ってみていて。


 撫子は、静かに泣いて涙を拭いていた。


「良かった、良かったよ!!」


 桃は大泣きし、


 鏡也は上を向いて、泣きそうなのをこらえていた。



 とにもかくにも霹靂の蒼は凄かった。


 自分たちで作ったから、関わったから。感動は一入なのかもしれない。

 それでも、ここまで感動できたのは映画が本当に良いものだったからだ。


 少なくとも鏡也たちは、凄く感動していた。


「良かったね。もう一回見る?」


「見る!」

「「「「みます!!」」」」


 その後三度ほど霹靂の蒼を皆で見返す。


 映画霹靂の蒼は完成した。色々あったけど霹靂の蒼は完成したのだ!!!!!





                    ◇





 霹靂の蒼、完成記念の祝賀会。


 鏡也、柳、桃は未成年だし。お酒も飲めないと言うことで、気を遣って貰えたのか懇親会の時よりはご飯のボリュームが多めの店。

 鏡也たちは、映画完成の感動の余韻に浸りながら豪華な食事に舌鼓を打つ。


「そう言えば鏡也くん、新しい住まいはどんな感じ?」


「良い感じ。お母さんは家が広くなったって喜んでたし、お父さんもなんか嬉しそうだった」


「そりゃそうでしょ。鏡也くん、こんな立派になってねぇ。マンション一部屋ポンと買えるくらい……お姉ちゃんも誇らしいわ」


「まぁ、使ってなかったからね」


 カガミの名が売れてお金が入るようになったは良いけど、鏡也が欲しいものなんて漫画本かゲームばっかりだ。

 まだ養って貰ってるから食費や家賃もかさまないし、使う機会もない。

 稼いだ分がそのまま貯金になるから、その額はそれなりだった。


 撫子に近況報告をしていると、桃が混じってくる。


「そう言えば、カガみん。学校辞めたって本当?」


「うん。この前、退学届出してきたところ」


「そっか。まぁあんなことがあったからね。……でもさ、もしカガみんが良かったらで良いんだけど……私の学園に編入しない?」


「え?」


「私の通ってる学園! ……学園の方針的に芸能人みたいな人たちが集まってるからカガみんが浮くことはないと思うし、それに理事長が私のおじいちゃんだから」


「なに? 桃って実はお嬢様だったの?」


「いやいや! そんな大層なもんじゃないよ! おじいちゃんが理事長ってだけ!」


 両手をブンブン振って否定する桃に、目が点になる。


「なんなのです? カガミ様、桃ちゃんの学園に転校するのです? ……だ、だったら桃ちゃん。わ、私もそっちに転校したいのです!!!」


 柳も混じる。

 柳も最近はずっと学校に行っていなかったけど、鏡也のいる学校なら満更でもない。いや、むしろ皆勤賞だって目指せるだろう。


「柳ちゃんも是非来てよ!! スゴく楽しいから!!」


「え? なに? 柳も転校するの?」


「嫌なのです?」


 ……いや、むしろ。桃と柳がいる学園なんてそれだけで、スッゴく楽しそうだ!!


「良いなぁ、私ももう一回女子高生したいなぁ!」


「いや、それは流石に。って言うか、俺まだ行くって言ってないんですけど?」


「でも鏡也くん、スゴく行きたそうな顔してるよ」


 ……そりゃそうだ。


 鏡也がカガミだってバレても面倒ごとなんて起こらなくて。なにより桃がいて。おまけに鏡也が転校するのなら、柳も一緒に転校するらしい。

 願ったり叶ったり。


 学校辞めるのが寂しいとか、不安とか。色々悩んだのは一体何だったのだろうか。


 まあ、でも


「編入……。じゃあ俺、もうちょっとだけ高校生ミュージシャン名乗れるのか」


「まぁ、カガみんが一回も高校生って名乗ってるの見たことないけどね!!」


 実際、カガミは年齢を敢えて公開していない。


 見た目からスゴく若いってことが判明しているくらいである。



 霹靂の蒼の完成記念の祝賀会。


 その席で、実は理事長の孫だった桃に学園に誘われてしまった。柳共々。

 断る理由なんて全くないし、むしろ、一番大好きな友達、仲間……そんな言葉じゃ足りない大切な人たちと一緒の学園生活。


 凄く楽しそうじゃないか。


 勿論、お姉ちゃんのことも大好きだし。

 霹靂の蒼のメンバーは仲間だと思っている。


 ただまぁ、結局。


 この物語は、鏡也が幼馴染みに振られて。クラスメートにカガミだとバレて。殴られて。

 全てを失ったと思ったら、もっともっと魅力的な人たちに囲まれて。気付けば前より何千倍も何万倍も人生が楽しくなっていた。

 それだけの物語である―――。






                             第一章(完)

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