40話 霹靂の蒼撮影終了

 恋人騒動で一気に仕事がなくなってしまうキョウと、キョウのスキャンダルに責任を感じ。また同じファンから嫉妬と怒りの対象にされている蒼。


 そんな二人を見て、だから言ったのに……と苦しむ美紅。


 例えキョウが傷つき、蒼が絶望し、美紅が苦しんでしまおうとも。

 恋人騒動なんかじゃ、キョウの音楽は決して色褪せたりしない。


 キョウはイケメンで、アイドル的な側面があるのは事実だがもっと踏み込めば彼は決してアイドルではない。

 どこまでも新しい曲を生み出していくミュージシャン。


 彼の傷心や哀しみすらも音楽に変わり、その音楽はキョウを愛する本物のファンにはずっと刺さり続ける。

 例えキョウがどう変わってしまおうとも、キョウの音楽を変わらず愛する人たちがいる。


 キョウは最後のライブを開く。


 恋人騒動で炎上した。テレビの仕事もめっきり減った。

 それでも、ライブには何十万人もの人が来た。


 キョウは歌う。最後の音楽を。


 他のファンのリンチに合い、ボロボロになった蒼も思わず一緒に口ずさむ。


 そこには愛でもなく、恋でもなく。あるのはただただキョウの音楽が好きで好きで溜まらない気持ちだけ。

 この衝動だけ。

 結ばれても結ばれなくても問題ない。


 歌うことが出来るなら。音楽を奏でることが出来るのなら―――。


「はいカット!! で、ここのシーンで桃ちゃんとカガミくんのコラボ曲を流すって感じでね」


「解りました」


 五日ぶりの霹靂の蒼の撮影。


 付けられた身体の傷も心の傷もこの休暇でばっちり癒やして、鏡也が完全復活したので撮影が再開される。

 霹靂の蒼はどんどんと終盤へと駆け抜けて行っている。


 キョウと蒼に差し掛かった災難。鬱展開。


 それを打破する方法――それは簡単に述べてしまえば、キョウの歌の力でゴリ押しするのだ。

 ファンの不満も、怒りも、スキャンダルも。全部キョウが歌えば解決する。


 でも、原作者の柳が誰よりもカガミの歌を信じているからその展開に不思議と説得力がある。

 音楽に溺れていく彼らに納得できる。


 後は、桃と鏡也のコラボ楽曲がちゃんとファンの怒りを哀しみを吹き飛ばす音楽であればちゃんと映画は完成する。


 しかしまだ、映画のコラボ楽曲は出来ていない。……はずだった。




                     ◇



 桃と鏡也が二人だけのコラボ楽曲を作った次の日。


 二人が事後を疑われ、誤解を解いているとき。

 そのまま荷物に紛れ込んでいて、桃とカガミのコラボ楽曲が入ったUSBメモリが落ちてしまったのだ。


 そして、それを監督が拾った。


「この2日かそこらで? 仕事早いね~」


 そんなことを思いながら、監督は曲を聴く。


 そして震えた。

 全身に電流が走るような感覚。脳を溶かし、心の底からついつい踊りたくなってしまうような不思議な魅力に溢れた音楽。


 これは確かにカガミの音楽であり、桃の音楽ではある。


 しかし、カガミの……あるいは桃の音楽とは言えない、完全に二人の音楽。


 素晴らしかった。

 監督は解る。これは恐らく、霹靂の蒼のために作られたものではない。


 自分が提案する前からとうの昔に二人はコラボ曲を作っていて。

 自分が咄嗟の思いつきであんな提案をしてしまったばっかりに、この曲は世に出せなくなってしまったのでは。


「(いや……やっぱり、僕の勘は正しかった)」


 桃ちゃんとカガミくんがコラボすればとんでもないものが出来る。

 いや、出来た。その結果が勘の正しさを証明していた。


 そして今朝。


 五日の休暇が明け、久々の撮影。

 桃と鏡也を呼び出した監督は、その場で土下座をした。


「この曲を僕に……霹靂の蒼にください!!」


「「へ?」」


 状況がつかめない。いきなり土下座なんてされて、鏡也と桃はひたすらに戸惑っていた。


「え、えっと……」


「この曲。勝手に聞かせて貰ったけど、スゴかった。多分、僕がコラボなんて提案する前から作ってたものなんでしょ?」


「「ま、まぁ。そうですけど……」」


「この曲をください!! これはスゴく良い曲だ。これをエンディングに流せば、映画は絶対伝説になる!!!」


 そ、そこまで……。

 監督の必死とも言える懇願に、桃と鏡也は考える。


 折角良い曲が出来たのだ。出せば問題になる。多方面に迷惑が掛かると思ったから二人だけの秘密のコラボになっていたのだ。

 もし世に、ファンに届けられるなら生みの親としてはそれに越したことはない。


「桃、俺的には曲が発表できるならそれに超したことがないけど……」

「私もそこは同じ」


「監督。頭を上げてください。……俺たちとしては、曲を使っていただけるならありがたいんですけど。これ、霹靂の蒼に合ってますか?」


「合ってる!! 少なくとも、僕はそう思った」


 別にこの曲は霹靂の蒼用に書き下ろしたわけじゃないから、雰囲気が違いすぎるかもしれない。

 ちょっとだけそう思ったけど、監督がここまで買って推してくれるなら。


「「お願いします」」


「本当に?」


 霹靂の蒼のエンディングは既に完成しているのだ。




                      ◇




 結局、音楽に感化され心打たれたキョウと蒼は結ばれる。


 美紅もなんやかんやでしょうがないわねと言った雰囲気で嘆息し、蒼が好きだった黃もあの音楽なら仕方ないかと。

 ファンもなんだかんだでキョウと蒼の仲を祝福し、応援する。


 そんな感じのハッピーエンド。


 言葉にしてまとめてしまえば、なんてことないありがちな大団円。よくある終わり方だ。

 でも、スゴく楽しかった!!!!!!


 撮ってみて、演じてみて、その一部始終を見続けてきて。


 この数ヶ月。カガミ、桃、撫子、竜司、あやめ、黒部、監督、脚本家、柳……このメンバーで映画霹靂の蒼を作り上げた時間はかけがえがなくてスゴく楽しかった。

 こっから、今まで撮った分の動画の編集など作業工程は無数にある。


 でも、少なくとも。カガミたち役者陣営の仕事はもう終わり。


 霹靂の蒼は完成する。


 あとは、映画が映画として完成するのを待つだけ。


 先に完成した映画を見れる日を楽しみにしながら、今夜はとりあえず打ち上げ。


 お酒は飲めずとも雰囲気によって。鏡也たちは一晩中バカ騒いだ。

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