24話 初めての飲み会
日本人という民族は根本的に宴好きである。
田舎とかに住んでいれば解るが、ほぼ毎月のように何らかの祭りがあってその度に神事だ感謝だと言っては結局お酒を飲んで馬鹿騒ぎする機会が欲しいだけなのである。
特にTV関係の仕事に就いている人間はそれが顕著だ。
番組もドラマも映画も、当事者たちにとってはそれ自体がお祭りみたいなものがあるからなのかも知れないが……
顔合わせ、打ち合わせという名の集まりは
「まぁ、映画がどんな感じになるかはやってみないと解らないし。とりあえず今日は皆の親交を深めるために、懇親会でも開きましょうか」
と、最初から飲む気満々だったのか、あらかじめ予約されていたちょっと高級そうな和食店に霹靂の蒼のキャスト陣と柳や監督などの制作陣は訪れていた。
「じゃあ、最初は主演のカガミくんから自己紹介お願いね」
「え? ……主役はお姉……撫子さんじゃ?」
「ヒーローは鏡也くんだから。やっぱり一番手は、一番目立つ役の人が良いよね」
大丈夫だから。
鏡也は撫子に背中を押されて……一番手なんてやりづらくて仕方がないけど、ここでごねると場の空気が下がってよろしくないので、覚悟を決める。
「えー。柳さんの熱い推薦でキョウ役を担当します、カガミです。演技の経験は初めてだけど、キョウはミュージシャンってことで。俺も実はミュージシャンをやっておりまして、役には入り込みやすいのかなぁ、と思っています。
主題歌も僕が担当するみたいですし。ちょー頑張るので、よろしくお願いします」
「いいね! ひゅーっ!」
パチパチと拍手が響く。じゃあ、次は撫子ちゃんね。
そんな感じで流れて、桃、藤川竜司、あやめ、黒部、監督、脚本家、柳……と、順々に自己紹介をしていった。
自己紹介をして……。
「ねえ、桃。俺さぁ、こう言う場に出るの初めてだけどいつもこんな感じなの?」
「いや、私もあんまり出ないからわかんないけど……」
「あれ? カガミくん、飲んでないね。ほらぐいっと、ぐいっと飲め!」
「いや、俺、未成年なんで」
「なんだぁ? 俺の酒が飲めねえってのか?」
「まぁ、法律で決まってますし」
「かぁ~。カガミくんは真面目だね! 偉い! この業界、あんまり羽目を外しすぎるとお仕事がなくなって、すぐホームレスだからねぇ」
まぁ、浮気とかでもすれば一発で無職になる人はなるし。
下手すれば殺人犯よりも批判に遭っているとさえ思うときもある。
それ以上に、あの手のニュースは下世話で見ていてあまり気持ちの良いものではないから朝っぱらから流すなよ。もっと流すことあるだろ。パンダの体調とか……。
とか思うこともあるが、それ以上に今は、この藤川竜司のだる絡みがウザかった。
「あはぁ。カガミくん。やっぱり近くで見ると可愛い顔してる。ねぇ。あとでお姉さんのホテルに来ない? チューして良い?」
「ダメです。あやめさん、ちょっと酔いすぎ! 酒臭いし!」
「あはぁ。ごめんね。カガミくん、桃ちゃんの彼氏だった?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど」
竜司を押しのけ、鏡也にキスしそうな勢いだったあやめを桃が間に割って、助けてくれる。
あやめは美人ではあるが、酒臭い。
正直、酒臭いのと絡むのは面倒なので、今度は桃があやめに押し倒されているが、鏡也は見て見ぬふりをして席を外す。
「(ごめん! 見捨ててゴメン!!)」
「撫子さん」
「鏡也くん、お姉ちゃんって呼んでよ~。最近、お姉ちゃんって呼んでくれるようになって嬉しかったのに~~」
「お姉ちゃん……」
「なに? 私は鏡也くんのお姉ちゃんですが!!」
……撫子も酔ってる。
鏡也が今まで、こういった宴会の場を避けていたのは――幼馴染みとの時間が欲しかったってのもあるけど、純粋に酔いどれが苦手だった。
アルコールの匂いも、頭がふわふわして理性を欠いている人間も。
他に、まだ大丈夫そうな人はいないのか!?
宴会の会場を見渡すと、そこには柳がいた。
柳は女子高生だ。確実に酔っていない。
「はわわわわ。カガミ様! んみゅぅ、ギュッてしてほしいのです」
「……柳も酔ってる?」
「雰囲気に、飲まれちゃったのです」
ちょっと上手い。
そんなこんなで、出された和食は美味しかったけど中々に地獄絵図な懇親会は過ぎていった。
鏡也は思う。
こんなんで親交が深まるのか? と。
まだまだお酒が飲める年じゃない、鏡也は思う。
お酒が入ってるとは言え、この人たちはっちゃけすぎじゃね? と。
お酒はあくまでその人の理性を取っ払い、本性をさらけ出させるだけだと聞くし、よく考えれば最初っからはっちゃけていた気もする。
「……まぁ、面白い人たちではあるのかな?」
そんなことを思いつつ、鏡也も柳のように雰囲気に飲まれてみると思いの他この宴会も面白くなってくる。
黒部が漫談をしたり、カガミと桃が歌ってみたり。
お酒は飲めずとも、プロのエンターテイナーが集まっているのだ。酔ってみればなかなかに楽しかった。
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