23話 キャスト集結!
いや、写メ交換のこと知られてたし鏡也の知らないところで仲が良いのかもしれない。
テレビで仲良いって言ってたし、カガみんもそりゃ知り合いか。
桃も鏡也も、撫子にはお世話になっているし仲の良い知り合いである。
尤も、共通の知り合いであるとまでは思ってなかったが、冷静に今までのことを思い返してみればそれも得心する。
そんなこんなで、初めての演技故に「自分だけ下手だって思われたらどうしよう」という不安は共通の知り合いである撫子がスタジオに来たことで落ち着いていた。
「む、鏡也くん。今日はお姉ちゃんって呼んでくれないの?」
つかの間の話だった。
撫子の唐突な地雷発言に、鏡也は思わず桃の方を見る。
桃は、ニマニマと頬を緩ませながら、手を口元に添えていた。
「へー。カガみん、普段は撫子さんのことお姉ちゃんって呼んでるんだー」
完全にからかいモードの桃。
ちょっとSな桃もかわいいけど、鏡也はそれを楽しむ余裕がないほどに焦る。
かぁっと、耳に血が上り真っ赤にゆであがっていくのを感じた。
「い、いや、それはお姉ちゃ……いや、撫子さんが無理矢理……」
「嫌だった?」
「いや、どうしても……いや、ってわけじゃないけど……」
鏡也としても、別に撫子のことは姉のように慕ってるし。最近はお姉ちゃん呼びが染みついてきてしまったけど。
でも、それを桃に聞かれるのは恥ずかしい。
死ぬほど恥ずかしい。
そんな鏡也の内心なんて解ってるのか解ってないのか、撫子に「嫌だった?」なんて白々しく目を潤まされて聞かれて、鏡也は流石に状況が悪すぎると思った。
「(この人たち、完全に俺をからかう流れだ。……流れを変えないと!!)」
試作し、恥ずかしさと居心地の悪さで心臓がバクバクうるさいのを無視しながら、鏡也はなんとか話題をひねり出す。
「そう言えば……お姉ちゃんは、どうして写メ交換のこと知ったの?」
「あぁ、それはね。桃ちゃんがスッゴく幸せそうにニヤニヤしてたから、何かあったの? って聞いたら鏡也くんの写真を貰ったって自慢してきたの」
「ちょちょ、撫子さん!? それは、内緒にしてって言ったよね!?」
一転、今度は桃が顔を赤くした。
よりにもよって、本人がいる前でそれを暴露しますかそれ!?
今度は桃が恥ずかしさと、焦りによるバクバクを体感する。
どうしよう。カガみんになんて思われたかな……不安げに、桃は鏡也の方を振り向くと……
「(それは、俺にも効くんだけど!?)」
色んな意味で!!!
桃が鏡也の写真で、嬉しそうにしていたって事実が恥ずかしいけど嬉しい。
そして、桃の写メを貰ったときの鏡也も、また桃のようにずっとニヤニヤしながら桃の写メを眺めていたのだ。
二つの事実が、鏡也の心の中で競り合っていよいよヤバくなる。
って言うか、撫子ばかりからかってきてズルい!!!
鏡也は仕返しとばかりに、スマホの写真ホルダーを開いて、撫子の普段の格好――キャミソールに短パンというラフな格好の写真を桃に見せながら、
「撫子さんだって、いつもはスゴく綺麗で高嶺の花って感じだけど、普段はちょっとだらしないところがあるんだよ?」
「わ、この格好でもかわいいの撫子さんズルい」
「でしょ? でも、オフの時の桃ちゃんもかわいいわよ」
「そうですかね?」
完全に不発に終った。
「あ、そう言えばあの写真を送ったときに鏡也くんから帰ってきたのがこれ」
「あ、これかわいい!」
それどころか、寂しいと死んじゃう? のクソ痛い一文とともに、長年大事にしている兎のぬいぐるみを抱きかかえてる写真を桃に見せられてしまう。
桃が、撫子にこっそりと焼き増しのお願いをしているのも見えないほどに、形容しがたい恥ずかしさでいっぱいいっぱいになってしまっていた。
「あぁぁぁああ!! ゴメン! お姉ちゃん、ゴメン!! 俺が悪かったから!! だから、もうやめてぇぇぇえええ!!!」
「ごめんね? ちょっとからかいすぎちゃったね」
桃に、普段撫子をお姉ちゃん呼びしていることを知られただけでも恥ずかしかったのに、おまけにこの羞恥プレイ……。
撫子は既に半泣きだった鏡也の頭をポンポンと優しくなでた。
撫子のせいで半泣きなのに、不思議と安心して落ち着いてしまう。
完全なマッチポンプ。
撫子強し。
桃も鏡也もスゴく恥ずかしい思いはしたけど、二人ともすっかり頭の中からは初めての演技への不安なんてすっかり忘れ去られていて、しかも、同じ羞恥を乗り越えたからか、嬉し恥ずかしな秘密を共有したからか、互いの距離まで縮まった気がする。
そんな辺りで、ぞろぞろと他のキャストたちもスタジオに辿り着いていた。
「カガミくんマジで撫子さんのこと“お姉ちゃん”って呼んでるんだ」
「意外だよね。私、カガミくんって孤高の芸術家ってイメージだったけど。なんか可愛い感じで仲良く出来そう」
「あ、もももも桃ちゃん!? 桃ちゃんがいる!!」
「田辺さんもキャストだったんですね!」
鏡也は、一番最初に口を開いた茶髪のチャラそうな見た目をしている――ちょっと変わった役をすることが多いけど、実力派として有名な若手俳優『藤川 竜司』に問いかける。
「あの……どの辺から見てました?」
「撫子さんが、カガミくんに今日はお姉ちゃんって呼んでくれないの? って聞いた辺りから?」
割と序盤!! と言うか最初の方!!!!
「な、なんで入ってこなかったんですか?」
「んー。なんか、面白いもの見れそうだなぁって思ったから?」
マジか。この人、人が悪すぎる。イケメンなのに。
「あぁぁぁぁ。……死にたい。死ぬ。寧ろ恥ずか死ぬ!!」
全部見てたのかよ!! うわぁぁぁぁあああ!!! なんて思われたかな?
恥ずかしいやつ? 痛いやつ?
そんなことはない。彼らが最初に口にしたように、藤川も、鏡也を可愛いと称した――今、売り出し中で人気急上昇中の女優『あやめ』も、普段誰とも関わらず、しかし圧倒的な人気はある『カガミ』に対して抱いていた不安のようなものがなくなり。
寧ろ、仲良くなれそう――と思っていた。
対して鏡也は、仲良くなれなさそうと思っている。
「(仲良くはなりたいけど!!!!)」
あと、桃に話しかけている小太りの男。――お笑い芸人で、キモ系ギャグ系のキャラとして映画への出演も何回か経験している『黒部』も。
「あれ? もう役者さんたちみんな揃ってる感じ?」
「いやぁ、こうしてみると凄いメンツですよね。間違いなくこれはイケますね」
「はわわわっ。カガミ様……それに、役者さんたちも。スゴいのです!!」
「(あ、柳も来たんだ)」
じゃあ、鏡也の知り合い全部揃ったことになる。もしかして少ない?
そんなこんなで、顔見知りだったり初対面だったり。個性的で、癖の強そうなメンバーがこのスタジオに出そろった。
霹靂の蒼の、映画。それが自分たちの手で作られていく。
期待、不安、ワクワク、ドキドキ。
この胸に渦巻くウズウズが止まらないようなこの感情を言い表す言葉は知らないけど、この場にいる人間全員が同じ思いを胸に抱いていた。
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