14話 柳とデートのお誘い
柳が初めてカガミと会った喫茶店で、JK作家になってから、高校をサボりがちになっている柳は編集と今日も今日とて小説の打ち合わせ兼、近況報告会をしていた。
「柳さん。原稿の進捗はどんな感じですか?」
「8割方、書けていないのです」
「つまり……2割しか完成していないと」
「そうなのです」
「ちょっと、それは困るんですが……。夕凪柳は霹靂の蒼の映画化も決まって波に乗っているのですから、今こそ新作を出してジャンジャン売り込んでいくときだと話しましたよね?」
「それはそうなのですが……。うぅ~~。なんかこう、モチベーションが上がらないのです。例えばこう、カガミ様とデート出来るとかそう言うんじゃないと、テコでも書きたくない気分なのです」
編集は、また始まった……と思う。
柳は、毎度決まって序盤二割ほどを書き出した辺りで「あれ? この作品面白いのか?」という迷いに突き当たり、グズりだすタイプの作家である。
それでもなんとか無理矢理5割ほど書かせてみると、また「あれ? 面白い?」となって後は最後までさっと書いてくれるのだが……。
この二割から五割の間で、かぐや姫さながらの無理難題を突きつけてはぐだぐだし出すのはいつもの流れなのだが、しかし、柳が口にした「無理難題」はいつもとひと味違った。
「デートならすれば良いじゃないですか。した上でなる早で原稿上げてください」
「ちょちょちょ、ちょ待ちなのです!? 私とカガミ様がででで、デートなんてどうすればそのようなことが!?」
「いや、普通にこの間連絡先交換したんですよね? だったら普通に遊びに行きませんか? って誘えば、一日くらい遊んでくれたりするんじゃないですかね? 一応同い年なんですし」
それに、編集は柳とカガミがメールでちょくちょくやりとりしているのを(主に柳が惚気るように報告してくるために)把握していた。
だからこそ、そんな提案をしたのだが……
「いやいやいや、その……でも。どうやって誘えば良いのです!? 私、友達とかいないから解らないのです」
どちらかと言えば、書けない言い訳としていってみただけの柳としてはそんな編集の提案は寝耳に水だった。いや、叶うならデートしたい。出来たらもう死んでも良い。
そんな気持ちはあるのだが、どう誘えば良いのか解らないし。それに、断られたときとか、そうでなくとも純粋に大好きなカガミ様に遊びの誘いをするのにヘタレてしまう柳。
「大丈夫です。普通に、土日、どっちか空いてたら一緒に遊びませんか? ってメールを打ち込むだけです。それだけで、もしかしたらカガミさんとデートできるやもしれません」
「う、打ち込むだけで……」
柳はゴクリと生唾を飲んだ。
期待と緊張が入り交じり、ただメールに文字を打ち込むだけなの奥歯がかちかちと鳴り手先が震える。それでも、なんとか『土日、どっちか空いてたら一緒に遊びませんか?』編集の指示通りの文章をなんとか打ち込む。
大丈夫なはずだ。ちゃんと大卒で、コミュ障な柳にもちゃんと接してくれる高いコミュ力をもつ編集が指示した文章だ。
おかしくはないはず。失礼もないはず。
かくいう編集も、良い返事が来てくれ――と願っていた。
はっきり言って相手はあのカガミだ。ダメで元々だと思っている。
でも、もし上手くいけば原稿が超速球で上がるかもしれない。――それに今回は仕事の依頼じゃない。遊ぶだけだ。
柳は見た目は美少女だし、年齢だってカガミと同じだ。
カガミも男の子なら、きっと柳の誘いを断らない。そんな勝算もある。
いやお祈りではあるが、それでも――柳のグズグズが一瞬で収まってくれるのであれば、神にも祈りたい気持ちであった。
そして、数分後。『今週の土曜日で良い? 是非、遊びましょう』と返信が来た。
「来たのです!! 来たのですよ! カガミ様!!!」
「良かったですね!」
柳も編集も、昼間から馬鹿みたいに声を上げて大喜びした。
◇
柳と編集が行きつけの喫茶店で大喜びしている頃、鏡也は鏡也でにやにやと表情を緩ませていた。
土曜日。柳から遊びの誘い(と銘打っているが、実質これはデートの誘いだと思っている)を貰った鏡也は浮かれていた。
ちょうど今朝、最終目標である自撮り写メ交換を果たすために、柳とどうやって仲良くなろうと思っていた矢先でのこのメールだ。
なんともタイムリーなお誘い。
正直、鏡也は女の子から休日デートのお誘いなんて貰ったことが無いのでなんて返せば良いのか解らず数分ほど考えて、考えた末に『今週の土曜日で良い? 是非、遊びましょう』と無難で当たり障りのなさそうな返事を送った。
暫くしてから『待ち合わせ場所は○○駅前でよろしいのです?』と返事が来たので、『了解』と送る。
鏡也は既に、うっきうっきのわっくわくだった。
今朝の桃からの自撮り写メに続いて、柳からのデートのお誘い。今日は本当に良い日だ。
柳と仲良くなれると良いなぁ。
鏡也はそんなことを考えつつ、メールを見てニマニマしていたら。授業中ということもあって、流石に先生に怒られた。
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