13話 念願の自撮り写メ

「(うわぁぁぁぁ。ミスった。失敗した。ぁぁぁぁあああああ。どうしよぉぉおおおお)」


『おやすみ』の四文字と共に送りつけた風呂上がりの寝間着姿の簡素な自撮り写真。目を瞑って眠りに就こうとしたタイミングで冷静にその行為のキモさに気付いた鏡也はこれ以上無いってほどに悶絶していた。


「(ぁぁぁぁああ!!! 送ったメールってどうやって消せば良いんだ!? 消し方わかんない!!)」


 慌ててインターネットで調べて見るも、送ってから数秒以内にしか取り消せないという絶望的な事実のみが書かれていた。

 うわぁぁぁああああああ!!!! うわぁぁぁぁあああああ!!!!


 近所迷惑と両親への迷惑だけに配慮して、音が漏れないように枕に顔を埋めながら落としどころの無い強い後悔をはき出すように慟哭する。

 やらかしたやらかしたやらかした!!!!


 確かに鏡也は、折角メール交換したんだし桃の自撮り写メの一枚くらいは欲しいなぁと思っていた。

 自分が送れば、ワンチャンノリで返ってこないかなぁと言う作戦はちょっと前に考えていたものだった。

 そしてさっき、いつものクソダサスタイルはもう見られたし、今更幻滅されないだろうとタカを括って送ってみた配意ものの、その時の鏡也は気付いていなかったのだ。


 唐突な自撮り写メを送るやつがキモいってことに。


『ごめんなさい。一件前のメールは見なかったことにして貰えませんか?』


 もはや、今の鏡也にはそんな誤爆メールを送るくらいしか出来ない。


 悩んでも、悶えてもどうしようも無く。鏡也は昨日も眠りが浅かったため、スゴく疲れていた。

 強制的な睡魔に襲われる鏡也は、悪夢に魘された。



                      ◇



 起きて、恐る恐る――それこそ、第一志望校の合格者発表に自分の受験番号が載ってるか確認するときくらいの緊張感でケータイを開くと二件のメッセージが届いている。

 送り主はいつも通り、桃と柳である。(撫子とはずっと前から連絡先の交換はしていたが、そんなに積極的に連絡はしていなかったりする)


 いつも通りの柳のおはようメール。


 そして、桃からの返信は――――


 寝起きなのか、日差しが入った部屋でピンクでもこもこのかわいいパジャマを着た桃の自撮り写真が、『おはよう』の四文字と共に送られていた。


「うおぉぉおおおお、おっしゃぁぁあああ!!!」


 来た!! 念願の自撮り写メ!! しかもかわいい!!


 この写真の桃はスッピンではあるものの、寝間着はカガミの自撮り写メが来たのを見てから態々家にある一番かわいいパジャマに着替えてから撮ったものである。昨晩寝るときに来ていたのは、灰色の生地に赤いラインが入った微妙にダサいジャージだ。


 尤も、その格好だろうがこの格好だろうが同じくらい鏡也は喜んでいただろうが……しかし、女の子は寝るときもかわいいパジャマを着るんだなぁと、感心していた。

 そして嬉しかった。


 鏡也のメールを貰った時、実は桃も鏡也と同じくカガミの自撮り写メが欲しいなぁと思つつ鏡也と同じ理由で躊躇っていたので、朝、念願の自撮り写メが唐突に届いて喜んでいたりする。

 そして忘れてメールにも同じく『見ました。これは永久保存します』と返信しようと思って、思いとどまり、無難に自撮り写真を添えてお返しメールを送るとなったのだが……


 そんな経緯を知らない鏡也は、桃に対してノリが良いなぁ、優しいなぁと言った少し見当違いな印象を抱いていた。

 その実、完全に同じ穴の狢だったってだけの話なんだが。


 朝から思わぬ収穫に、鏡也は上機嫌だった。


 しかし、ここまで来ると人間とは欲深いもので柳とも自撮り写メの交換をしたいなぁと思ってしまう。

 普通の友人ならともかく相手は芸能人なのだ。友人であり、一ファンである鏡也が「プライベートな自撮り写メが一枚欲しい!」と思うのはおかしな話では無いのだ。


 決して鏡也が節操なしというわけでは無い……はず。


「(でもなぁ……)」


 昨晩、鏡也は死ぬほど悶えていたことを思い出す。


 これは偶々桃が優しかったから、なんとかなったのであって柳相手に送ったら幻滅されるかもしれない。と言うかカガミの普段の姿が鏡也であることを知ったらショックでファンを辞めてしまうかもしれない。

 著名人にとってファンがファンを辞め、アンチになったときほど恐ろしい瞬間は無いのだ。


 今まで好いてくれていた人にいきなり嫌われる。そのショックは想像に難くない。


 勿論、柳はそんなことでカガミのことを嫌いになったりするような人でも無いのだが――しかし、嫌われるかもしれない。その恐怖から二の足を踏んでしまう。


「せめて、もうちょっと仲良くなってから……かな」


 ちょうど霹靂の蒼の主演に(ほぼ無理矢理)推薦されちゃったみたいだし、これから会う機会もあるだろう。

 表舞台に立つカガミのようなちゃんとした格好は、メイクさんやコーディネーターさんが色々やってくれた賜物だし、どうせいつかバレるときも来るだろう。


 その時までに、幻滅されないように仲良くなっておきたい。同い年でもあるし。


 そんなことを考える鏡也は、再び桃の自撮り写メ付きの『おはよう』メールに目を落とすと、ニマニマと思わず頬が緩んでいくのを感じた。


「(ええなぁ。ええ感じやなぁ。アレか? もうこれ、俺人生の勝ち組なのでは?)」


 桃から自撮り写メが貰える男。スクールカーストは底辺な鏡也だけど、この写メを貰いし今ならこの世界のリア充よりもリアルが充実しているような気分だった。


「今日は良い日になる! 頑張ろう!!」


 グッとガッツポーズをして、鏡也は今日も学校に向かう鏡也の気分は、最高に素晴らしいものだった。

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