11話 プライベートの桃と鏡也

 ここ最近、よくカガミとオリコンチャート1位を競り合うほどには人気急上昇中のアイドルグループ『世紀末シスターズ』

 そのリーダーである香月桃とは、毎日メールのやりとりこそしていたものの連絡先を交換して以来直接会うのは初めてになる。


 桃との待ち合わせ場所となる駅前に向かう鏡也の足取りはルンルン気分で軽いものだった。


「(放課後、美少女とメールで待ち合わせとかリア充っぽい!)」


 そうでなくとも、桃とは話が合うのだ。

 特に高校生で人気のミュージシャンという特殊な立場にある鏡也と対等に、お互いに尊敬し合う形で音楽について語り合える相手は他に居ない。


 ピロン♪


 メールが着信され、鏡也は携帯を覗く。


『私、桃ちゃん。今、貴方の後ろにいるの』


「おっすー。カガみん、待った?」


「いや、今来たところ。……って言うか怖っ! メール怖っ!」


「えへへ。びっくりした?」


 このやりとりが既にリア充っぽいと、非リア感丸出しな感想で胸いっぱいうれしさいっぱいの鏡也は、桃のお茶目なサプライズに思わずニマニマしてしまう。

 対する桃も日頃男の子と待ち合わせをして何かすると言う機会がないので、心なしか浮かれていた。


 だから、鏡也はすっかり忘れていた。


「って、あっ……(ヤベえ。今の俺、完全にいつものクソダサスタイルじゃん)」


 薄汚れた制服、ボサボサの髪、深い隈。

 元々鏡也はオシャレに頓着する方では無く、芸能活動をしているときに見た目がイケメンになっているのはコーディーネーターやメイクの力が大きい。と言うかほぼ全てである。


 対する桃も、同じようにヤバっと思う。


 今日の桃もオフモード。顔はすっぴんだし、服装も地味目の制服。髪も普通に寝癖を整えただけのストレート。


「「((幻滅されたかな))」」


 焦り、内心不安でいっぱいになる両者だが、お互いの普段の姿に関しては「オフの姿見れてラッキー」くらいにしか思ってなかった。


「あはは。ゴメンね? アイドルなんてやってるけど普段はこんな地味っ娘ちゃんなんだよね、私。幻滅したよね?」


「まさか。見てよ、今の俺を。完全にキモメンだからね。対して桃はオフでもちゃんとかわいいし」


「そ、そんなことないから! 普通に今のカガみんも格好良いからね!?」


 普段の鏡也がキモメンたらしめる理由は、そのダサいファッションもさることながら、誰ともしゃべらず一人で過ごしているという要因の方が大きかったりする。

 どんな不細工でも、明るくしゃべってればそれっぽく見える。

 別に素材は悪くない鏡也は、明るくしゃべれば髪ボサボサでもまぁ見れなくはないのである。


「……ま、まぁ? それは今の桃の美少女っぷりには敵わないけど?」


「いや、それはないね。カガみんの方が」


 と、意識している相手からの賛辞に舞い上がって、収拾が付かなくなるまで褒め合い合戦をしてから、そう言えばコラボ曲を作るために態々駅前で待ち合わせしたことを思い出した。


「そう言えば、コラボ曲どこで作るの?」


「それがゴメン! 今日使おうって思って予約してたスタジオが急遽機材トラブルを起こしちゃったみたいで……」


「それは……」


 運が悪いとしか言い様がなかった。だがしかし、カガミも桃も作曲は楽器や機材を触りながらじゃないと出来ないタイプなのだ。

 最低限、正確なメロディーが出せる楽器があれば作れなくも無いが


「で、でも! その……私の家なら、一応作曲出来る設備が最低限整ってるけど……嫌だよね」


「見たい! ……いや、迷惑じゃ無ければで良いんだけど、桃って自宅で世紀末シスターズの楽曲作ってるんだよね? 見れるものなら見てみたいけど……やっぱりダメかな?」


「いや、だ、ダメじゃない! それだったら私もカガみんの作曲環境とか見てみたいけど」


「別に良いけど、俺は未だにキーボードとパソコンの作曲ソフトだけで曲作ってるから設備としては不十分だと思うよ?」


 世紀末シスターズはアイドルと銘打っているが、どちらかと言えばちょっと奇抜なガールズバンドって印象がある。故にギターやベース、ドラムも使う。

 そもそも、鏡也の環境は一人用が前提だから今回は桃の家の方が適当かもしれない。


 両者はそう判断し、


「じゃあ、カガみんの家は今度にするね!」


「来るの!?」


「め、迷惑だった?」


「いや、来てくれるなら嬉しい」


 嬉しいけど、同級生の女の子。それもバチバチに意識しているアイドルで最近メール友達になった娘が家に来るって……。

 昨日、姉みたいな存在である撫子が来ただけでああだったのだ。


 桃が来たら、心臓止まるのでは? と思ったが、それ言ったら鏡也は今日その女の子の家に招かれているのだ。


「そう? じゃあ、行こっか」


 鏡也は桃の後を行く。

 鏡也は気付いてドギマギしている。でも、桃は気付かない。


 一緒に街を歩いて、一緒に桃の自宅へ向かう。


 そしてその道中、流石に桃も気付いた。


「(そ、そう言えば私、カガみんを家に招くんだ。ヤバい、どうしよう。男の子を家に呼ぶの、初めてだ……)」


 ただ、曲を一緒に作るだけ。こんなにドギマギして意識しているのは自分だけかもしれない。

 でも、片や特に女の子からの人気が高いミュージシャン。方やアイドル。変に恋愛感情を持ってしまったら週刊誌に取り上げられて、相手に迷惑が掛かってしまう。自制しないと。


 でも、自分だけ意識してんのって何かむかつく。


 そんな感情が鏡也にも桃にも、ほぼ同じタイミングで芽生えていた。


 鏡也はまるで意識していない風を装って冗談めかして訪ねる。


「そう言えば桃ってアイドルだけど、俺を家に招いたりして大丈夫なの? 週刊誌にすっぱ抜かれたりしない?」


「大丈夫。アイドルだけど、世紀末シスターズは別に恋愛禁止じゃ無いから。例えば、私とカガみんが付き合っても問題ないよ」


 キューッと顔に血が上っていく。


 鏡也は軽いジャブのつもりだったのに、気がついたら桃のカウンターパンチにノックアウトされていた。ヤバい。え、なにこの娘、もしかして俺に気があるの?

 そのレベルでドギマギしていた。


 対して桃は

 あー、なんで私こんな恥ずかしいこと言った!? なんで!? 馬鹿なの!? 自分のあまりにも思わせぶりな台詞に、スゴく恥ずかしくなる。


 両者ノックアウト。でも、桃の判定勝ち。

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