第9話 村田の能力

グラウンドは元いた世界のものと比べても遜色ないほどに綺麗で、丹念に植えられた芝が青々としている。

サッカーゴールと言ったよくある体育ようの備品は見当たらないが、その代わりに木製のマネキンのようなものがポツポツと置かれていて、木製の剣やら槍といったものが無造作に散らばっている。戦闘訓練以外の使用は想定されていないとでも言いたげだ。

試しに転がっていた剣を一振り手に持ってみたが、使い古されているのか所々修復したあとがあり、細かい傷が表面に付いていた。

剣のデザインはと言えば、ゲームなんかで力自慢とかパワータイプの戦士が持っていそうな大きな剣で、振りやすいようにするためか柄は長めで、滑り止めのためであろう何かの動物の皮がまかれている。


ただ、筋力ステータスのお陰か重さは全く感じず、新聞紙を丸めた剣でも持っているような軽さだ。これを片手にもう一振り持っても苦もなく余裕で振り回せるだろう。

何回か素振りをしてみるが、あまりの軽さに勢い余って何度も自分の足にぶつけそうになる。コントロールが難しい。

「なかなか難しいですね」

「うん? どれどれ、じゃあ俺の能力を披露しちゃおうかね」

「え……は、はい! お願いします!!」

「村田さぁん! ゴーゴー!」

すっかり忘れていたが、そういえば能力を見せてやるという事でついてきたんだった。正直にいえばもうどうでもいいのだが、おだてて最後まで付き合ってやる方が得策だ。

村田は得意げな表情でマネキンに向かって剣を構えると、目を閉じた。

「---演武剣聖≦クレスト・ウォーゲイム≧!」

その声を聞いた瞬間、頭の中で、カチッという音が鳴った。


村田の目の前にあったはずのマネキンの四肢が切り飛ばされていた。

なぜか、僕にはそのカラクリがわかった。その瞬間何が起きていたのかがわかった。ジンワリとした頭痛と共に、目が記録していたのであろう光景が、ゆっくりと脳内で再生されていく。あの瞬間、村田は木製の剣にある鋭利な部位……両刃の部分を使ってマネキンの関節と関節の繋ぎ目を寸分違わず切り飛ばしていた。理由が分かればなんてことはなく、筋力にものを言わせてただ高速で剣を正しく“弱点”に命中させていただけだ。

頭痛がどんどん増していく。それなのに比例するかのように思考は冴え渡ってクリアになっていく。これはまるで……。


「おーいお前くん、しっかりしっかり」

「う……うぅ……」

「まーた暴発か。まぁ長瀬も最初そうだったしな。多分似たような能力なんだろ」

ゆっくりとだが痛みが消えていく。モヤがかかったように思考は遮られていくが、ものの数分で痛みは消えた。……思えばこの世界に来てかな変な痛みを感じてばかりな気がする。候補生になった時もそうだし、今だってそうだ。

「すみません……でもなんで暴発なんて」

「んー……自分の能力を確認したか? ちゃんと」

「え? ステータスなら」

「あーいやそうじゃなくて。 さっき俺が見せたみたいな奴」

「そういえば………」

まだ確認していなかった筈だ。ステータス画面を開いて、自分の能力を確認する。


HP:200

レベル:20

残りボーナスポイント:0

身体ステータス

筋力:9 持ち上げることのできる重量の最大値

耐久:12 耐えることのできる衝撃の最大値反射神経の速さ

精神:1 精神的負荷への抵抗力の最大値

スキル:情報収束


「えーっと……-----? あれ?声が……」

「マニュアルくらい読めよなーお前くん。 えっとなスキルと能力は他人に教えられないようにロックがかかってんのよ」

「え、でも村田さんのは……」

「そりゃ俺が見られてもいいって許可したからだよ。お前くんもロック解除すれば俺に見せれるぞ」

『あーでも見せたくないなら別にいいぞ』と村田が続けたが、味方になって貰うには信頼が必要だろう。ここは村田と一緒に確認してやる。

村田みたいなタイプは頼られるとか、頼りにされてると思えると満足する奴が多いし。


「なんか不安なんで……一緒に見てもらってもいいですか」

「ん? いーよいーよ! 一緒に確認してやるよ」

思った通りだ。途端に得意げな顔で村田が覗き込んできた。これで見えようになった、ということだろうか。

「お。へぇーすげぇ面白い割り振りかたしたんだなお前くん。てか地味にボーナス最大値じゃん!? すげぇ」

語彙力が少ないのかやたらと『すげぇ』を連呼してくる。どうせならソレを見習って少しは語彙力をつければいいのに。


「能力は……情報収束? ですね。」

情報収束≦リゾニング・ライブラリ≧

・情報と経験を永続的に記録し(※自動発動)得た情報と記録を元に似たようなシチュエーションや現象に対する理解と対策を割り出す。

・任意の情報を脳内でメモとして蓄積し、任意で閲覧できる。

・集めたメモを集約することで、本を作り上げる。

・使用を重ねることで小さな証拠や情報から、真実を割り出すことが可能になる。

暴発1:本来使用を重ねることで獲得する割り出し能力が、発作的に発動する。

暴発2:収集した情報がランダムで連続的にフラッシュバックされ続ける。


まどろっこしい説明文ではあるが、簡単に言ってしまえば経験則や今までに得た知識から正しい答えや行動を導き出せる、と言うのが僕の能力か。

擬似的な絶対記憶能力とでも言おうか。元の世界でこの能力があればテストなんかじゃ大活躍だっただろう。

しかしだ、大きな問題がある。永続的に記録するとなれば、ショッキングなものを見たら忘れることができない訳だ。そして暴発2。

トラウマ映像を連続で見せられるなんて事になるわけだ。

「自分の能力を把握できれば、暴発の可能性は低くなりますよぅ、貴方さん」

「うわっ!? あ、あれ? 京子さん?」

「そう言えば居たな京子ちゃんも」

「…………」

「あちゃー。ダンゴムシみてぇに丸まってまぁ」

いじけている京子とりあえず放っておこう。そんなものよりもこの能力の使い道を考える方が大切だ。京子がいなくても僕の人生には損害はない。


「そろそろ日もくれるなー。 晩飯に行こうぜ」

「もうそんな時間ですか」

日は傾き始めていて、ゆっくりと一日の終わりが近いことを告げる。



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