第14話
「ゔぁー!!」
「…ゔぉ!!」
遠目にアンとウンがラージットを血祭りにあげているのをなるべく見ないようにしながら私は街で購入したサンドイッチを食べていた。レタスのシャキシャキ具合やハムの味は現実そっくりだがお腹がいっぱいにならないのがどうにも不自然に感じる。
サンドイッチを食べながら自分のステータスを確認してみると満腹度は80%まで上昇していた。どうやら腹八分目まで食べたらしい。
頼みの綱だった隊商の馬が暴れて三日、結局ドウへの道を閉ざされた私は泣く泣くラージットを倒して生計を立てながらドウへ自力で向かうために必要な物資をそろえていた。
モノからドウへは歩いて一週間でたどり着けるが、帰宅して課題を片付けてからゲームを始めるとなると確実に夕方か夜である。
視界の悪い夜道をモンスターに怯えながら一週間以上かけてドウへ向かうのはかなり難しい。
私は自力でドウへ行くのをあきらめ、ドウへ向かう馬車を探していた。だが、TWOの運営が上げたゲームのアップデートの記事によって状況は大きく変化した。
【アップデートver1.0.5】
ver1.0.5の変更点
・時間加速システムの実装
現実の一時間がゲーム内で24時間となり、今までゆっくり遊ぶことが出来なかったプレイヤー様も長くTWOの世界を堪能できます。
・『餓え、乾き』の実装
ゲーム内時間が進んだり、激しい運動をすると減少していく『満腹度』を実装いたします。『満腹度』が減少すると『飢餓』状態となって行動に制限がかかり、最終的に餓死してしまいます。各種食料系のアイテムを食べることで『満腹度』は回復します。
・その他細かい要素の追加,バグの修正を行いました。
これからも『Talent World Online』をお楽しみください。
この時間加速システムの実装によって現実時間で1日かければドウまで辿り着ける。もうすぐ夏休みだし一日中ゲームをできる日は恐らく確保できる。だけど、同時に実装される『空腹度』が実に厄介だ。
元々TWOはβ時代から『野菜スティック』などの食料系のアイテムや料理の才能の使い道といえば動物MOBに与えたり、お使い系の仕事で使う以外に出番がないほぼネタアイテムだったらしい。しかし今回の『餓え』の実装によって飢餓状態を避けるために旅の途中で食べる食料や調理道具も買わなければならない。そしてこれは元々ある要素だが『TWO』の食料系のアイテムは時間経過と共に腐敗していってしまう。
まあ、食べ物が腐っていくのは当然といえば当然なのだがこのアップデートによってゲーム内にある掲示板は良くも悪くも盛り上がった。現実世界では短時間でも濃厚なゲーム体験を味わうことができるが、限りある荷物の中に、しかも腐敗する恐れがあるためただ店に置いてある食料を大量に買い込んでも意味がない。
勿論それは私も同様で、装備を今着ている初期のものから更新したり、獣避けの道具とその他雑貨を準備すれば十分だったのが食料や調理道具を購入する関係でより準備にかかるお金が増えてしまった。
あの時馬さえ暴れなければ今頃馬車に乗ってのんびりドウへ行くことが出来たのに…。
「…ゔぉ」
考え事をしていると背後から声が聞こえたので振り返ってみると、ラージットの毛皮を渡そうとウンが立っていた
「あら、持ってきてくれたの?
ありがとう。」
「…ゔ、ゔぉ。」
毛皮を受け取ってウンの頭を軽く撫でてあげると、ウンは照れくさいのかそっぽを向いてしまった。
出会った当初は人見知りをしていたのか私を警戒するような目で見ていたウンだったがいつのまにか気に入られたのか自分の狩ってきたラージットの毛皮を渡してくれるようになった。
一方アンは…
「ゔぁー!!」
まるでバーサーカーのようにアイテム化したラージットには見向きもせず次の標的、また次の標的とガンガン攻撃しまくっている。
そのせいかアンの通り過ぎた場所には毛皮や耳(レアドロップ)が散乱して回収が大変そうだ
「もう、しょうがないな。」
私は道中のラージットのドロップアイテムを拾いながらアンを追いかけることにした。
「…ゔぉ。」
なんとなくウンの声が「手伝う」と聞こえた気がした。
「ゔぁぁ~。」
日も大分暮れてきたころ、明一杯身体を動かしたからか、それとも視界の範囲内に
「もう、あんまり離れすぎたらだめだからね?」
「ゔぁ~♪」
「…はあ、もう。」
聞いちゃいない。思わず私はため息が出た
しかし、今日だけで約100羽(厳密に言うとウサギではないからこの数え方だとおかしいかしら?)分のラージットを狩ることが出来たようだ。
ついこの前までラージットを仲間にしようとしていたのにこれだけ狩ってしまうと少し後ろめたい気がする…。
でもこれもテイマーの才能を手に入れて
明日も頑張ろう。
私はアンとウンを伴ってモノの街へ戻るのだった。
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