直線
「和臣、山田」
「どうした田中、やけに静かだな。食あたりか?」
「拾い食いはやめろよ」
期末テストの返却日、田中の赤点は2つに抑えられ、そのお祝いに田中と山田とラーメンに行くことになった。
「違う。よく聞いてくれ」
真剣な顔をして、声を抑えた田中。偽物の可能性が大きい。
「.......女子を夏祭りに誘う方法教えて」
「「おつかれー」」
山田と2人でラーメン屋に入る。ここら辺にはこの店ともう1つ、唯一のメニューが海鮮ラーメンという邪道の店がある。俺は醤油ラーメン以外を認めない。
「和臣、お前また醤油か?」
「山田だっていつも豚骨じゃん」
「まてえぇぇぇえいっ!!」
うるさい田中が味噌ラーメンを頼みながら席につく。本物のようだ。
「真剣に聞いてんだよ!」
「和臣、七味取って」
「あいよ」
「聞けよ!! 俺史上最大の挑戦なんだよ!」
「普通に誘えよ、この日空いてるか?って」
「山田みたいに余裕がねぇんだよ! 俺が聞いてもキモイ感じがでるだろ!?」
「「否定はしない」」
「.......そこは否定しろ.......」
「じゃあ逆にどうやって誘うんだ? もう何も言えないだろ」
「だから聞いてんだろおお!!」
ラーメンが伸びない内にすする。もう数え切れないほどここのラーメンを食べた。だが醤油以外は食べたことはない。
「和臣! お前水瀬誘う時どうしてんだよ!」
「そりゃ....... あれ? 良く考えたら遊びに誘った事ないぞ?」
花見の時は姉が声をかけていた。
「「え?」」
「ていうか2人で遊んだ事.......ある.......のか?」
京都の観光は遊びに入るのか。あの時は楽しさより焦りが強かった。
「お前.......付き合ってんの? やっぱり幻覚?」
「現実で付き合ってる。葉月と」
「イラつくーー!! って今はそうじゃない! 俺の夏がかかってんだよー!! どうすりゃいいんだ!」
「なんでもいいから声かけろ。そうじゃなきゃ始まらないだろ」
山田と田中が、というか主に田中がぎゃあぎゃあと騒いでいる横で、俺はじっと考える。
葉月の浴衣.......何がなんでも見たい。逆立ちしてでも見たい。
「田中、夏祭りっていつ?」
「8月のはじめ.......ってお前まさか」
「あ、予定空いてる。誘うか」
「イラつくーー!! い、イラつくーー!!」
「田中、落ち着け。和臣が誘えるんだ、お前にだってできるさ」
「山田.......」
「なんでそこで友情確かめあってるの? 俺は今けなされたの?」
ラーメン屋から出て目的もなく歩く。遊具も何も無い公園の日陰で、割とどうでもいい話を聞く。
「やっぱりメールで誘うしかないと思うんだ。でもどう足掻いても文面がキモイんだよ!」
「なら今誘えよ。見ててやるから」
「俺も葉月今誘おー」
「イラつくーー!! 和臣、覚えてろよ!」
「おー。早く彼女作れよー」
「〜〜!」
田中が黙って公園を走り出した。3周したところで戻ってきて、山田が田中の携帯を取り上げる。
「ほら、今打て。早い方がいいだろ?」
「.......」
田中が黙々とメールを打つ。俺も葉月にメールを送って、田中の携帯を覗いた。
「.......「8月、もし暇でしたら僕とお祭りに行きませんか? 本当に暇でしたらで大丈夫です。」.......これ、誰?」
「う、うるせぇー! 女子にどう送ればいいんだよ!」
「田中、携帯かせ」
山田が携帯を受け取った瞬間。
「送信。良かったな田中、これでお前の挑戦はクリアだ」
「ぎゃああああああああ!?」
田中が携帯をひったくって走り出した。
「山田、ナイス」
「絶対に断られないのに何をグダグダやってるんだろうな、あいつ」
ぐるぐると公園を走る田中がピタリと止まったのは10分後。
「なんだ? 熱中症か?」
「バカだなー」
田中に駆け寄れば。
「き、きた.......」
携帯には、「私で良ければ、楽しみにしています。誘ってくれてありがとう」と書いてあった。
「やったじゃん。川田OKだってさ」
「.......」
「もう告れよ、両思いだってこれ」
「.......」
「「.......田中?」」
田中は全くの無表情。本気で死んだかと思った瞬間、ニヤつき始めた。
「きたーーー!! 俺もう死んでもいいーー!!」
「うるさい奴だなー」
田中はまたぐるぐると公園を走り始めた。
「山田、帰ろうぜ」
「.......そうだな。エネルギーを発散させないと家にかえれなそうだもんな、あいつ」
田中に祝杯として自販機のジュースを投げつけて、家に帰った。
「和臣、父さんが呼んでたわよ」
「.......庭の盆栽落としたのバレたかな?」
「やっぱりあんただったか! ちゃんと謝りなさい!」
カバンを置いて父さんの仕事部屋に行く。
「父さん、盆栽落としてごめん。肘が当たっちゃったんだ」
「.......和臣、入る前に声をかけなさい。あと、やっぱりお前か盆栽は!」
「あ、ごめん。入るよ」
部屋に入って父さんの前に座る。今回は俺が全面的に悪いので大人しく説教を受けよう。
「父さん、あの盆栽気に入ってたのに.......。ってそれは後だ。和臣、明日なんだが」
「明日? 葉月の特免試験だけど」
葉月は脅威のスピードで実力をつけている。ゴールデンウィークで呪術もある程度覚え、もう特免を取りにいくのだ。師匠はもういらないだろう。
「ああ、そうか.......すごいな、あの子は。それじゃあ、丁度いい」
「どうしたの?」
「明日、孝臣に見てもらいなさい」
「何を?」
「.......お前の報告書、短すぎだ。なんだ「特になし」って。何かあるだろう、会議でまわってきた時恥ずかしかったぞ」
「.......あー」
覚えがある。この間の報告書、期末テストと被って5分で書き上げたのだ。まさか当主の会議で読まれるとは。
「それは、その」
「静香とどっちがいいんだ」
「兄貴に教えて貰ってきます!」
急いで立ち上がろうとしたところ、盆栽の件でさらに説教された。ふて寝してやろうと部屋に行けば、葉月からメール。
「.......「行く」って、短。.......ふふ」
田中顔負けの気持ち悪さで夕飯を食べ、妹にストレートに「気持ち悪い」と言われた。
ストレートに泣いた。
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