第11話

 目の前に突如として現れた絶望を前に僕は思わず膝をついてしまった。今まで味わったことのない命の危機‥‥一歩でも動けば殺されてしまうと体が認識してしまい全身から力が抜け指一本たりとも動かせなくなってしまった。

 そんな僕にエンシェントドラゴンはその大きな厳つい顔を近づけて再び口を開いた。


「そんなに怯えるでない。何も今すぐに取って喰おうというわけではないからのぉ。まぁ、それも小娘‥‥お主の返答次第じゃがな。‥‥‥では改めて問おうお主‥あの亡骸に何をしようとしておった?」


「‥‥ぼ、僕は。」


 この時僕は本当のことを言うかとっても悩んだ‥‥。だけど嘘を言ってもすぐに見抜かれそう、このエンシェントドラゴンの深紅の瞳を見ているとどんな小さな嘘でも見抜かれてしまいそうに思えてくる。


「僕はあの時‥‥あのグリーンドラゴンのスキルを奪おうとしてたんだ。」


「ほう?スキルを奪うとな。興味深い‥‥もちろん詳しく聞かせてくれるんじゃろうな?」


「は、話したくないって言ったら?」


「その時は‥‥お主を頭から一飲みにしてくれよう。」


 エンシェントドラゴンはにんまりと笑うとピンク色の大きな舌でペロリと僕の顔を舐めてきた。こんなところで食べられてはたまったものじゃない。あんまり話したくはないけれど‥‥どうやら僕のことを正直に話す必要があるみたいだ。

 死にたくない一心で僕は話したくはない自分の素性をエンシェントドラゴンに伝えた。


「なるほどのぉ~そういうわけか。そういうことであれば儂が口を出すのは野暮というものじゃ。邪魔したの。」


 い、意外と話を分かってくれた?まさか話を分かってくれると思っていなかったから、少しきょとんとしているとせかすようにエンシェントドラゴンは言ってきた。


「ん?なんじゃ?お主、早くそこの骸からドレインとやらでスキルを吸収したらどうじゃ?」


「あ、う、うん‥‥。」


 エンシェントドラゴンに促されるがまま僕はグリーンドラゴンの死体に近づき、額に手を当てた。


「ど、ドレイン。」


 スキルを使った瞬間に強い力が僕の中に流れ込んでくるのがわかった。今まで吸収してきた時にはなかったすごい感覚‥‥ドラゴンという存在の強さというのを改めて感じさせられる。

 そして僕がドレインを使っているのを傍らでエンシェントドラゴンが少女の姿に戻って興味深げに眺めていた。


「ほぉ~?ほぉ~?これはなかなか面白いのじゃ。」


 グリーンドラゴンのスキルやステータスを吸収し終えた僕にエンシェントドラゴンはある質問を投げかけてきた。


「のぉ小娘、もしお主がこれから先‥‥いろいろな魔物のスキルを吸収し続けたら妾の域まで力を伸ばすことはできるかの?」


「う、うん‥‥できると思う。あ、あと僕は女の子じゃなくてこう見えてお、男なんだけど‥‥。」


 彼女の問いに答えながら自分が女の子に見られていることを訂正するように言うと、突然彼女にものすごい力で肩を掴まれた。


「お主がオスじゃと!?こんな可憐な姿でこんなにも華奢な体をしておるのにか!?」


 彼女は驚きながら僕の体を隅々まで触り始め、ついに彼女の手が僕が男という象徴部分である股間の部分に触れた。


「あうっ‥‥」


「ま、まことにオスの生殖器がついておる。し、しかもこれはなかなか立派な‥‥」


 少し顔を赤らめながら彼女は感触を確かめるように何度も股間を揉みしだいてくる。


「も、もうわかったでしょ!!」


 これ以上はやばいと僕は力を振り絞って彼女を突き放す。


「くっふふふ‥‥これはこれは良い巡り会いをしたのじゃ~。」


 突き放された彼女は再びこちらに歩み寄ってくると恍惚な笑みを浮かべ僕の目を真っすぐに見つめてくる。そして次の彼女の一言に僕は人生で一番自分の耳を疑った。


「お主、妾の番いになってはくれんかの?」

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