第10話
峡谷を抜け、僕の前に現れたのは草木一つない広大な大地だった。その大地のいたるところから龍脈水晶と呼ばれる黄色い水晶が突き出ている。一見見た目はきれいだけど、あの龍脈水晶は龍脈のエネルギーを吸収しているからこそ黄色くきれいに輝いている。
仮にあれをここから持ち去ろうとしたなら、龍脈のエネルギーがなくなったと同時に瘴気を放ち始めるのだとか‥‥。
「瘴気に侵されるのはごめんだからそっとしておこう。」
足元から生える龍脈結晶をただ眺めるだけにとどめ、僕は龍脈の大地の奥へと歩みを進めた。
それからしばらく歩いていると洞窟を見つけた。
「確かグリーンドラゴンって休む時に穴を掘って休むって言ってたよね‥‥もしかしたらこの穴もそれなのかな?」
前に聞いた知識を思い出していると、その穴からドスン‥‥ドスンと大きな足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。
とっさに近くの岩陰に隠れ息をひそめながら洞窟の方の様子をうかがっていると、その洞窟から全身がキラキラと輝くエメラルドのようなきれいな緑色の鱗に覆われた一匹のドラゴンが現れた。
‥‥運がいいね。こんなに早くグリーンドラゴンと遭遇できた。これなら早めに帰れそう。
腰に差していた短剣を音を立てないように引き抜き逆手に持つ。そしてギリギリまでグリーンドラゴンがこっちに近づいてくるのを待った。
あの鱗の上からは攻撃は通らない。狙うは唯一鱗に覆われていない柔らかいお腹。今あるスキルをフルに使って一撃で仕留める。
脚力強化、腕力強化、剛刃‥‥
自身に強化系のスキルを使いバフをかける。するとついにグリーンドラゴンが僕の目の前を通り過ぎようとしていた。
その瞬間を待っていた‥‥と岩陰から飛び出し短剣術の奥義スキルを使う。
「短剣術奥義 一瞬閃戟」
奥義を使った瞬間世界がすべてスローモーションのように遅くなった。その中で自分だけが普通のスピードで動くことができる。ただしこのスローモーションの時間はほんの一瞬‥‥この間に決めるっ!!
地面を蹴り、スライディングしながらグリーンドラゴンのお腹の下に潜り込み、逆手に持った短剣を一閃。ピッとグリーンドラゴンのお腹に赤い筋が入りゆっくりと血が噴き出してくる。そこに追撃で短剣を逆手から持ち替え心臓へ向けて思いっきり突く。
短剣の先から僕の手にドクン‥ドクンと鼓動が伝わってくる。間違いなく届いた。
致命傷を与えたことを確信した僕はすぐにお腹の下から飛びのく、それと同時にスローモーションの世界が終わりをつげる。
その瞬間グリーンドラゴンが断末魔の悲痛な叫びをあげながら地面に伏した。
「っふぅ~‥‥何とかいつもの必勝パターンで勝てた。後は討伐証明部位と使えそうな素材をはぎ取ろう。」
最後にドレインするのも忘れないようにしないと、このグリーンドラゴンはきっといっぱいスキル持ってるからね。
「えっとドラゴンの討伐証明部位は‥‥確か角だったかな?」
バッグの中から魔物の角などを切る専用の糸鋸を取り出してゴリゴリとグリーンドラゴンの角を切る。改めて切ってみて感じるドラゴンっていう魔物のすごさ‥‥今まで切ってきたどの魔物よりも硬くて、こう‥‥なんていうんだろう?すごい生命力にあふれてる。
切り取った角をバッグにしまって僕はドラゴンの額に手を当てた。
「ドレイ‥‥」
そしていつものようにドレインを使おうとしたその時‥‥ぽんぽんと肩をたたかれ後ろから声をかけられた。
「小娘、お主いったい何をしておるのじゃ?」
「~~~~っ!?だっ‥‥誰っ!?」
突然後ろから声をかけられ、驚きその場から飛びのく。そして声をかけられた方向を見るとそこには一人の赤髪の少女が立っていた。
「お、女の子?」
いや、違う‥‥。
よく見てみればこの女の子こんな危険なところに武器すらも装備してきていない。何かとても嫌な予感がした僕は腰に差していた短剣に手をかけようとした。が、差していたはずの短剣はそこにはなく少女の手の中にあった。
「お主が欲しいのはこの玩具かの?むっふっふ♪」
「い、いつの間に‥‥。」
冷や汗が一つ僕の頬を伝う。ヤバい‥‥兎に角この娘は危ない気がする。今までの経験から少女への警戒心を高めていると、ゆっくりと少女はこちらに歩いてきて再び僕に問いかけた。
「のぉ~?それで、さっきお主は何をしようとしておった?
少女の言葉の中で違和感を感じたものがある。僕は思わずそれを口に出してしまった。
「い、いま‥‥自分を龍種って‥‥」
「そうか、この姿ではわからんのも無理はない。ではこれならば‥‥」
メキメキと音を立てて目の前の少女が恐ろしい何かに豹変していく。あっという間に少女の面影など無くなり、僕の前には深紅の鱗を全身に身にまとったドラゴンが現れた。
グリーンドラゴンとは比較にならないほどの圧倒的な強さと威圧感がビシビシと僕の肌を通して伝わってくる。
そして完全に変身を終えた赤いドラゴンはその宝石のように真っ赤な目でこちらを見つめ、口を開いた。
「こうすればわかるかの?ん?」
そう問いかけてきたドラゴンに僕は答えることができなかった。‥‥いや、体をどこも動かすことができなかった。なぜなら目の前にいるドラゴンが‥‥
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