第9話
駆け足で家へと戻り、さっそく僕はお父さんとお母さんの二人に依頼のことを話した。すると二人は意外にも僕の意志を突っぱねることはしなかった。
ただし一つだけ約束するように‥‥と条件を出されてしまう。
「絶対無事に戻ってくるって約束できるかい?」
「うん、絶対‥‥絶対に戻ってくるよ!!だから美味しいごはん準備して待っててほしいな?」
「おう!!まかしとけっ!!」
「あんたが作るわけじゃないんだから威張るんじゃないよ!!ったく‥‥調子いいんだから。」
調子に乗るお父さんの頭をお母さんが軽くたたく。そして大げさに痛がるお父さんを僕らが笑う。いつもの光景‥‥。この光景を失わないためにも僕は必ず戻ってくる‥‥絶対に。
再び自分の中で固く決意をし、僕は龍脈の大地へと向かう準備を始めた。バッグに数日分の水、そして携帯食料その他もろもろを詰め込み背中に背負う。これでもし長期戦になっても大丈夫‥‥ってまぁ最悪大地から直接生命力とかを吸い上げてれば何も問題はないんだけど、ご飯がなくなるっていうのは気持ち的にだいぶ来るものがあるからねっ。
「さてとっそれじゃそろそろ行こうかな。」
「気を付けて行ってくるんだよ?」
「お祝いの準備はしとくからなっ!!ぜって~無事に戻ってくんだぞ!!」
「うん!!」
二人に背中を押され僕は龍脈の大地へグリーンドラゴンを討伐するため出発したのだった。
◇
街を出てずっと東に進んでいるとだんだん木や草がなくなり始め、ごつごつとした岩が多くなってきた。それからさらに進むと目の前に大きく二つに割れた峡谷が現れた。ここを抜ければ龍脈の大地に着く。
「うわぁ‥‥噂には聞いてたけど、すっごい怖いな~ここ。」
この龍脈の大地へと抜ける峡谷はいろんな嫌な噂がある。ここで落石で死んだ冒険者の幽霊が出る~とか、ここはそういう怖い噂が尽きない。
ここに来て初めてわかる。ここは怖い‥‥そういううわさが尽きないのも納得できた。
「うぅ、そういうのは苦手だけどここを抜けないと龍脈の大地には行けないし‥‥っよし、行こう。」
自分を奮い立たせ峡谷へと踏み出す。峡谷の中は静かで太陽の光もあまり届かないから薄暗くて肌寒い。
正直こういう場所は嫌い、あの洞窟を思い出すからね。
「‥‥やっぱり嫌だなぁ、はぁ~帰りもここを通らないといけないなんて気が滅入っちゃうよ。」
できるなら明るいうちにここを通って帰りたいけど、相手はグリーンドラゴンだし‥‥上手いことドレインできればすぐに勝負は着きそうだけど、そう上手くはいかないってことは冒険者になって嫌というほど学んできた。
若干鬱気味な気分になりながら歩いているとあっという間に峡谷の出口が見えてきた。
「あ、出口‥‥意外とここ短かったんだ。」
ここから出れば多少は鬱気味な気分も良くなるはず。そう思い、少し駆け足で歩き始めた次の瞬間‥‥。
「ッ!!」
ガラガラと音をたてて上から大きな岩が僕の前に落ちてきた。唯一幸いだったのは僕に当たらず目の前に落ちてくれたこと。そして不幸だったのは‥‥この岩が魔物であるということ。
落ちてきた岩はクルリと丸まっていたロックリザードだった。丸まっていた状態から四足歩行の状態に変化すると、その蛇のような目を僕に向けてきた。
「避けて通れそうにはないかな、グリーンドラゴン戦が控えてるからあんまり消耗はしたくなかったんだけど‥‥仕方ないね。」
腰に差していた愛用の短剣を抜き、ロックリザードへ向けて構える。
確かロックリザードの弱点は柔らかいお腹の部分と関節、できればドレインしてスキルとかを奪いたいから狙うは‥‥関節だね。
「行くよ‥‥脚力強化」
スキル脚力強化を使い、ロックリザードへと一気に詰め寄り躊躇なく短剣を関節へと向けて振り下ろす。
一度硬い皮膚に押し返されそうになるが続けてスキルを使い無理矢理刃を通す。
「剛刃ッ!!」
ロックリザードの右前足の関節に短剣がゴリッ‥‥という音をたてながら突き刺さり、関節を切り離す。
これで片方の前足は使えなくなった。後は左前足と後ろ足だけ。
「どんどん行くよっ!!」
そして続けざまに残った足の関節も短剣で切り離すと、ロックリザードはペタリと地に腹をつけて動かなくなってしまった。
「ふぅ‥‥さて、それじゃ君が持っているもの全部貰うね。」
動かなくなっているロックリザードの額に手を当てた。
「ドレイン。」
僕の手を通してロックリザードのスキルやステータス等が流れ込んでくる。そして何も流れ込んでこなくなると、もう既にロックリザードは皮だけの状態になっていた。
「えっと鑑定、鑑定‥‥っと。ん~‥‥いつも通りステータスは上がってて、スキルは土魔法のスキルレベルが1上がっただけかぁ~。」
鑑定で自分のステータスを確認するとステータスは良い感じに上昇しているが、スキルは土魔法のレベルが1上がっているだけだった。
「ちょっと期待はずれだったかな。まぁでもこの皮はギルドで売れそうだから持って帰ろっと。」
その場に残ったロックリザードの皮をバッグにしまった後、僕は峡谷を抜けいよいよ竜脈の大地へと足を踏み入れるのだった。
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