第7話

 家への帰り道を歩いていると、空からぽたぽたと雨粒が零れ落ちてきた。本当なら濡れたくないから急いで帰りたいはず‥‥なのに足が重くなかなか前に進みたがらない。

 重い足を引きずりずぶぬれになりながらもなんとか家の前に着いた。


「‥‥ただいま。」


 扉の前から中へとむけてそう声をかけるとガチャリと扉が開きお母さんとお父さんが出迎えてくれた。


「プラムお帰り‥‥ってずぶ濡れじゃないかい!?風邪ひくから早く着替えなよっ!!」


「うん、着替えてくるよ。あと‥‥ごめん少し一人にしてもらってもいいかな?」


 心配してくれている二人に一人になりたいとだけ告げ、僕は一人自分の部屋へとこもった。濡れた服を脱ぎほぼ半裸の状態で大きな鏡の前に立つ。


‥‥僕の本当のお母さんもお父さんもこんなに髪は白くなかったなぁ。


 鏡に映る自分と本当の両親の体を改めて比べると全然似ていないことに気が付いた。髪は白くないし、眼はこんなに赤くない。それに僕の身長はいつまでたっても伸びないのに、二人とも背が高かった。


「これも呪いのせい?それとも‥‥」


 本当の両親は別にいる?と一瞬考えたがそんなはずはないと首を振る。だってあの生き残りの人たちの記憶にもあの二人が僕の両親だって深く刻まれていた。

 鏡に映る自分とあの二人を見比べていると、コンコンと部屋の扉がノックされた。


「あ~‥‥プラム?」


「お父さん‥‥どうかしたの?」


「いや、ただ謝りたくてな。お前が辛い想いをしてんのに何の力にもなれなくて‥‥本当にすまない。」


 扉の向こう側で謝るお父さん‥‥。なんで謝っているのか‥‥理解ができない。お父さんたちは十分僕の力になってくれている。だから謝る必要なんてないのに。

 そう思っているとお父さんは続けて言った。


「プラム、もし悩みとかそういうのを打ち明けたくなったらいつでも声をかけてくれ。俺たちは下にいるから‥‥。」


 お父さんはそれだけ言うと下の階へと下がっていった。


「‥‥相談したほうがいいのかな?でもこれは僕の問題だし‥」


 だけど、二人は相談してくれるのを待ってるのかな‥‥。相談したらこの気持ちは晴れるかな‥‥。

 少なくとも今ここで悶々としているよりはいいの‥‥かな。


「少し‥‥話してみようかな。」


 乾いた服を着て、僕は静かに部屋の扉を開けて二人が待っているであろう下の階へと歩いていった。

 そして階段を下っていると下の階の食堂の灯りが点いている。どうやらお母さん達はそこにいるみたい。灯りの点いている食堂の方へと歩いていくと、テーブルで向き合い話し合っている二人がいた。こっちにまだ気がついてないみたいだから、僕は気付いてくれるように二人の事を呼ぶ。


「お父さん、お母さん?」


「っプラム!!少し‥‥落ち着いたかい?」


「うん。それで‥‥ちょっと僕の話を聞いてくれるかな?」


 そう聞くと二人はコクリと頷き、一緒のテーブルに座るように促してきた。

 促されるままお母さん達の座っているテーブルの椅子に座り、僕は本当の両親に会ってきたことを話した。そして僕が必要とされて産まれてきたわけではなかったことも‥‥。


「‥‥‥そうか。本当の両親に会ってきたか。」


「うん、それでその二人に聞いたら僕が呪いをもってなくても大切にしてくれないって‥‥結局僕は望まれて産まれてきた訳じゃなかったみたいなんだ。」


 二人に話しているとだんだんと胸が熱くなってきて、自然に眼から涙がポロポロとテーブルに零れ始めた。

 僕の話を一通り聞き終えた二人は凄く悲しそうな表情を浮かべていた。そして少しの沈黙の後お母さんが話し始める。


「‥‥プラム。確かに本当の両親にお前は必要とされていなかったのかもしれない。だが、俺達はお前が必要だ。お前がいない生活なんてもう考えられないし、考えたくもない。」


「だから‥‥だから、自分が必要とされてない‥‥とかそんな悲しいことを思わないでくれないかい?」


「‥‥僕は‥‥僕は‥‥お母さん達にとって必要な存在なの?」


 そう問いかけると二人は強く‥‥強く頷いた。その瞬間僕の心にずっとつっかえていた何かがポロリと取れて無くなり、心が、気持ちが一気に軽くなった。


「そっか‥‥僕はここにいていいんだ。‥‥ありがとう、っ!!」


 この日‥‥本当の意味で僕達は家族として繋がった気がした。僕の家族はこの二人‥‥。今はそれでいい。

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